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「ガソリン版ウーバー」を目指すスタートアップが現れている。アプリで予約を入れるとガソリンを配達して愛車に給油してくれるサービスの登場だ。大量のガソリンを積んだピックアップトラックが商業地区や住宅地を走ることについて、規制当局はその危険性を指摘する。だが、これまで想定されていなかった新サービスに許認可を与えられるかどうか、明確な基準はない。後編では規制当局の対応と各社の試行錯誤を紹介する。

前編:「ガソリン版ウーバー」登場と規制当局の困惑(前編)

「燃料産業に混乱が生じている」

「都市の地価は上昇しており、ガソリンスタンドはどんどん少なくなっている」とフィルド(Filld)のクリス・オーブション最高経営責任者(CEO)は言う。「燃料産業に混乱が生じている証だ」

建設会社や農家、地方の孤立した世帯などはずっと以前から燃料運送会社に料金を支払い、大量のディーゼル燃料や、時にはガソリンを配達してもらってきた。

しかし、都会の住宅地の狭い道を何百ガロンものガソリンを運び、住民たちが眠っている間に彼らの愛車を満タンにするというサービスはいままでなかった。

オーブションCEOは「大型タンクは大量の燃料を効率よく運ぶ一方で、もし1台でも転倒や事故を起こせばまさに大惨事になり、困難な事態を招く」と語る。

「われわれのタンクのサイズははるかに小型だ。複数のタンクを所有しているが、われわれが大型タンクと同量のガソリンを流出させるにはトラック100台を立て続けに転倒させなければならないだろう」

ガソリンスタンド以外の選択肢

サンフランシスコでガソリンの配達を行うヨシ(Yoshi)は、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得した2人とハーバード・ロースクールの卒業生、スタンフォード大学の元医学研究者の4人によって設立された。同社はナッシュビルとアトランタでも営業している。

いっぽう、ブースター・フューエルズ(Booster Fuels)はこれまでに1200万ドルの資金を調達しており、1,000ガロン(約3800リットル)のガソリンを運べる紫色の大型トラックを複数台所有している。同社は現在、北カリフォルニアの一部とテキサス州ダラス~フォートワース間でサービスを提供している。

ウィーフューエル(WeFuel)はカリフォルニア州のマウンテンビュー、ロスアルトス、パロアルト、メンローパークを対象に2016年1月から2台のトラックで営業を開始した。現在、顧客のクルマの燃料が切れかけていることを自社に知らせる技術を開発中だ。

およそ80台の車両を保有するパープル(Purple)は5ガロン(約19リットル)のガソリン容器を最大6個トランクに積むかたちで、ロサンゼルスとサンディエゴ、オレンジカウンティー、シアトルで配達車を走らせている。

同社のブルーノ・ウザンCEOは「われわれは、ガソリンスタンドで給油する以外の選択肢を人々に与えるために会社を設立した。ウーバーやリフトをオーダーするような感覚でサービスを利用できる会社だ」と説明する。ウザンCEOによると、パープルのドライバーのなかには燃料補給業務の合間にウーバーの客を乗せている者もいるという。

この件に関してウーバーはコメントを拒否している。

ガソリン事業に関する2つの直観

米国におけるガソリン販売は一大産業だ。米国勢調査局によると、2014年には1万545軒のガソリンスタンドが合計で5347億ドル相当のガソリンを販売したという。ガソリンの仕入れにかかった費用を差し引いた利益は、合計すると666億ドルだった。

これまでに紹介してきたスタートアップ各社は、ガソリン事業に関して2つの直観を共有している。ひとつ目は、トラックの所有はガソリンの所有よりも安上がりだということ。ふたつ目は、販売するガソリンの量が増えれば増えるほど、ガソリン1ガロン当たりの仕入れ値は下がっていくはずということだ。

ベンチャーキャピタリストから転身したオーブションCEOは、ガソリンスタンドを手に入れるには225万ドルかかるが、トラックなら5万ドルで購入・装備が可能だと語る。同氏の会社であるフィルドは配達料を最高5ドル、1ガロン当たりのガソリンの価格を近所のいちばん安いガソリンスタンドと同じ額に設定している。

これらのガソリン配達のスタートアップは、いまもビジネスモデルを試行している。パープルの顧客は、同社のアプリを開いてから1時間以内に給油を受けられる。パープルのドライバーは特別な資格を持たない普通の人々だ。

フィルドは、危険物取扱者の資格を持つ職業ドライバーを雇っている。24時間営業だが、遅くとも数時間前には同社のアプリから配達予約を入れるよう顧客に依頼している。

パープルとフィルドが住宅街に配達を行う一方、ヨシとブースターはオフィス駐車場での給油に目を向けている。ヨシのピックアップトラックはフィルドのトラックと似ており、フィルドと同じくプロのドライバーが運転する。

ブースターはもっぱら企業と契約を結び、就業日にそうした企業の従業員のクルマに給油を行う。同社のドライバーは事業用自動車免許を持っている。

安全性は参入障壁か否か

規制をめぐる課題は依然として続いている。たとえばそれぞれの郡では、ガソリンが過剰請求されないことを消費者に保証できるようにガソリン・メーターが正確に調整されているか確認しなければならない。

サンタクララ郡度量衡局で度量衡副検査官を務めるスタン・トイは、同氏のチームがヨシとフィルド、ウィーフューエル、ブースターのメーターに検査を行い、すでに承認を与えたと語る。同局は、トラックの燃料タンクに関しては検査は行わない。「規制の点で燃料タンクがどの局の管轄に入るのか、われわれは関知しない」とトイは語る。

カリフォルニア州消防保安課(OSFM)を監督する森林管理・防火局(CAL FIRE)は2016年5月に会議を開き、「モバイル給油」について協議したという。CAL FIREの広報担当リン・トマチョフによれば、同局はこうしたスタートアップの現在の営業状態が安全な運営のための要求を満たしているとは考えていない。「この件は全体的に、非常に多くの問題を抱えている」

サンフランシスコ消防局はブルームバーグに対して、燃料配達は禁止されていると語った。だが、それ以前の2016年3月、ヨシの共同創業者ニック・アレクサンダーは同社がこれまでに出合ってきた各規制担当官について語ってくれた。同社のトラックを調べたハイウェイ・パトロールは、この産業のことをよく理解していなかったという。

「彼らは、このビジネスをどう解釈すればいいのかわかっていない」とアレクサンダーは語った。

また、ある郡の度量衡局は最初、ピックアップトラックの後部にボルトで固定された給油ポンプの承認はできないだろうと言っていたという。ところがその後、郡は方針を変えて同社にゴーサインを出した。カリフォルニアでは「いったんどこかで承認されると、その承認は他所にも引き継がれる」とアレクサンダーはいう。

その後、アレクサンダーはカリフォルニア州消防保安課(SFFD)と一悶着あった。「記録から消してもらわなければならないような特定の事柄がないとしても、彼らはあらゆることに対して権限を持っている」とアレクサンダーは語る。「一種、曖昧な状況だ」。この意見に対してSFFDは同意を示していない。

フィルドに投資するノア・ドイルは、始まったばかりの燃料配達業界にとって安全性は参入障壁としてそれほど大きなリスク要因ではないと語る。「単に、地元当局が要求する面倒な手順を踏み、彼らを教育して安心してもらえばいい」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Eric Newcomer、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真: ZaetsEvgeniy/iStock)

©2016 Bloomberg News

This article was produced in conjuction with IBM.