メタップス佐藤航陽が見据える「次の展開」

2016/7/6

佐藤さんって何をやってる人?

亀山 「亀っちの部屋」公開収録、ゲストはメタップスの社長、佐藤航陽さんです。佐藤さんが何をやっているか、知らない人は手を挙げて。あ、けっこういるね。実は俺が一番よくわかってないんだけど(笑)。
佐藤 付き合い長いのに知らないんですか(笑)。僕がやっていることは2つあって、1つがアプリのマーケティングの事業です。
「アプリがビジネスとして儲かるために、必要なソリューションを全部用意する」ことを目指して、2007年に起業しました。当時はまだガラケーしかなかったので、日本でやってもはやらないと思いました。
だからシンガポールから事業をスタートして、2012年から日本でも展開を始めました。
スマホの事業が軌道に乗った後は、次の柱として金融に着目しました。当時はまだフィンテックという言葉はなかったけれど、スマホの登場でお金の管理や金融も劇的に変わることが予測されたんです。
そこで仕込んだのが「SPIKE(スパイク)」という決済の事業です。それまでに存在しないビジネスモデルだったので、立ち上げにはけっこう苦労しました。手数料を取らずに決済システムを提供しようと考えたのですが、レギュレーション(規制)上難しいとカード会社に言われて、なかなか進まなかったのを覚えています。
結局、着想からスタートまで1年かかりました。
亀山 そもそもカードって手数料ないと儲からないよね。どうやって「手数料ゼロ」にしようとしたの?
佐藤 うちが完全にコストを負担しようと思って始めました。
亀山 赤字でもいいってこと?
佐藤 売り上げが一定金額を超えないうちは無料、儲かってきた時に費用が発生する、というモデルなんです。フリーミアムモデルというんですが、儲かってない人たちからは費用を取らず、儲かっている人たちからいただくモデルであれば、採算は合うんじゃないかと。
亀山 じゃあ、たとえば売り上げ100万円までは無料だけど、100万円を超えたら売り上げに応じて何%かもらう、みたいな。
佐藤 はい。だからうちとしては、それほどリスクはないと考えています。
加盟店がちゃんと儲かってくれば、計算上は収益トントンになるだろうし、もともとマーケティングの事業もやっていたので、そっちで儲かっているあいだは耐えられるという算段がありました。
佐藤航陽(さとう・かつあき)
大学入学後、2007年にメタップスを設立。2011年にシンガポールで人工知能を活用したアプリ収益化支援事業を開始。現在は東京、シンガポール、香港、台湾、サンフランシスコ、韓国、上海、ロンドンの8拠点で事業を展開し、各国でアプリ開発者のマネタイズを支援中。2013年から手数料無料のオンライン決済サービス「SPIKE(スパイク)」を立ち上げた。2015年マザーズ上場。

生命科学、宇宙事業に興味

亀山 それって、たとえばGmailみたいな感じ? 使用量が少ないときは無料だけど、ある容量を超えたら有料という。
佐藤 おっしゃる通りです。サーバーなどの理論と一緒ですね。
亀山 やっと少しわかってきたよ。
佐藤 Gmailの理論を決済や金融の領域に当てはめてみたら、うまくいくんじゃないかと仮説を立てて、実際にやってみたらけっこう仮説通りに行くとわかってきたところです。事業内容は決済事業とアプリ事業の2本柱で、いま創業10年目です。
亀山 なるほど。それで今は決済のほうが大きくなってきたの?
佐藤 ビジネスとしてはアプリ事業の方が大きいですが、市場規模的には金融の方が大きいですね。そこをメインにしてキャッシュポイントをつくることができれば、ある程度大きなことができるのではと思ってます。
亀山 好きなことって、何をやりたいの?
佐藤 まずはライフサイエンス、生命の領域です。あとは宇宙とかロボティクスみたいな領域。でもそれは亀山さんもご存じだと思いますけど、まったく儲からないじゃないですか。だからかなり収益基盤がないとできないですね。
亀山 金融で稼いでからライフサイエンスや宇宙に行くの? やっぱりまだ金融のほうが簡単に稼げるのかな。
佐藤 簡単ではないですが、ほかの事業に比べると、パイが大きいのは間違いないと捉えています。アプリの事業は移り変わりが早いので。自分が数年間別の事業をやっても、どうにかなりそうな事業は金融かなと。
また、世の中の変化もわれわれを後押ししています。
いままではカード会社からも冷たい目で見られていましたが、2015年くらいから、マイナス金利の導入やフィンテックの流行などで金融機関の流れが変わり、「これはちょっとベンチャー企業と組まないとまずいな」という雰囲気になってきた。われわれにとっては、完全に追い風です。

金融機関の反応は隔世の感

亀山 メタップスの株、まだまだ上がりそうだね(笑)。あ、会場から質問の手が挙がってる、どうぞ。
質問者 先日、三菱東京UFJ銀行が、独自の仮想通貨を出すと発表しました。佐藤さんは今後、日本の金融機関と提携することは考えていますか。
佐藤 考えてますよ。
亀山 冗談抜きに、最近引き合いがよく来てるんじゃないの。
佐藤 そうですね、手のひらを返したように。メガバンクやカード会社からすれば、僕たちはチリみたいな存在でしたから、隔世の感があります。
亀山 最近は、昔よりも監督省庁とか、伝統的企業の反応が早くない?
俺は昔、「なんでテレビ局はインターネット企業を取りこまないのか」不思議に思ってたんだよ。インターネットの黎明(れいめい)期、テレビ局がライブドアや楽天を買収するチャンスがあった。ところが彼らは、インターネット企業を放置してしまった。
テレビ局のケースに比べると、最近では国もビットコインを認めたり、銀行も新しいものを取り入れようとしている気がするけど。
佐藤 それは単純に、パソコンやスマホの端末が普及したからじゃないでしょうか。昔はオタクしかパソコンを持っていなかったですから。だから既存産業の人は、インターネットと言われてもあまり実感がわかなかった。
でもさすがに、すれ違う人や自分の奥さんまでみんなスマホを持つようになると、世の中への影響度を無視できなくなってきたんでしょう。
亀山 じゃあ佐藤さんがいい目を見られるのは先駆者たちのおかげだね。
亀山敬司(かめやま・けいし)
DMM.com会長
石川県のレンタルビデオ店からアダルト、IT、太陽光発電、FX、英会話、3Dプリントと節操なく事業展開をする実業家。めったに人前に姿を現すことがなく、その正体は謎に包まれている。

お金の90%は投機資金

亀山 じゃあ、次の質問はあるかな。
質問者 今は暗号通貨とかビットコインというと、投機目的に使用されているイメージがあります。暗号通貨を一般的に普及させようとしたら、どのようなブランディングが有効だと思いますか。
佐藤 それはまさに銀行がやっているような、信用のある人たちが支払いの手段として使うことしかないと思います。
世の中のお金の90パーセントは、投機経済のお金なんです。私たちが支払いに使っているお金は、この世界を回っているお金の1割以下。現状の経済ですら、そうなんです。
だからビットコインが今のところほぼ投機に使われているのは当然かと思います。お金の本質ですね。
亀山 さて、事業内容を聞いたところで、佐藤さんの人間像を掘り下げていこうか。
(構成:長山清子、撮影:遠藤素子)