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スタンフォード哲学(第21回)

米国で盛況の大学キャンプビジネス。日本で実現可能か

2016/7/31

前回に引き続き、アメリカの学校のキャンプビジネスについて語る。

以下の写真のように、夏休み中は学校をあげて、キャンプビジネスを行っている。

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校内のいたるところで、キャンプに関する情報がシェアされる。「6/19(日)は、キャンプにより、5000人から1万人の人がキャンパスを訪れるため、混雑します」という意味の掲示

校内のいたるところで、キャンプに関する情報がシェアされる。「6/19(日)は、キャンプにより、5000人から1万人の人がキャンパスを訪れるため、混雑します」という意味の掲示

読者の皆様にシェアをしたい。そして、その先に数倍いるであろうキャンプに参加できる資格(年齢)を持つ日本の子どもたちに、少しでも情報を提供したいので詳しく調べてみた。

すると調べ切れないほどのキャンプが全米各地で開催されていることがわかり、その多くの例をまとめるのは不可能なので、私にとってみぢかなスタンフォードを例にとり、そのキャンプを(勝手ながら)4つのカテゴリー分けてみた。

(1)Academic (学問)
世界的に有名な「スタンフォード・Math Camp(数学)」を始め、歴史や生物学、アートに至るまで、「教科の数だけ」といっても過言ではないほどのキャンプが開催されている。

(2)Athletic
その名の通りスポーツである。スタンフォードにある37のバーシティースポーツ(強化クラブ)のほとんどや、その他の競技でもキャンプが行われている。

(3)IT (コンピュータ・ゲーム・ソフトウェア等)
プログラミングから、特定のソフトウェアを使用してのワークショップ、ゲームを創り上げるクラスまで、多岐にわたる企画が用意されている。

(4)その他、カテゴライズできないもの
個人的には、一番興味深い。ボーイ/ガールスカウトのように、本当のキャンプやサバイバル経験をさせるプログラムから、キャンパス内を探検して謎を解いていく探検隊のような企画、写真の撮り方や、(前回紹介した)スポーツのトレーナー向けのプログラムまで、他にカテゴライズできないキャンプ。

上記のように無理やり4つに分けてみたが、一夏に、一つのキャンパスで、紹介し切れないほどのキャンプ企画が用意されているのには、正直驚かされた。

キャンプのレジストレーション(登録)の模様

キャンプのレジストレーション(登録)の模様

日本とアメリカの違い

このキャンプは前回もお伝えしたように、本来は夏休み期間中で眠っているキャンパスに活気をもたらすばかりか、学校に大きな収入をもたらせる。

また、それぞれのキャンプにはそれぞれの分野でインターンが採用されており、短期的な雇用や、フルタイムで雇われるチャンス、つまり雇用機会の創出までもが生じている。

さて、このようなキャンプは日本で開催可能であろうか。

私の答えは、「50%くらい、YES」である。半分のネガティブな要素は、文化、社会の仕組み、制度等で以下のような違いがあるからだ。

・夏休みの期間
アメリカは約3カ月、日本は1カ月強

・法律の違い
カリフォルニア州では、 12歳以下の子どもを1人、もしくは子どもたちだけで外出・留守番させることが、法律上許されない

→信頼できる誰かに預けられることは歓迎される

・家族の結びつき方の違い
アメリカでは、「子どもがいても、両親にもプライベートの時間が必要だ」という考えが一般的なので、多少のコストやリスクがあっても、子どもをキャンプや人に預けることが (日本に比べて)多い

上記のような“違い”を差し引いたとしても、日本の学校、特に大学が夏休み期間を利用して、子ども向けのキャンプを企画・運営することは、社会的意義も含め、メリットが多いと感じるのは私だけであろうか。

リクルーティングの絶好機会

上記の(2)で挙げたAthletic、つまりスポーツのキャンプであるが、大学側にはもう一つの大きなメリットがある。「リクルーティング」である。

これまで何度も述べてきたように、アメリカの大学スポーツはNCAA(全米大学体育協会)によって厳しく監視されている。

NCAAがアカデミック(学業成績)と並び、最も厳しく目を光らせているのが、このリクルーティングである。

有望な高校生をリクルーティングするための活動、高校へ訪問する回数、顧問の先生や対象生徒とその両親へのコンタクトの回数、メールやSNSを通して送れるメッセージ数など、それらはまさに“がんじがらめ”という表現に値するルールで規制されている。

その厳しいルールの中にあって、このサマーキャンプの期間だけは自分のキャンパスで、高校生がプレーする姿や、そのパフォーマンスを目の前で確認することが(回数や時間の制限はあるが)許されるのである。

もちろん、競技の特性やシーズンによって当てはまらない競技もあるが、ほとんどのスポーツはこの機会を存分に利用して、リクルーティング対象選手のエバリエーション(評価)を行うのである。

この機会は逆ベクトルにも働く。つまり、その学校に入りたい、リクルーティングされたい、もう少し踏み込んでいうなら、スチューデント・アスリートとして奨学金のオファーを得たい高校生にとっては、大きなチャンスなのである。

われわれがリクルーティングしたい高校生のリストにまったく挙がっていなかったプレーヤーが、キャンプのパフォーマンスを通じてリストアップされ、実際に奨学金のオファーを受けたケースがいくつも存在する。

なかにはその後に大活躍して、そのままプロにドラフトされ、現在も大活躍をしている選手までいる。

サマーキャンプのデメリット

さて、サマーキャンプとそのビジネスモデルについてメリットばかりを挙げてきたが、何かデメリットやリスクは存在するのであろうか。もちろん、ないはずがない。

たとえばケガや、特に宿泊を伴った際の病気等である。

学校側はドクターやトレーナーの常駐など最大限の配慮をしなくてはならないし、実際にそうしている。

また訴訟社会であるアメリカ特有なのかもしれないが、「問題が起こった際の責任の所在に関する一文と、それを承諾するサイン」の存在はいわずもがなである。

さらに数年前からであるが、キャンプに指導者として参加する者へのバックグラウンド・チェック(犯罪歴、特に幼児に対するもの)も厳しくされるようになった。

参加する子どもたちの数にもよるが、これらのキャンプでは多くの外部の人間がパートタイムやインターンで雇われている。その外部からの指導者(もちろん内部も)一人ひとりに厳しいバックグラウンド・チェックが課されているのも、開催側のリスクやデメリットを軽減する活動の一つなのである。

日本の大学も「金儲け」できる

前回も述べさせていただいたが、日本の大学も、俗にいう「金儲け」ができるようになったようだ。

今後、夏休みに空いている教室を使って、多くの企画を始めてみてはどうだろうか。

たとえば、最高学府として数えられる東大や京大は、夏休みにキャンパス内で東大や京大が第一志望である学生向けに、夏期講習でも開催してはどうか。

講師には、現役の学生や大学院生を雇用すればいい。なぜなら彼らは、その学校に合格する術を知っているはずだから。

また受験生には、そのキャンパスや教室で毎日学ぶことがモチベーションの一つになるであろう。

ただの素人考えであるのかもしれないが、テレビ局が運営するアナウンサー学院があるのだから、大学が運営する予備校があっても、おかしくはないだろう。

( ※もし既存であるなら、日本を離れて長いことを理由にご容赦いただきたい)

子どもが羽ばたくチャンス

最後に、子ども、特に小学校高学年から高校生の子を持つ読者の方々は、来年以降の夏休みに、ぜひ子どもたちをアメリカでのサマーキャンプに参加させてあげてほしい。

もちろん、リスクを伴うことは確かであるが、それを超えるメリットや経験を手に入れられるはずである。

何より、このようなキャンプは全米各地で、そしてあらゆるジャンルやレベルで開催されているわけであるから、近くに住む友人や親戚を現地での保護者として探し出し、子どもに世界へ羽ばたく機会を与えてあげてほしいと思うのである。

このキャンプはほとんどの場所で、デザートも含めた3食の食べ放題と、十分な自由時間及び睡眠時間付きである。

育ち盛りの子どもが1カ月で10キロ近く増えて帰ってきた、などという話は“アメリカ・キャンプあるある”の一つであるので、その点は特にご注意いただきたい。

(撮影:河田剛)