裁断から縫製まで、ロボットが衣料品生産を変える

2016/9/29

布を金属パネル状に変質させる

スウェットショップなどと呼ばれる衣服の縫製現場は、過酷な長時間労働で低賃金。典型的な労働集約的製造現場だ。
それでも、Tシャツのような単純な衣服ですらロボット製造ができなかったのは、ロボットは布のような柔らかなものを扱うのが苦手だったからだ。
だが、この分野には何人ものロボット関係者が挑んでいるのも事実だ。そうしたケースには、これまでの衣服や製造を考え直すアプローチがあるようで、興味深い。
先頃、ソーボットというスタートアップがTシャツを丸ごとロボット製造するのに成功したと発表した。社員が起業家その人しかいないような会社だが、ロボットが扱えない布の性質を変化させるという方法を思い立った。
つまり、布を金属パネルのようなものに変質させてしまうのだ。
まず、強力な化学糊のようなものにTシャツの身ごろや袖の素材を漬けて硬化させる。カチカチになって扱いやすくなったところで、各部分を溶接のようにつなぎ合わせる。その後にミシンが縫うというプロセスだ。
縫い合わされた後に湯につけることで糊が取れ、柔らかなTシャツができ上がるという。

コンピュータービジョンが布地を認識

ビデオを見たところ、ミシンは従来のミシンとさほど変わらないもののようだ。そこにロボットアームが三次元に固まったTシャツを持って来て、縫い線に沿って動かす。
ロボットアームは、今欧米の製造現場によく導入されているデンマークのユニバーサル・ロボット製。これまでのアームよりも小型で安く、人間が近くで作業をしていても危険でないタイプのものだ。
ソーボットのアプローチは、材料の変質を利用し、導入しやすいロボットアームを組み合わせることで、安く早く縫製の自動化を狙ったものだろう。ミシン側の技術には大がかりな変更は不要にも見える。
同様に衣服の縫製をロボットで行おうとしている会社が、アメリカにもう1社ある。ソフトウェア・オートメーションというその会社は、ソーボットに比べるとより難しい取り組みをしている。
同社の場合は、布を取り扱いやすくするために、作業台の下にボールのような機械を統合し、ミシンのほうはコンピュータービジョンを利用して、布の形状や端を認識する。
布を裁断する作業は、すでに世界中で機械化されているのだが、この会社はそこから縫い上がるまでのプロセスを、ひとつずつ検証してロボットで行えるようにしている。

素材や製造過程そのものを見直す

同社はDARPA(国防高等研究計画局)の注文を受けて、いずれ軍服を自動生産できるロボットを作るべく努めている。
完成するには時間がかかりそうだが、完成すれば多種の衣服や布を扱えるようになりそうだ。たとえ完成しなくても、そこからいろいろ使える技術が派生するというタイプの開発だろう。
折しも「2017年には完全なロボット工場でスニーカーを作る」という計画を発表していたアディダスの靴が公開された。ロボット化のために、同社が素材やスニーカーの構造や製造プロセスをゼロから考え直していることがわかる。
靴底の中間部分は個々人に合わせて3Dプリントし、運動選手が走る際に皮膚表面や骨がどう動くのかを精密に解析する技術を用いて、よりダイナミックな状態を前提としたデザインを行ったようだ。
その結果、これまでのようなカゴ状の靴の回りを数本のベルトで支えるといった方法ではなく、細かなパッチをいくつも組み合わせる方法でサポート構造を作っている。素材や構造の改良とロボット化の両方をにらみ合わせて開発を行うということがわかる。
ロボット化と言っても、これまでのように人間の手の動きをまねようとしては前に進まない。素材や方法、プロセスなどと一緒にロボットを考える必要がある。衣服ロボットの開発から、そんなことがちょっとわかるのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)