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「ピザが焼けるトラック」を独自に開発

カリフォルニア州マウンテンビューでいちばん新しいピザ屋を紹介しよう。奥の厨房では「マルタ」が休むことなく、ピザの生地にトマトソースを伸ばしている。マルタは文句も言わず、休憩も取らず、病気で休むこともなく働く。しかも無給だ。

マルタは、ズーム・ピザ(Zume Pizza)で働く2台のロボットの1つだ。ズーム・ピザは謎めいたフードデリバリーのスタートアップで、ロボットを駆使してピザを作り、収益性の向上を目指している。

同社はまた、特製のデリバリートラックを開発。お腹を空かせた注文客のところに向かう最中に、車内でピザが焼けるというこのトラックは、サンタクララ郡環境衛生局から許可が下りれば運用が開始される。

ズームは現在、カリフォルニア州マウンテンビューでのみ営業しているが、いずれは97億ドル規模の宅配ピザ業界を独占したいという野望を抱く。

「私たちは食品業界のアマゾンになるつもりだ」と話すのは、ズームの共同創業者で経営執行役会長でもあるアレックス・ガーデンだ。41歳のガーデンは、以前は大手ソーシャルゲーム開発企業ジンガのプレジデントを務めていた人物で、その前はマイクロソフトのXbox Liveでゼネラルマネジャーを務めていた。

グーグル・ベンチャーズらが出資を検討

ガーデンは2015年7月、秘密裏にズームを創業すると、仮名を使って密かに技術者たちを採用し、マウンテンビューにある覆面ガレージで独自に考案した「ピザが焼けるトラック」の開発に着手した。

2015年9月には、外食産業の経験が豊富な37歳のジュリア・コリンズを採用。ズームの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)となったコリンズは以前、ニューヨークのハーレム地区にある老舗ジャズクラブ「ミントンズ・プレイハウス」の親会社ハーレム・ジャズ・エンタープライズで副社長兼CEOを務めていた人物だ。

ズームは2015年10月から、スイスのロボットメーカーABBのほか、世界中から集めた機械と電気の専門家やソフトウェアエンジニアで構成されたクルーとの共同作業を開始した。そして2016年4月、何も知らないマウンテンビューの客に、ロボットが作ったピザの販売を始めたのだ。

ズームの資金調達をめぐる動きに詳しい人々の話によれば、グーグル・ベンチャーズやクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズなどのベンチャーキャピタルが、シリーズAでの出資を検討しているという。5月には、ヤフー!の共同創業者ジェリー・ヤンが、自身が創業したAMEクラウド・ベンチャーズの投資家一行とともにズームを視察した姿が目撃されている。

ガーデン会長は、資金調達に関しては何もコメントしないと話す。「しかし、ベンチャーキャピタル業界が、わが社のアイデアに期待していると言うことはできる」

本拠地はグーグル本社から2分の距離

ズームの本拠地は、グーグル本社からわずか2分の距離にある。何の変哲もないコンクリートのビルで、一見すると自動車修理工場のようだ。約700平方メートルの建物内部は、ロボットが働く厨房と、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネジャーら12名が働くオフィススペースに分かれている。また、機械の製造と組み立てを行う作業場もある。

ズームの厨房内では、ロボットはガラス製の保護ケースに入っており、人間と隔離されている。ケースの天井から吊るされているマルタは巨大なクモのようだ。

ベルトコンベヤーに乗ったピザ生地の中央にソースが落とされるのにかかる時間は2秒弱。それを細長いロボットアームが全体に伸ばしていく。「マルタがソースをほぼ均一に伸ばせるようにした。でも、完璧に均一ではない。そのほうが、ピザ職人が作ったように見えるからね」とガーデン会長は言う。

ソースが塗られたピザ生地はベルトコンベヤーに乗って、チーズとトッピングを載せる作業員の位置に移動していく。あとは焼くだけとなったピザはその後、高さ150センチメートルほどの灰色のロボット「ブルーノ」によってコンベヤーからすくいあげられ、150度のオーブンへと入れられる。

ピザは今のところ、配達トラックのなかで焼かれるのではなく、焼きあげてから注文客のところに配達されている。フィアット製のデリバリートラックには次のような同社スローガンがペイントされている。

「You want a piece of this?(1切れほしい?) Not part of the sharing economy(ピザはシェアリングエコノミーじゃないよ)」

トラックに薄型オーブン56台を設置

ズームは、8月には同社特製のデリバリートラック内でピザの調理を始めたいと考えている。各トラックには薄型オーブンが56台設置されており、遠隔操作でスイッチを入れたり切ったりできる。ガーデン会長は、将来のことを考えると興奮を隠しきれないようだ。

「ロボットがトラック内のオーブンにさまざまなピザを積み込む。そしてトラックは町中をぐるぐる走り回る。注文客のところに到着するちょうど3分15秒前になると、遠隔操作でオーブンに自動的にスイッチが入る。それから……」

そこでガーデン会長は、自分の頭が大爆発を起こすようなジェスチャーをしてこう言った。

「ババーン! オーブンから出したばかりの焼き立てピザが客の玄関先に届けられるというわけだ」

こんなことを実現した人はまだ誰もいないとガーデンは言う。サンタクララ郡環境衛生局が現在、ズームが提出したオーブン搭載型デリバリートラックの使用許可申請を審査中だ。

トラックでピザを焼こうという同社の構想が実現するかどうかは、この許可が下りるかどうかにかかっている。法律は州によって異なるが、一般的にはキッチンが搭載された従来型トラックは移動中には調理ができない。

ガーデン会長は、ズームが大手宅配ピザチェーンと競合するようになる日はそう遠くはないと自信満々だ。「従業員がいないドミノ・ピザを想像してほしい」と同氏は話す。「それでどれだけ収益性が上がるか、わかるはずだ」

壮大な計画とアナリストの懸念

ピザハットとドミノ・ピザを展開するヤム・ブランズも、ロボットを使った実験を行っている。アジア太平洋地域のピザハットは2016年5月、ロボット「ペッパー」をレジ係として配備するため、マスターカードやソフトバンクと提携した。ペッパーはソフトバンクの感情認識ロボットで、人工知能を使って客とやりとりする。

マスターカードの広報担当者チャンティ・センによれば、ピザハットは年内にもアジア地域の一部の店舗にペッパーを配備する予定だという。

ドミノ・ピザ・オーストラリアも2016年4月、「DRU」(ドリュー)と名づけられた「自動ピザ宅配ロボット」の運用実験を開始した。ドリューは高さが約92センチメートルの四輪ロボットで、その姿はタイヤ付きのコピー機のようだ。同社広報担当によれば、1回の充電で店舗から半径約10キロメートル以内の場所に配達が可能だという。

とはいえ、アナリストたちはズームの壮大な計画にすぐに疑念を呈した。とくに、アメリカのピザ宅配市場の58%がパパ・ジョンズ、ドミノ・ピザ、ピザハットの3社で占められていることを懸念している。

「(ピザ宅配業界は)きわめて難しい業界だ」と話すのは、ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストで世界的なレストランチェーンを専門とするマイケル・ヘイレンだ。モルガン・スタンレーのアナリスト、ジョン・グラスもズームは知名度が低いため、大手と競争するのは難しいだろうと言う。「大手ブランドは、小規模ピザチェーンや個人ピザ店の客を奪いながら市場を徐々に拡大している」

ズームはさしあたり、地元住民の顧客獲得に力を入れている。

スタンフォード大学職員のアダム・マーティンは2週間に1度、自分へのご褒美としてズームの「ラッキー・ブエノ」を注文する。ローストしたニンニクやイタリア・カラブリア産の唐辛子、そしてサラミが載ったスパイシーなピザで、価格は18ドルだ。「ロボットが作っているのはおもしろいけど、注文しているのはおいしいからだよ」とマーティンは話している。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Olivia Zaleski、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:© 2016 Zume Pizza Inc.)

©2016 Bloomberg News

This article was produced in conjuction with IBM.