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鉄筋コンクリートに匹敵する強度と耐火性

オレゴン州リドルにある新しく改装された製材所では、近くの森から切り出された材木の板を重ねて貼り合わせる作業が行われている。3メートル×9メートルほどの大きさに整えられた木板は、エアープレスへと差し込まれていく。製材所の周辺は、数千年も前からダグラスファー(ベイマツ)が生い茂る森林だ。

3時間後に完成品を目にした製材所のオーナーは、これこそ未来の建築資材だと確信した。

できあがったのは「直交集成材」(CLT:木材の方向が層ごとに直交するよう重ねて接着した大判のパネル)だ。これでビルを建てることもでき、その強度と耐火性は鉄筋コンクリートに匹敵するという。

頑丈で火にも耐えうるというCLTの特長は、建築家や環境保護を唱える人々を喜ばせている。増加の一途をたどる人類に住居を提供できて、地球にもより優しい解決策になりうるというのだ。また木材業者は、付加価値のある製品でアメリカ市場を開拓できるのではないかと期待を寄せている。

「先行きは非常に明るいと見ている」と話すのは、製材業者D.R.ジョンソン・ウッド・リノベーションのバレリー・ジョンソンだ。同社は母と姉妹が共同オーナーで、社員は125名。従来型の製材所と集成材工場を稼働している。ジョンソンは先ごろ、集成材工場に1200平方メートルを増築し、建築用の新素材を製造するスペースを確保した。

ジョンソンは、新素材に興味を持った建設会社からの問い合わせ対応と、耐火性テストおよび構造健全性評価のためのサンプル製造に追われている。北米では現在、エンジニアード・ウッド協会の認可を受けた製材業者3社が、建築資材用CLTの製造を行っている。アメリカの会社はD.R.ジョンソンだけで、残りはカナダの2社だ。

「(こうした新たな集成材によるビル建設は)まだ早いと言われるが、そんな声には負けたくない」と63歳のジョンソンは話す。「のんびり構えてなどいられない」

始まりは1990年代のヨーロッパ

CLTなどの大型集成材を使った建築は、1990年代にヨーロッパで始まった。コンクリートブロックの代替品としてまずは戸建て住宅で使われ、徐々に広まっていった。

コンクリートは製造段階で二酸化炭素を排出するので地球温暖化を悪化させてしまうが、木材は空気中の二酸化炭素を閉じ込める。さらにジョンソンは、集成材を使った工法では(壁や床、天井などの)あらかじめ製造された部品を組み立てるので、作業全体がスピーディーで人件費が削減できると話す。

そういった木材の特長がきっかけとなって、世界一高い木造ビルを建設しようという競争が始まっている。ロンドンでは「スプリンター」と名づけられた100階建てタワービルの建設が申請された。ストックホルムでは40階建てビルの建設計画が持ち上がっている。その独特の外観は、定量分析専門家にも幼稚園児にも人気を呼びそうだ。

とはいえ、建物を設計することと、それを完成させることはまったく別だ。そのギャップを埋め、さらに建設費用を銀行に用立ててもらわなければならない。そうなると、設計が完成する日が来ない可能性も十分にある。ここ最近、オーストラリアやノルウェー、イギリスで木造ビルが「高さ世界一」に名乗りを挙げているものの、その高さはせいぜい10階建てを超える程度だ。

木造ビルに対する関心は、ヨーロッパからアメリカに広がりつつある。バンクーバーに住む建築家のマイケル・グリーンは2013年に「TED Talks」で、木材を使ったビル建築の素晴らしさを訴え、動画再生回数は100万回を超えた。

同じく2013年、世界で最も高いビル「ブルジュ・ハリファ」を設計したシカゴの建築事務所SOMは、42階建て木造ビルの建築技術をまとめたホワイトペーパーを発表している。2015年には米農務省が、ニューヨークとオレゴン州ポートランドの2つの木造高層ビルに資金を提供するべく、助成金を交付した。

「経済面では大きなメリットがあるだろう」と語るのは、オレゴン州選出の民主党上院議員ジェフ・マークリーだ。同議員はCLTの研究推進を経済的に後押しするための法案の共同発起人である。CLTは木材製品の市場を戸建て住宅だけでなく、より大規模な建築物へと拡大する可能性がある。また、未加工木材を大型集成材に加工する過程で、D.R.ジョンソンのような企業が雇用を生むだろう。

50年にわたる集成材製造の先駆け

次なる挑戦は、建築許可を出す全米各地の担当行政部署を説得し、大型集成材ビルの建設計画を承認してもらうことだ。そのためには、こうした集成材には耐火性と構造健全性があることを証明しなければならない。

大型集成材の推進派たちはさらに、もろもろの疑問に答える必要も出てくる。たとえば、木造高層ビルに住みたい人間やそこで働きたい人間はいるのか、資材用木材の持続的供給は可能なのかといった問いに答えを出さなければならない。

オレゴン州立大学森林学部のトーマス・マネス学部長は「この地に生産基盤を築いて既存の建築用資材と競合できるようになるまでには、ある程度の時間がかかる」と話す。太平洋岸北西部にはいずれ、CLT資材メーカーが5~6社ほど誕生するのではないかとマネス学部長は見ている。

アメリカで大型集成材が普及を始めた場合、ジョンソンの両親が1951年に創業したD.R.ジョンソン・ウッド・リノベーションはかなり安定した地位を築けるだろう。

同社はこれまで50年にわたって集成材の製造を行ってきた。業界では集成材と呼ばれているが、平たく言えば、ツーバイフォー工法で使われる頑丈な梁や柱のことだ。同社がこれまで製造した集成材のなかで最大のものは「幅約2.7メートル、長さ約43メートルの柱」で、ノースダコタ州のシェールガス採掘業者が特注したものだった。

それがきっかけで同社はCLT製造の先駆けとなったわけだが、そのために技術を磨き、新しい設備を導入しなければならなかった。

ジョンソンは2014年末、集成材パネルプレス用の特注機械に設備投資を行って、ウォールパネルとフロアパネルを初めての受注品として製造した。それらのパネルを使ったポートランドの4階建てビルは2月に完成している。同社は現在、今後のパネル受注や入札に備えてロボット加工機を設置中だ。

「建設業界や技術業界を見渡してみれば、どんな分野でも他に先駆ける企業が存在する。私たちはそういった企業と仕事をしている」とジョンソンは言う。「これは、何かの先頭に立つという、キャリアのなかでも一度きりしかないかもしれないチャンスなのだ」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Patrick Clark、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:AllAGRI/iStock)

©2016 Bloomberg News

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