【青木真也×横山由依】負けを価値に変える、それが腕の見せ所だ

2016/10/9
AKB48グループの2代目総監督を務める 横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回のゲストは格闘家の青木真也さん。自らを「運も才能もない凡人」と語りながらも、 総合格闘技の世界チャンピオンとして、第一線で活躍し続けている。早大卒、元公務員。異色の格闘家の哲学と、強さの源泉を聞く。

「好き」と「得意」は違う

――青木さんの著書『空気を読んではいけない』を拝読すると、横山さんとはタイプ的にずいぶん違うところもあると思います。青木さんは格闘家としても異端の存在として知られています。
青木 僕は体の力が強いほうではないし、存在感があるタイプでもない。他に才能のある人間がいっぱいいるから、王道では勝てないんです。
だから「弱者の戦術」といった感じで、合間合間をうまく狙うやり方で戦っているんです。
横山 格闘技は、もともと好きだったんですか。
青木 はい、好きでした。「好き」と「得意」は違うんですよね。はじめは柔道をやっていたのですが、好きだけれども、得意ではありませんでした。
一方、格闘技は好きで、しかもわりと得意だった。だから続いているんだと思います。好きなことと得意なことがちぐはぐな人が多いですよね。
それが一致するものを見つけられたら、勝ちだなと思います。
横山 前回、一橋大学の楠木先生との対談でも「好きか嫌いか」の話になりました。青木さんは「好き」で「得意」なことを見つけられたんですね。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に
青木 横山さんは、今の仕事は得意ですか。
横山 仕事は大好きです。でも得意かというと、どうでしょう。好きだからやりたいことをやっているだけで、得意かどうかなんて、考えたこともないです。私は、本当に「考えなし」なんですよ。
青木 考えないということは、先が見えていないということですが、怖くないですか?
横山 怖くないです。先って見えないもので、未来は自分にも誰にも分からないから、考えても意味がないかなって思うんです。
青木 その点は、考え方が違いますね。僕は、物事を自分でコントロールしてやりたいタイプなんです。
例えば、ここに1つ食料があるとします。そのとき僕は、「これは明日食べるかもしれないから、2つに分けて残しておこう」とか、「今すごくおなかがすいているから、全部食べよう」とか考えるんです。
横山 私は自分でコントロールできなくても不安はまったくないです。
例えば、究極的には今日、人生が終わってもいいと思って生きています。後悔をしないため「今」に100%投資することが、道になると思っているんです。
もちろん、将来の夢はあるんですけれど、まずは今目の前にある山を登れるところまで登りたい。それが、どこまでかは、決めていないですね。
目の前にあることを必死にやることしか考えていません。「ここへ行くためにこうしよう」ではなく、「できること、与えられたことを全部やる」という感じです。
青木 こりゃ強いですね(笑)。やはり、芸能界で活躍される方だからでしょうか。
僕は今に満足はしていないですが、要するに、「世界一になろう」とは思っていません。自分の中にある格闘家としての「理想」に向かっていきたいという考え方です。
どちらが「良い/悪い」ということではないと思いますが、横山さんのように「どこまでも登っていくぞ」というタイプは、やっぱり強い。
実は、格闘技をする人にはそういうタイプが多いんです。僕のタイプは珍しいので、横山さんの方が「格闘家タイプ」ですね(笑)。
青木真也(あおき・しんや)
1983年生まれ。静岡県出身。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に、総合格闘技に転身。「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に静岡県警に就職するが、二カ月で退職して再び総合格闘家へ。「DREAM」「ONE FC」の2団体で世界ライト級王者に輝く

「怖さ」と「緊張感」の必要性

横山 そうなんですね(笑)。楠木先生とは努力についても話題に出ましたけれど、青木さんはどう考えていますか。
青木 僕は努力をした記憶はないです。格闘技が好きなので、自然と頑張れます。もちろん練習は苦しいですけれど、「努力しよう、やろう」と思った時点で負けですね。周りから見たら努力に映るのかもしれませんが、
横山 それは一緒ですね。自分が「努力している」って思ったら、もう終わりな感じがします。
青木 そう。僕は練習するとき、「やりたいな」と思ってマットに上がれないとダメだと思っています。練習を重ねて肉体的に疲れてくると、マットに上がるのが「もう嫌だな、動きたくないな」と思う。そう思いながらマットに上がっても意味がないので、そのときは少し時間をあけて「もう一回上がりたいな」と思ってから再開するんです。そうしないと、意味のある練習ができない。
やっぱり、楽しんで取り組んでいる奴には勝てないですから。
横山 わかります。私も、AKB48の総監督を受け継いだとき、最初は前任のたかみな(高橋みなみ)さんと比べすぎて、「自分が劣っている」と思えて、全然楽しめなかったんです。
その苦しい時期に、まずは「自分自身が楽しい、やりたいことをしている」と思えないとダメだと感じて、そこから前向きになりました。
青木 そのうえで、本番では「怖さ」と「緊張感」を持つことが大事だと考えています。
僕の仕事は格闘技だから、試合では殴り合いをするわけです。でも、攻めることだけを考えていると隙が生まれてしまうんです。
実は「やられること」をイメージして怖さをもつほうが、試合中にちょうどいい精神状態になるんです。
横山 そうなんですね、意外です。
青木 そして、プロとしてお客さんにパフォーマンスを見せる立場としては、緊張感が必要です。
格闘技をする人たちの間で「緩い」という言葉があります。試合に緊張感がないと「緩さ」が出て、それがお客さんに伝わってしまい、プロのパフォーマンスとしては良くないものになってしまう。
そんなことが、横山さんのステージでも、あるんじゃないですか。
横山 はい。緊張感という意味では、一つ気をつけていることがあります。
私たちメンバーは普段から仲が良いので、楽屋の雰囲気をそのままステージに持ち込むと、青木さんが言う「緩さ」が出てしまうんです。かといって、一人ひとりが孤立したらグループとしてのステージが作れない。その加減が難しいところです。
青木 メンバーをまとめるだけでなく、個人のパフォーマンスとしては、どんな工夫をしているんですか。
横山 AKB48は今100人以上いますが、メンバーごとに立ち位置、ポジションが決まっています。私は、シングル曲をライブで歌える16人には入っているんですが、踊るときは後ろの方なんです。
この中で、「どうしたら自分が一番目立てるのか」は、常に考えています。自分より可愛い子、歌がうまい子、ダンスがうまい子、パフォーマンスの見せ方がうまい子はいくらでもいます。
そこで自分が勝てるところは「汗の量」しかないなと思いました。場所が後ろでも絶対に手を抜かないって意識して、とにかくがむしゃらになることを心がけて、泥くさくやっています。
青木 本当に横山さんは格闘家みたいだな(笑)。
総合格闘技でいうと、打撃技が得意な人、寝技が得意な人、体が強い人……といろいろなタイプがいるんですけど、自分自身が持つ要素をよく理解して、相手に勝つためには何を伸ばすかと考える。アイドルは、まさに総合格闘技のようなものかもしれませんね。
横山 確かに、その点は似ていますね。

いかにオリジナルを作るか

青木 試合で面白いのは、強い奴が勝つとは限らないことなんですよ。勝った奴が強いんです。形が汚くても、結果的に勝てばいい。
僕はよく、自分の戦い方を食べ物に例えるんですが、「スクランブル」「ぐちゃぐちゃにしちゃえ」という表現を使います。
自分と相手が持っている一つひとつの食材を比べたら、「劣っていて勝てない」と思っても、全部まぜちゃえば分からなくなります。その中で勝機を見いだすことができる。
僕も昔は、食材のレベルそのものが高くて「綺麗に勝つ」「強い奴が勝つ」タイプの格闘家になりたかった。でも、僕はそのやり方では勝てないことに気づきました。
もちろん、今でも一つひとつの食材のレベルを上げることを意識していますけれど、それは手段であって目的ではない。
格闘家としての目的は勝つことであり、活躍すること。それを忘れたらいけない。目的と手段を取り違えてしまう人が多いなと思います。
それに、強い奴が必ずしも、お客さんの注目を浴びて評価されるわけでもない。「強いけど、つまらない」と言われることだってありますから。
横山 そうですね、AKB48でも、みんなガツガツ、しっかり踊るのが伝統で基本なんですけど、その中で、やる気のないような踊りをしたことがキャラになって、人気が出た子もいたんです。そのとき、「やり方は人それぞれなのかもしれないな」と思いました。
青木 教科書的には良くないんだけど、正しいんですよね。結局、自分のオリジナルをどう作れるかだと思います。
物事において、すべてのことは真似から始まります。でも、自分の中を通過するときに、真似からオリジナルに昇華しないと勝てないし、攻略されやすいんです。
横山 私も、他のメンバーを見て自分より「可愛いな」「踊りがうまいな」と思うことは常にありますが、「ムカつく」「妬ましい」とは思わないんです。
それは、「ああいう顔立ちになりたい」「あんなふうに踊りたい」と思って真似したとしても、その子より上にはいけないと思うからです。

負けや批判を価値にする

青木 やっぱり強いですね(笑)。
ちなみに、僕も芸能人の方と同じように、ネットでいろいろ批判されることも多いのですが、ベストゲームがその最たるものです。2010年の大晦日に負けた試合なんですけど。
横山 負けた試合がベストゲームなんですか?
青木 そうです。地上波のゴールデンタイムで放送された試合で、僕は長島☆自演乙☆雄一郎選手と戦って、とんでもない負け方をしました。今でもネットを検索すると、当時の試合内容に関する批判の声が出るくらいです。
でも、その試合で僕を認識し、覚えてくれている人がたくさんいるんですよ。6年くらい経っているにもかかわらず。
僕はこの試合で批判されましたけれど、人の目にふれて、人の感情を揺さぶることができたと言う意味では、上等な仕事だったと思うんです。負けて悔しかったし、みじめな思いもしたけれど、大きな結果になっているんです。
横山 すごい。青木さん、カッコいいです。
青木 僕の場合、そんなに優れた選手じゃないから、ときどき負けるわけです。そのときは、単純に相手が強かったから負けたと思うようにしています。だって、いちいち「ああ、負けた」と自分のモチベーションを下げていたら意味がない。そして自分は良いパフォーマンスを続けられるようにコツコツやる。
横山 「あー負けた、ダウン」じゃなくて、コツコツなんですね。
青木 そして、負けを負けのままにしておくのはもったいないです。それをどう価値のあるものにするかが大事。
横山 「負けたから、やめます」じゃないですもんね。
青木 それはめちゃくちゃもったいないです。「負けた、仕方ない。じゃあそれをどうしよう」という感じですね。
負けや批判を転がして、どんなストーリーにするのか。それが自分の腕の見せ所です。そして、批判されても、うまくいかなくても、常に淡々とコツコツやる。でも、これが案外難しいんです。
横山 自分を持たないと、流されてしまいますもんね。私と青木さんは、似ているところと全然違うところがあって面白いです(笑)。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)
※続きは来週掲載予定です。