次は大麻ビジネス?「グリーンラッシュ」に殺到するLA起業家

2016/9/25

「ダメ。ゼッタイ。」ではないのか?

LAの街中で見かける、緑の十字マークを掲げる店。これは医療用大麻を扱うライセンスを受けた、特殊な薬局です。
ディスペンサリーと呼ばれるこうした施設が、カリフォルニア州全体で約1600軒あるといわれています。施設によって扱うものが異なるため、ネット上には“大麻版のイェルプ”を自称する口コミサイトまであるほどです。
ヒザの痛みに悩まされていることをカイロプラクターの先生に相談したところ、「大麻の茎から採れる成分『CBD(カンナビジオール)』を配合したクリームがいいかも」と勧められ、初めて足を踏み入れたのでした。
家の近所にある医療用大麻を扱う薬局、ディスペンサリー。自治体からのライセンスを受けて開業する施設には、緑十字の印が掲げられている。
小学校時代を米国で過ごした私には、大麻をはじめとする薬物は「JUST SAY NO!」(レーガン政権下の薬物禁止キャンペーンのスローガン)。大麻の葉に赤くバツ印を描いた横断幕を作り、町内をパレードさせられた記憶もあるほどです。
それが、いつの間にこんなに変わったのかと驚嘆させられました。
今でも「ダメ。ゼッタイ。」な日本からすると信じられませんが、この州では大麻の医療目的での使用が認められて20年になります。
全米50州のうち25州が医療用を、そして4州が娯楽用も解禁しています
ただし、娯楽用が解禁されているのはコロラド州やワシントン州といった比較的小さめの州の話。
それが今年11月の大統領選挙に合わせて、ついに大市場・カリフォルニア州を含む複数の州で、娯楽用を含めた「全面合法化」をめぐる住民投票が行われる予定なのです。
こうした変化を商機ととらえ、早くもこの「グリーンラッシュ」に参入しようとする動きが起こり始めています。
大麻そのものではなく「ツルハシ」を売ろうと試みている人々とは? そして、大麻全面合法化の推進派と反対派それぞれの見解とは。
2回にわたってお届けします。

「大麻ビジネス・エキスポ」の開催

モーターショーやアニメEXPOでおなじみのLAコンベンション・センターでは今月、「Cannabis World Congress & Business Exposition」が開かれました。
LAコンベンション・センターのエントランスに掲げられたバナー。今年のキャッチコピーは「大麻はビジネスだ」。
毎年秋に開催されるイベントも、今年が3回目。業界関係者のみならず起業家や転職希望者が、200ドル程度の入場料を払って、商談やセミナー、キャリア相談に訪れます。
「新規参入者のために、情報収集とネットワーキングの場を作りたいと思い、このエキスポを立ち上げました」と話すのは、代表者のダン・ハミストン氏。
「全米では2020年には350億ドル(3兆円)の売り上げに到達するとみられています」と、この産業の潜在力の高さを語っていた。
このエキスポを主催する団体「国際大麻協会」の代表者、ダン・ハミストン氏。
日焼けサロン店をチェーン展開していた彼が、ディスペンサリー経営に進出したのは2012年のことです。
「今とは比較にならないほど、当時は大麻がタブー視されていました。正しい知識を身につけるのに苦労した経験が、このエキスポを立ち上げることにつながっています」(ハミストン氏)

多岐にわたる「大麻関連ビジネス」

ブースを出展した企業は120社で、30業種に及びます。
会場に足を踏み入れると、ブースで扱われているサービスや商材の幅広さに圧倒されます。
30業種120社のブースが並ぶ展示会場。大麻そのものの持ち込みは禁止されているため、映像を用いて営業するブースも。
大麻を使ったオイルやサプリメントなどのメーカーはもちろん、加工食品や吸入器具などの展示ブースでは、ディスペンサリーの経営者たちが熱心に商品を見ていました。
ディスペンサリー経営者が新しい商品を探してブースを回っていた。この男性は、小児てんかんの子どもに医療用大麻を寄付する団体も運営しているという。
現在の州法では、大麻の花や葉を使った製品は医療用に制限されるため、エキスポでの展示が許されていません。ブースに並べることができるのは、空のパッケージか、規制のない茎から抽出したCBD(カンナビジオール)配合のものに限られます。
大麻の茎から抽出する有効成分「CBD」を配合したクリームやスプレー。現行の州法・連邦法は様々な矛盾を抱えており、国の医薬品の認可を受けることが難しく、効果効能を表示することができない。
栽培ノウハウが学べる「大麻スクール」、農耕器具や肥料などの、大麻栽培者向けのブースも、多くの人を集めていました。
さらには、大麻ビジネスに特化した、会計事務所や人材派遣サービス会社のブースもあります。
大麻専用の肥料のブース。品質をコントロールする要のひとつが、肥料の種類や濃度を適正に管理することなのだ、とキャンペーンガールが説明してくれた。
「大麻のエキスポ」というと、ヒッピーのような若者が集まるのかと想像しがちですが、来場者の多くはむしろ40、50代のエネルギッシュなビジネスパーソンたちです。
出展者の一人に話を聞いてみました。
「大麻は湿度のコントロールが難しい。除湿が甘いとすぐにカビが生えるし、乾燥させすぎると風味がなくなる。この特殊な乾燥剤を使えば、保存容器の中を最適な湿度に保てるんだ」
そう話すのは、大麻専用の乾燥剤を製造するIntegra Boost社の担当者。
Integra Boost社の営業マンは、「冷蔵庫に入れておけば野菜も長持ちするよ」と乾燥剤のサンプルをたくさんくれた。
親会社の大手食品パッケージメーカーから、彼らが独立したのは2年前のこと。
「2年で売り上げは3倍になった。秋の投票の結果次第では、ディスペンサリーの数も急増するだろう。“グリーンラッシュ”はこれからだ」
実際の大麻の代わりに、ドライフリーズしたケールの葉を使って展示していた。

大物ミュージシャンも続々と参入

レストラン経営やファッション界で成功するセレブが多いなか、大麻ビジネスには大御所ミュージシャンが進出しています。
カントリーミュージックの巨匠、ウィリー・ネルソンは自分の名を冠したディスペンサリー店を開業。そして、オリジナルの大麻ブランドを手がけ始めたのが、ラッパーのスヌープ・ドッグです。
昨年コロラド州でオリジナルの大麻ブランド「Leafs by Snoop」を発表した、大御所ラッパーのスヌープ・ドッグ。一見するとお菓子のようなパッケージだが、子どもが誤って開けないように工夫されている。
エキスポでは、スヌープ・ドッグが設立した「Leafs by Snoop」の共同創業者や、ブランドマネジャーによる特別講演がありました。
ブランドマネジャーのティファニー・リン氏は、「いずれ米国では、大麻をお酒やタバコと同じ嗜好(しこう)品として扱う日が来るでしょう」といい、コロラド州で始めたこのブランドは、その先駆けに過ぎないと話していました。

「合法化されてからの参入では遅い」

講演会の終了後、リン氏と話す機会がありました。
同じアジア人女性ということもあり、「大麻の世界では、人種や性別によるハードルはないのか」と尋ねると、「ビジネスよりもむしろ、プライベートの方が、難しさを感じる」というリン氏。
中国で生まれ育ったリン氏は、両親の理解には恵まれているといい、「ウォートン・スクールでMBAを取得したあなたがその意義を信じているならば、と決断を応援してくれた。でも、中国の親戚たちには、監査法人を辞めてこのプロジェクトに参画したことを秘密にしている」といいます。
「偏見の目で見られることもあるし、誰にでも勧められるビジネスではない。
でも、固定観念を捨てて、自分の頭で考えて出した答えは『今なら新しい産業を自分の手で形づくることができる』だった。
私以外にも、大手銀行や自動車会社といった、エスタブリッシュされた業界出身者が多いのも、合法化されてから動くのでは遅すぎると悟ったからよ」
リン氏の言葉が、力強い握手とともに印象に残りました。
「Leafs by Snoop」ブランドマネジャーのティファニー・リン氏(写真中央)。全米トップ10に選ばれるウォートン・スクールでMBAを取得後、監査法人勤務を経て、スヌープ・ドッグのプロジェクトに参画したという。

娯楽用の合法化を求める理由

11月の住民投票に向けて熱を帯びる大麻ビジネス。
所持や使用どころか、医療目的での研究も禁じられている日本で暮らしてきた者にとっては、なぜ娯楽を含めた全面解禁が必要なのか、なかなか理解の難しいところがあります。
しかし、推進派の意見に耳を傾けると、医療の観点からその必要性を説く人もいれば、犯罪抑制のためにも大麻は役に立つ!と主張する人もいます。
次回は、推進派と反対派の双方の主張と、合法化されたLAで、どんな可能性とリスクが生まれるのかをお届けします。
*後編へ続く。