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プロ野球球団の経営に、IT企業のDeNAが参入したのは2011年12月。ここ数年のベイスターズのリーグ順位は、Bクラスに沈み、好調ということはない。5位と6位を繰り返し、横浜DeNAベイスターズ誕生以来、監督を務めてきた中畑清氏も昨年で指揮官を降りた。しかしながら2015シーズンの集客数は、2011シーズンに比べて165%増という好調な数字を残している。

では、なぜベイスターズはここまでの人気を集めるようになったのかーー。

横浜スタジアムにほど近い株式会社横浜DeNAベイスターズを訪ね、話を聞いた。

ターゲットは“アクティブサラリーマン”

横浜DeNAベイスターズはマーケティング活動の結果、ターゲットを分析し、一つの答えを導き出した。そのキーワードが「アクティブサラリーマン」である。

アクティブサラリーマンとは、20代後半から40代の男性ビジネスパーソンでベイスターズにとってのコアターゲットであり、親しみを込めてそう呼んでいる。

彼らは休日になると家族や恋人とイベントをしたり、BBQに行ったりするアクティブな人たち。地上波で野球を楽しんでいた層でもあり、横浜に住んでいた人たちは98年のベイスターズ優勝の盛り上がりを体験しているのが特徴だ。

彼らは元来、野球というスポーツに親近感を持つ、潜在的な顧客層だった。Jリーグなど他のスポーツリーグや、多様なアミューズメントパークなど、時代とともにレジャーが多様化するなか、いつしかプロ野球観戦からは離れてしまっていた。そんな彼らにもう一度野球観戦の楽しみを思い出してもらうため、さまざまなイベントの実施や広告展開を進めてきた。

さらに横浜スタジアムをより魅力的な場所にするために進めていることが、「コミュニティボールパーク」化構想である。

この構想はスタジアム=ただのコンクリートの「球場」ではなく、周囲の要素を含めた「ボールパーク」だと捉えている。目指すのは、公園のような、その街の空気を自然と染め上げているような、半ば公共の場所。

球団職員たちはスタジアムのあり方を検討するため、過去4年ほどのあいだに、野球やサッカーなど海外にある約70のさまざまなスタジアムを視察したという。その構想のもと、多彩なBOX席の新設に代表される球場改修や横浜公園を活用したイベントの実施などを進めてきた。

さらに、昨年オープンしたライフスタイルショップ「+B(プラス・ビー)」。日常生活で使いたくなるような雑貨や洋服に「ベースボール(baseball)」の心を+したショップだ。

ビジネスパーソンが仕事のシーンでチームロゴの入ったグッズを使うことは難しいが、ここで提案されているのは、グローブの皮で作った名刺入れや野球用語がプリントされたTシャツなどである。このように球団ロゴや球団名を入れていないショップは、野球業界で初めての取り組みだ。

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仕事に勝敗がつき、一喜一憂する醍醐味

さまざまな取り組みを実施し、動員を増加させてきた横浜DeNAベイスターズ。

そのうちに「ベイスターズが面白いことを仕掛けている」、そんな評判が年々野球ファンや横浜市民の間で広がっていった。そのような攻めの姿勢、アイデアは、実は根っからの野球好きばかりから生まれているわけではない。

「野球や選手に詳しいから採用」ということはなく、スポーツ業界のバックグラウンドをもつ職員はむしろ少ない。

他業界から転職してきたある職員はこう語る。「もっと野球野球している会社だと思っていたけど、違った。職員がやるのは野球ではなく、あくまで事業。語弊を恐れずに言えば普通の事業会社でした。他の業界と違っているのは、日々チームの勝ち負けがあり、熱狂するファンの皆様がいるということ。それがこの会社で働くことの醍醐味なのかもしれませんね。」。

実は横浜DeNAベイスターズの会社規模は120〜130人。組織規模が小さいからこそ、それぞれに与えられる仕事の幅も広い。だからこそ、それぞれがスペシャリティを追い求めるのと同時に、求められるのはマルチタスクで仕事ができる力と、仕事の領域を広げていける力だ。変化を楽しむ人々がいるこの職場では、新しいことにワクワクできる人が集まっている。

また女性職員の活躍の機会も多い。アンテナを高く張って「今はこういうものに流行の兆しがある」と敏感な職員が次々とアイデアを出し、それがグッズやイベントなどに反映されている。

そんな経営スタイルが、動員を伸ばしているベイスターズの秘策だった。

(取材・文:神吉弘邦、岡徳之)