「ZOZOTOWN」運営のスタートトゥデイ前澤友作社長インタビュー


 9月1日、厚生労働省は企業による長時間残業や残業代未払いなどの問題が広がっていることを受け、全国で一斉に無料の電話相談を実施した。今回の電話相談の内容も考慮しながら離職率の高い企業を中心に「若者の使い捨てが違われる企業」をリストアップし、今月中に立ち入り調査を始める。対象となるのは約4000社となる見込みだ。

 今年に入って一気に問題が表面化した「ブラック企業」。長時間残業、離職率の高さが目立つ企業がやり玉に挙げられている。こうした中、約1年前、アパレル通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイは不思議な取り組みを始めた。8時間労働が通常の世の中で、突如6時間労働に切り替えると宣言したのだ。職種によって異なるが、基本的には朝9時始業、夕方15時までの6時間。労働基準法上、6時間以上の勤務については休憩が義務付けられるが、6時間未満であれば休憩時間は不要になる。集中して働き、余暇の時間を増やす。ブラック企業批判が広がる以前から、自社で労働時間短縮化に乗り出していたスタートトゥデイの現在はどうなっているのか。社長の前澤友作社長に話を聞いた。

(聞き手は原 隆)


前澤 友作(まえざわ・ゆうさく)
1975年、千葉県生まれ。高校在学中にバンドを結成、卒業後にメジャーデビューを果たす。98年にスタート・トゥデイ設立、2000年に社名をスタートトゥデイに変更して株式会社化。2004年にアパレル通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を開始した。2012年5月より、ほかでは類を見ない6時間労働制を導入。社員の働き方に対して改革を進めている

前澤: そうですね、いい月だと全従業員の1日平均労働時間が7時間台になっています。開始時には業績への影響など心配の声も挙がりましたが、まったく影響なし。引き続き成長しています。思い切ってやってみて、本当に良かったなと思いますね。

 平均して8時間を切れているということは労働基準法上、残業にならない。残業代は激減しましたよ。これまでも残業を減らそう減らそうとあらゆる手段を講じてきましたが、6時間労働制を導入した途端、ストンと無くなりました。

 当初は、勤務時間を減らすということは当然社員の給料も減るのかといったことも言われましたが、当然、給料は変えていません。みな1.25倍働いてくれていますから。アベノミクスで賞与を上げる企業、流行しましたよね。うちは時給換算で3割増しですよ(笑)

導入してみて気づいたことはあるか。

前澤: もちろんあります。まず、僕自身が社員一人ひとりの働き方を見るようになりました。6時間で帰れる人と帰れない人の差が激しいんです。仕事の種類、部署による差。こうしたものが一気に露呈しました。作業量が特定の部署に偏っていることもあるし、マネージャーによる取り組みでも差が生まれています。「みんな一緒に上がろうぜ!」というマネージャーの部署は、基本的に短縮化できていますね。原則はやはりみんな一斉に帰れるようにしたいわけですから、このギャップを埋めていかなければならないと考えています。

 時間をうまく使えない社員にとっては労働時間短縮化は苦痛かも。「やることなくてお酒の量が増えちゃった」なんて声も聞きますから(笑)。

前澤社長の働き方も変わったのか。

前澤: 僕は週に3日しか出社しなくなりました。出社した日は9〜10時間、一気に働きます。週でいえばおおよそ30時間ほど。それが僕にとって最も効率の良い働き方のようです。じゃあ、オフの時間は何をしているのかと言われると、経営者ですから結局いろいろ考え事していますね。

大好きなゴルフに行く機会が増えた?

前澤: もちろんゴルフも行きますよ(笑)。いや、ゴルフと言えばジンクスがあるんです。ゴルフが調子いいときは業績が不思議と上がるんですよね。精神スポーツですから没頭できる精神状態ってことなんでしょう。逆にゴルフのスコアが乱れるときは自分が安定していないことが多い。ゴルフに打ち込んだ方が業績上がるのかもしれない。いや、そんなことはないか、うーん、わからない(笑)。

 この先、どうするか。もう少し6時間労働の徹底を進めていきます。そしてその後は社員に対して選択肢を増やしていきたいと思っているんです。勤務は週4日間でいいから、1日7時間半労働といった選択肢を増やしていきたいですね。

残りたくもない従業員に残業させるのは経営上、非効率

ブラック企業の実態調査に厚生労働省が乗り出す。ブラック企業批判に対する前澤社長の考えは。

前澤: ブラック企業の基準がわからないんですよね、いま一つ。これって誰が言い出したんですか?メディアなのかな。いずれにせよ、ユニクロにせよワタミにせよ、名だたる経営者がなんでこんな目に遭ってるんだろうというのが率直な感想です。

 僕は長時間働くのが嫌いです。人間らしくないから。いや、人間らしくないどころか、最大のパフォーマンスを発揮するのに何事も適切な分量があるのかなと思います。働き過ぎた瞬間にパフォーマンスは必ず落ちます。残りたくもない従業員に残業までさせて、縛り付けるのは最も非効率ではないでしょうか。だって、経営者自身も非効率なパフォーマンスに対して1.25倍とか給料を払わなくちゃいけないんですよ?自分自身もそこまで働きたくないし、長時間労働は昔から反対です。

 長時間残業は誰の責任か。それは経営者の責任です。会社の責任はすべて経営者の責任です。ただ、僕の場合は創業社長だからそう思うのかもしれない。いわゆるサラリーマン社長だとそういう意識はないのかも。いずれにせよ経営者の意識で変えられることです。

 逆に聞きたいんですけど、なんで長時間労働させるんでしょうか?

売り上げを伸ばしたいから?

前澤: うーん、分からないですよね、その辺が。利益優先なのか、社員の幸せ優先なのか、どっちなんだよと。まずは社員の幸せがあって、その先に売り上げだったり利益があったりするんじゃないでしょうか。長時間労働を強いている経営者にぜひ聞いてみたい。そこまで働かせて、何を成し遂げたいのか、と。よく、社員の幸せは利益でしょとニワトリとタマゴのような話をする人もいますが、順序って重要でしょう。僕は社員の幸せを崩してまで利益を出す必要ないやと思ってしまう。

でも上場企業である以上、成長を求められる側面もあるのでは。

前澤: 短期的に見れば、ですよね。ただ、中長期的な成長を考えれば、社員の幸せなくして利益は絶対に生まれない。株主からのプレッシャーですか?まったく感じていません。むしろ、僕は6時間労働制を導入して、もっと周りの会社が真似して広がってくれると思っていたんです。けど、全然広がらない(笑)。

 もちろん知り合いの経営者に「本当のところどうなの?」と聞かれたりしますよ。「なんか裏あるんでしょ?」とかね(笑)。いやいや、本当にないからやってみれば?と言うんですけど、じゃあ週1回だけノー残業デイやってみようかなと。これじゃ、インパクトがない。

 資本主義はそもそもシステム上、労働者に優しいものではありません。いかに安い労働力を使って大きな利益を上げるかが至上命題でしょう?そのシステムに乗っている以上、すべての企業が「ブラック企業」になり得るのではないでしょうか。資本主義を否定しなければ、すべての会社がブラック企業予備軍ですよ。

 僕らは資本主義をそもそも良くないと思っている節があるから、パラダイムシフトを起こしてチャレンジしようとしているんです。

ブラック企業のレッテルを張るのと労働規制緩和は矛盾

では、国がブラック企業調査に乗り出すことに対しては。

前澤: 労働基準法が引き締まったり、査察が入って是正されたりという流れはウエルカムです。人々の苦痛が減るから。ただ、大事なのはメンタリティが変わること。残業を減らしたからいいでしょということではなく、まず従業員の幸せを第一に考えるようになってほしい。そういう意味では「ブラック企業」というレッテルが張られて引き締められていくのは、いいことなのかもしれない。

 ただ、国のやりたいことが今一つ矛盾起こしている気がするんですよね。安倍晋三首相は労働規制緩和、派遣法緩和を進めると言っている。つまりは、企業によって労働力を使いやすくしようということですよね。けど、一方では厚生労働省がブラック企業といってレッテルを張って回る。なんか自己矛盾を起こしていませんか?根本的に大事なのは働く人のやりがいや幸せなのに、それを規制緩和だとか引き締めだとか、同じ国の中でやりあっているのは全く理解不能。引き締めたいなら労働基準法を引き締めればいいだけで、厚生労働省が出てくる話でもない。ま、僕らはあまりとらわれずに淡々とやっていますけどね。