デジタルを活用してビジネスを変えるー現在、多くの日本企業が取り組んでいるテーマだ。戦略実現のシェルパを自ら名乗るシグマクシスも、デジタルテクノロジーを専門領域とした組織「デジタルフォース・シェルパ」を設置し、多様なプロジェクトを展開する。今回は、同組織の「AI&アナリティクス」チームを牽引、数々のプロジェクトを手掛けるディレクター溝畑彰洋と、かつてNewsPicksのプロピッカーも務めたマネージングディレクター柴沼俊一が、デジタルがビジネスにもたらすインパクト、そしてその市場環境で自らが何を目指すのかを語る。

AIの発展で、人と企業はどう変わる?

柴沼 私は企業のイノベーション創発、新規事業開発のサービスを担当していますが、やはり最近のプロジェクトは、いずれもテクノロジーの活用が発想の起点になっていると実感します。
溝畑 世の中を変えるテクノロジーとして僕が注目するのは、「データアナリティクス」「デジタルソーシング」「エッジコンピューティング」の3つです。データアナリティクスは、ちょっと前までは「専門家しか扱えない領域」だと思われていましたが、今はそうではなくなりつつあります。
米国のベンチャー企業などが提供する、AI(人工知能)を活用した分析サービスが普及し始めたことで、これまでデータサイエンティストの専門領域であったデータの構造化や解析を、数学的な視点やスキルがなくても操れるようになった。これは今後のビジネスの環境変化を加速させるとみています。
柴沼 誰でもダイレクトにデータを活用してビジネスを語れるようになると、単なる効率化を超えるインパクトが生まれますね。一方で、いよいよ個々人のデジタル能力が問われることになる。
溝畑 そうですね。「データアナリティクスの汎用化」は、人財に対するインパクトが大きい。データサイエンティスト不要の世の中になるかもしれないという極論がある一方、そういった多様なサービスを使いこなせないデジタル感度の低い人財は評価されなくなる、とも言えますね。
柴沼 デジタル・デバイドの分岐点が大きく動くと、企業の人財戦略も大きく変わってきますね。人間の仕事をAIやロボットに奪われる、という話にもつながると思いますが。
溝畑 それが2つ目の注目分野、「デジタルソーシング」の話です。Googleに代表されるグローバルのデータプラットフォーマーの動きがこれまでにもまして活発化していますが、彼らが取り組んでいるのが、AIの開発とそのサービス化です。
まずAndroidや検索エンジンをはじめとする数々のサービスを通じて、膨大なデータを集める。そのデータを活用してAIを開発し、API(Application Programming Interface)を通じてサービスとして提供する。ここから得たデータを活用し、AIを更に強化する、というサイクルを加速させているわけです。
こうなると、AIよって自動化される業務領域が大幅に拡大します。つまり、AIによるソーシングが可能になる。例えばコールセンターでは、顧客からの電話を自動で受け、認識した音声を自動解析して自動応答するというように、業務まるごとAIで完結してしまうケースも早晩でてくるでしょう。
これがIoT、ロボティクスと組み合わさることで、最終的にデジタルソーシングと呼ばれる大きなトレンドになると考えています。
柴沼 では企業が賢くデジタルソーシングを活用するポイントは、どんなところにあるのでしょう。
溝畑 デジタルソーシングのコアであるAIの仕事は、端的に言うと所定のインプットを得て、人間と同様の判断(アルゴリズム)を実行し、アウトプットをすること。
自社の競争力につながるようにAIを賢くするには、事業や業務特性に対応した「価値のあるデータ」を、現存する膨大なデータの中から集めて辞書化し、AIに学習させなければなりません。ただ丸投げしてもAIはちゃんと働いてくれませんから(笑)。
この「価値のあるデータ」を切り出す作業は、業務を再整理したうえで「どの領域をAIに渡し、どの領域を人間に残すのか」という判断に行きつく。これをどこまで腹を据えてきちんとやり切れるかで、AI活用の成否が決まると思います。
柴沼 人間が担当すべき仕事として残すものを見極め、その価値を明確にするのですね。デジタルソーシングをきっかけにした事業の再構築と言ってもよい。
溝畑 デジタル時代だからこその、原点回帰です。自分達は何者でありたいのかを再度ビジョニングし、それを実現する環境をデジタルによって築いていく。同時に、人も企業も進化への第一歩を踏み出す。この一歩を踏み出せる者が、今後強くなって行くのでしょう。
シグマクシス ディレクター 溝畑彰洋
 2001年、早稲田大学理工学部応用物理学科卒、外資系ITサービス会社に入社。システムエンジニア、営業を経験後、外資系コンサルティングファームを経て2012年にシグマクシスに参画。流通業界全般のコンサルティング、およびSIプロジェクトに従事。近年はBigData、デジタルマーケティング、およびAIによる業務改善、新規事業立ち上げの支援に注力している。

データプラットフォーマー最強市場にどう攻め込むか

柴沼 個人の生活に目を向けてみると、スマホやカメラのようなデジタルデバイスに加え、自動車や家電といった身近なガジェット(=エッジ)へのAI搭載も進んでいます。
溝畑 僕の3つ目の注目分野、「エッジコンピューティング」の世界ですね。昨今では、エッジそのものがAIになり、IoTを通じたエッジ同士のコミュニケーションが始まっています。
例えば、自家用車で帰宅すると、車から自宅の電灯やエアコンに情報が伝わって作動し、その一方で玄関の監視カメラが映像を判断しドアの鍵が開く、というように。個人の生活にAIが入り込むことで、デジタルソーシングがますます加速することになります。
柴沼 そうなると、エッジ側から個人の生活データを集められることになりますね。それらのデータをできるだけ早く多く手に入れたプレイヤーが、新サービス開発の先頭を切ることができる。やはり優位なポジションに立つのは、すでにマーケットを握っているデータプラットフォーマーではないかと。
デジタル時代の競争において、彼らを相手にお客様企業の「勝ちパターン」をどうやって作り上げればよいのか。溝畑さん自身はどう考えていますか?
溝畑 これまでは、世の中にあるテクノロジーやサービスをお客様のビジネスと組み合わせて、新しい事業を創り出す、というアプローチで取り組んできました。が、今年はさらにもう一歩、踏み込む準備を進めています。コンサルティングサービス提供にとどまっていては、市場の変化のスピードを超えられないですから。
柴沼 ここ数年、拡大してきている各種事業投資も含め、シグマクシスのアセットを組み合わせて自らデータサービス提供者になってしまうという方法もある、と私は考えています。あるいは、データオーナー企業と共同での、プラットフォーム事業の運営もありえますよね。
そこからの派生も含めれば、従来型のコンサルティングアプローチを超える新たなサービスの形は、バリエーションがかなり増えて行きそうです。
溝畑 僕たち自身も走りながら戦略を考え、それがエラーだったらチューニングする、といった繰り返しですよね。世の中の変化とともに、戦略も実現方法も俊敏に変え続けなければ、お客様の競争力を生み出すことはできない。
だからこそ戦い方の選択肢―例えばテクノロジーのノウハウ、スキル、多彩なプレイヤーと繋がるネットワーク力など、どれだけ幅広く持っているかが勝負になると考えています。
シグマクシス マネージングディレクター 柴沼俊一
1995年東京大学経済学部卒、2003年ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクール卒。1995年日本銀行入行。調査統計局、国際局、考査局にてエコノミスト・銀行モニタリングに従事。途中2年間、経済産業省産業政策局に出向。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、国内ファンドにて投資先企業再生に携わり、2009年シグマクシスに入社。2015年より現職。 著書: 『知られざる職種 アグリゲーター』(2013年日経BP)『「コンサル頭」で仕事は定時で片付けなさい! 』(2009年PHP研究所)

進化型オタク集団として世の中を変える

柴沼 ところで、溝畑さんのチームは「オタクしかいない」って、よく言われていますね。
溝畑 そうですね(笑)、テクノロジーオタクを人財として重視しています。興味あるトピックについて猛勉強し、勝手にセルフアップデートしていく彼らは、短期間に膨大かつ質の良いナレッジを集め、蓄えるんです。
それを隣のオタクと情報交換して知識の幅を広げ、プロジェクトやソリューション開発へとつなげるというサイクルをぶん回し続けています。
柴沼 最近は、そんなオタクたちが戦略コンサルタントと組んで、ビジネスモデルを考えているシーンを社内のあちこちで見かけますね。かくいう私も、溝畑さんに相当お世話になっていますが。
溝畑 シグマクシスには、戦略、デジタル、システム、業務、プロジェクトマネジメント、といった、事業運営をカバーするすべての要素が揃っている。彼らはこの環境を活用して異なる分野のプロフェッショナルとも積極的にコラボレーションして新しい視点や発想を吸収し、自分自身も進化している。
世の中を変えるようなプロジェクトの中心となり、さらなるオタクに「あのチームに参加したい、一緒に仕事してみたい」と言われるオタク集団を目指しています。
柴沼 「アグリゲーター」として社内外の人財と自在にコラボレーションで価値創造に取り組む、というのが、本来我々が目指してきた姿。創業から8年、企業の経営層、事業のリーダー、ベンチャー経営者やテクノロジスト、さらにはエバンジェリストなど、バラエティに富んだ生態系が出来上がりつつあると感じますね。
溝畑 「あの会社と組むと誰かとつながるかもしれない、ヒントが見つかるかもしれない」といった期待を感じるときが、やっぱり嬉しいですよ。
柴沼 ここから数年間は、この混沌としたテクノロジー大変革が続き、どんな企業も翻弄される。企業の経営層は、覚悟と決断を持ち、新しい発想での戦略実行に踏み切ることが不可避だということを、すでにお分かりだと思います。
そこで大きな役割を果たすのが、業界をつなぐカタリスト(触媒)でしょう。 カタリストかつお客様のシェルパとして、この混乱期をトライ&ゴーで走り抜けることで、新たな市場での我々のポジショニングを確立できるのではないか、と考えています。