【岡部恭英】放映権、中国…現在はスポーツビジネスの転換期だ

2016/10/11
オリンピック、W杯を筆頭に、スポーツは巨大なビジネスへと成長。「スポーツビジネス」という仕事は、今や、世界中で憧れの「ドリームジョブ」となっている。では、世界最先端のスポーツビジネスはどのようなものなのか。どのような仕事内容なのか。NewsPicksは、岡部恭英氏、斎藤聡氏、塚本拓也氏という国際的にスポーツビジネスの分野で活躍している3人を招いたトークセッションを大手町で実施した。セッションの内容を全5回でリポートする。

TEAMマーケティングとは

TEAMマーケティングの岡部恭英です。TEAMマーケティングは、UEFA(欧州サッカー連盟)のマーケティング・エージェンシーで、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグに関わる商業面を独占的に扱っております。
チャンピオンズリーグは、世界で最もハイレベルな大会と言われています。なぜなら世界中から優秀な選手、監督が集ったヨーロッパのクラブのチャンピオンを決める大会だから。参加しているチームは、バルセロナ、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッドなどが有名ですね。
1991年にTEAMは創立され、1992年からUEFAと共に、チャンピオンズリーグのビジネスを行っております。
私はそのTEAMでチャンピオンズリーグの放映権、スポンサーシップを扱っており、アジアパシフィック、オセアニア、中東、北アフリカのセールス責任者をしています。
このチャンピオンズリーグの話をすると、私のビジネスのコンフィデンシャルな部分に関わってしまいますので、今日はそれ以外、私がスポーツビジネスに関わる際に大事と考えていることを話します。

スポーツビジネスの5つの波

まずはスポーツビジネスにおける5つの波の話から。これは過去にNewsPicksの連載でも書いたことがあります。
放映権の歴史を振り返って、個人的な見解で大まかに分けると、5つの波があります。まず「第1の波」は看板広告モデルです。
もともとスポーツマーケティングにおいて放映権はほぼ無料に近かった。そのときの主な収入源が何だったかというと、ピッチ横に置かれたスポンサー看板セールスでした。
たとえばW杯の放映権を地上波のTV局に無料で渡し、画面に映る看板広告の対価としてスポンサーからおカネをもらっていたわけです。
まさにFIFAのアベランジェ前会長の頃までの戦略がそうで、なるべく多くの人に試合をTVで見てもらうことを目指していました。
ただしその後、放映権をTV局に売れば、巨大な収入を生み出すのではないかと気がついた人たちが出てきた。つまり五輪やW杯の放映権を、地上波のTV局に売り出すのですが、それが「第2の波」です。
「第3の波」はペイTVの発展です。プレミアムなスポーツのライブコンテンツを独占すると、有料放送ビジネスがうまくいくことをルパート・マードックなどが発見しました。
マードックが率いるBスカイB(ブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング・グループ)は、イングランド・プレミアリーグの放映権を手に入れて大成功しました。その頃を境に、ペイTVが巨額の放映権料を払うようになりました。
続く「第4の波」が、現在進行中の電話会社の参入です。
2013年11月、ブリティッシュテレコム(BT)が、2015年から2018年までの3シーズンのチャンピオンズリーグおよびEL(UEFAヨーロッパリーグ)の放映権を独占で獲得しました。
イングランドではBスカイBが放映権を持っていたのですが、それがBTに移ったということです。電話ビジネスによる安定かつ巨大な収入を持つ電話会社が参入したことは、BスカイBにとって脅威だったに違いありません。
それが影響したのが、昨年2月に発表されたプレミアリーグのディールです。
BTや他社の入札参加によって放映権料が約7割も高騰し、2016年から2019年までの4年間のプレミアリーグの放映権料は51億ポンドになりました。約1兆円(注:当時の為替レート)というとてつもない額です。
BスカイBの独占に近かったイギリスの放映権で、初めてビッグなコンペティターが現れた。それがBTなわけです。
さらに近未来に起こるかもしれないのが、巨大インターネット企業の参入です。それが「第5の波」です。
誰が重要なプレーヤーになるかはわかりません。アメリカのグーグル、ユーチューブ、フェイスブック、アマゾン、ネットフリックスなのか、それとも中国のテンセント、アリババ、バイドゥなのか。
これまでTV、インターネット、モバイルで世界が分かれていましたが、だんだんその垣根がなくなってきた。近い将来、ハードウェアとソフトウェアがさらに進化して、巨大インターネット企業を含むメディア業界のコンバージェンス(収束、集中)が加速するでしょう。
最近話題になったパフォームもこの中の企業群のひとつです。
岡部恭英(おかべ・やすひで)
1972年生まれ。スイス在住。サッカー世界最高峰CLに関わる初のアジア人。UEFAマーケティング代理店、TEAM マーケティングのTV放映権&スポンサーシップ営業 アジア&中東・北アフリカ地区統括責任者。ケンブリッジ大学MBA。慶應義塾大学体育会ソッカー部出身。夢は「日本が2度目のW杯を開催して初優勝すること」。昨年10月からNewsPicksのプロピッカーとして日々コメントを寄せている。

Jリーグとプレミアリーグの差

次に日本とイギリスのプレミアリーグがなぜあれだけ差がついているのかについて話しましょう。Jリーグとプレミアリーグの国内の放映権は、パフォームのディール発表前時点では、なんと50倍以上もの差がついていました。
Jリーグが出来たのが1993年、プレミアリーグが1992年とたったの1年違いです。しかも、その時の収入はJリーグの方が大きかった。では、なぜいまはこうなってしまったのか。
それは、先ほど説明したような5つの波にうまくJリーグは乗れなかったからです。
また、プレミアリーグがインターナショナルということも大きい。プレミアリーグのオーナーを見ても、英国人以外が半分を占めています。でも、Jリーグのオーナーには日本人しかいません。
タレントも違います。そのタレントというのはピッチ上だけではなく、働いている人間や経営者のことも示しています。
要するにプレミアリーグというのはイギリスのリーグではあるけども、グローバルな舞台でやっているリーグであり、世界中からタレントが集まってくるわけです。
ゆえに人材もお金も経営もパイが大きい。しかし、Jリーグは残念ながらまだまだドメスティックです。
ただ、この状況はある意味チャンスと言えます。Jリーグは発足当時の20年前は頑張っていましたが、今はそこまでチャレンジしているかは疑問です。

中国のスポーツ産業

次に最近のスポーツビジネスを語るにあたって外せない中国について説明します。
NewsPicksの2016年大予測にも書きましたが、2014年末に習近平が10カ年計画で、2025年までに80兆円ぐらいのスポーツ産業を作るとアナウンスしました。
するとそれに呼応した地方政府のスポーツ産業の計画が、もう80兆円どころか100兆円を超えています。
100兆円というとものすごい額です。GDPに換算すると台湾やタイに並ぶほど。これぐらいの巨大なスポーツ産業を今、中国でも作ろうとしている。一方、今日本のスポーツ産業は5.5兆円です。文字通り桁が違いますね。
他にも中国ではチャイナ・メディア・キャピタル、ワンダ、アリババといった企業が積極的にスポーツに出資をしています。
特にアリババはすごい。クラブワールドカップのスポンサーシップ、そしてサッカークラブの広州恒大を買いました。クラブワールドカップが、今後中国に移るといううわさもまことしやかに流れています。
その広州恒大は過去3年で2回、アジアチャンピオンズリーグでチャンピオンになっています。一方、Jリーグは2008年からアジアチャンピオンズリーグでは1度も勝っていない。
このような事例を見ると、現在はスポーツビジネスにおいて転換期であると言わざるを得ません。

今後はチャンスが来る

こういった話をすると「神聖なるスポーツでカネの話をするな」と言う人が出てきますが、とんでもないです。
僕ら(TEAM)がなぜ存続できたかというと、ヨーロッパの各クラブが望むお金をUEFAがずっと払い続けられたから。すなわちそれはパートナー(放送局やスポンサーなど)が貢献してくれているということです。
今のグローバルなスポーツビジネスの中において、おカネは絶対に欠かすことができません。ビッグスポーツに関わる人は、どうすればうまくお金を回せるかをどんどん考えてほしい。
このように厳しい話をしましたが、私は日本のスポーツの今後については全くネガティブに考えていません。
日本では2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピックと立て続けに大きなスポーツイベントがあります。こんなチャンスはそうそうないです。
後々の塚本さんのプレゼンテーションでも話が出るかと思いますが、このような世界に冠たる大きなスポーツ大会は、世界規模で「人・物・金・情報」が動く素晴らしい「プラットフォーム」ですので、この機会をぜひ皆さんに活かしてほしいと思います。
(構成:上田裕)