[シンガポール/ニューデリー 6日 ロイター] - 米マイクロソフト<MSFT.O>によるフィンランドのノキア<NOK1V.HE>の携帯電話事業買収では、以前から「ウィンドウズフォン」で提携していたスマートフォン(多機能携帯電話)事業よりも規模が大きく、インドなどの新興国市場で依然支配的なシェアを占めるベーシックフォン事業の戦略が問われている。

低価格で携帯電話としての基本機能のみを備えたベーシックフォンだが、ノキアの前四半期の出荷台数は5000万台を超えた。

マイクロソフトのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)は先に、ベーシックフォンをより高価な端末への入り口と捉えているとの考えを示した。CEOは3日、アナリスト向けの電話会議で「われわれはこれを、スマートフォンの世界に利用者を導く素晴らしいシステムであり、たとえそれがはるかに低価格の端末であっても、世界の多くの地で消費者がわれわれのサービスに触れる手段だと捉えている」と述べた。

アナリストはこれに対し、言うは易し、行うは難し、と警告する。

インドに拠点を置く通信業界調査・助言会社コンバージェンス・カタリストのパートナー、ジャヤンス・コラ氏は、問題はノキアの最重要市場における小売りとサプライチェーンの経験がマイクロソフトにないことに尽きるとみている。「新興国市場における、特にスマホでない端末のビジネスの仕組みは完全に異なる」という。

コラ氏はサプライチェーンと流通システムの厳格な管理、口コミでのブランド構築の必要性を指摘。「マイクロソフトは、この水準で事業を運営するためのDNAを持たない」と語った。

ノキアは1990年代半ばからインドで事業を展開。トムソン・ロイターのデータによると、2012年の同社売上高に占めるインドの割合が7%であるのに対し、米国はわずか6%。ノキアのビジネスはインドに深く根ざしている。国内の販売店舗は20万、うち7万はノキア製品のみを扱う。ノキアの世界最大級の工場の一つはインド南部チェンナイにある。

確かに、ノキアは他国と同じくインドでも落ち目にあった。約20年間守った携帯電話販売台数首位の座を、前四半期に韓国サムスン電子<005930.KS>に奪われた。だが、より基本的な機能を備えた携帯電話機の販売は依然好調だった。

昨年10月には、市場調査会社ニールセンの携帯電話機ブランドランキングでノキアが首位を飾った。インド紙エコノミック・タイムズは、国内でのブランド信頼度ランキングでノキアが3位と伝えている。

<愛用されるノキア製品>

停電が頻発し、起伏のある道が多いインドでは、頑丈で電池寿命が長いノキアの携帯電話が利用者に重宝されてきた。他社の下取りに応じず、ノキア製品を使い続ける愛用者もいるほどだ。

だが、マイクロソフトはこうした忠誠心をあてにすることはできない。マイクロソフトやサムスンに対抗しようと、カーボンやマイクロマックスといったインド企業が米グーグル<GOOG.O>の基本ソフト「アンドロイド」を搭載したスマホを量産し、わずか50ドルで販売しているのだ。

こうしたインドメーカーの台頭も、ノキアのタッチパネル搭載携帯電話「アシャ」のブランド構築に打撃となった。「アシャ」は、ベーシックフォンよりも機能を備えたフィーチャーフォンとスマホの中間に位置づけられる。

第2・四半期の「アシャ」の世界出荷台数は430万台で、第1・四半期の500万台から減少した。

インドのベンチャー企業に投資するBitChemy Venturesのアナリスト、サミール・シン氏は「アシャシリーズの売れゆきは極めて悪かった」とし、「低価格スマホベンダーとの競争が激化するなか、(アシャの)事業がどれほど存続するか分からない」と述べた。

残された道は低価格路線だ。シン氏は、ノキアの前四半期のフィーチャーフォン販売の3分の2をアジア太平洋、中東、アフリカ地域が占め、その平均販売価格は25─30ユーロだったと予想。マイクロソフトがどのようにこの販売にテコ入れできるかは分からないとしつつ、「市場は価格に非常に敏感で、マージンは低下傾向にある」と述べた。

<大きすぎて無視できないベーシックフォン市場>

マイクロソフトは、ベーシックフォン市場が縮小する可能性がある一方で、この市場が大きすぎて無視できない、というジレンマを抱えている。

調査会社ガートナーの主席リサーチアナリスト、アンシャル・グプタ氏は「インドやインドネシアのような市場を見ると、売り上げの70%以上をフィーチャーフォン事業が占めている」と指摘。「市場全体にとっていまだ重要な部分といえる」とみている。

このことは、マイクロソフトが同社の基本ソフト「ウィンドウズフォン」を搭載したスマホへと低価格機種の利用者を呼び込みたい場合、同社は自社のスマホとフィーチャーフォン、他社の安いスマホ間の価格差を縮小する一方、ノキアと「アシャ」のブランドを維持する必要があることを意味する。

マイクロソフトは、スマホの値下げが優先課題となることを示唆している。「ウィンドウズフォン」搭載機種には、41メガピクセルのカメラを搭載した最高級モデル「ルミア1020」がある一方、「ルミア610」や「ルミア620」など、スマホを初めて購入する消費者向けに機能を絞ったモデルもある。

マイクロソフトの「ウィンドウズフォン」担当バイスプレジデント、テリー・マイヤーソン氏は、先の電話会議の場で「より低い価格の携帯電話は次に発表するウィンドウズフォンの戦略構想にある」と語った。

アナリストは、マイクロソフトにとっての選択肢は、検索エンジン「ビング」、電子メール「アウトルック」、インターネット電話「スカイプ」などのサービスを低価格機種に盛り込み、魅力を高めることになると指摘する。

ただ、マイクロソフトは同時に、新興国のライバル企業がノキアの市場シェアをさらに奪う機会をうかがうなか、どの方面からの攻撃にも備えておく必要がある。

前出のコラ氏は、インドでは国内メーカーの低価格帯アンドロイド搭載モデルが、ノキアが強力に販促を展開した中間価格帯モデル「アシャ」に押されてきたが、いまは国内メーカーの反撃が予想されると指摘している。

(Jeremy Wagstaff/Devidutta Tripathy記者;翻訳 高橋恵梨子;編集 田中志保)