どうしてデザインが重要なのか
【アートディレクター・ウジトモコ】デザインは誰のものなのか
2016/6/7
昨年からプロピッカーとしてコメントさせて頂いているウジトモコです。今回、6月に刊行した『生まれ変わるデザイン、持続と継続のためのブランド戦略』(ビー・エヌ・エヌ新社)をもとに、「ビジネスとデザインの密接な関わり」、「デザイン戦略とは何なのか」「誰でも使えるようなブランドデザインのフレームワーク」などのエッセンスを散りばめた連載を、全3回でお届けしたいと思います。皆さん、どうぞよろしくお願いします。
第1回は「デザインは誰のものなのか」というテーマです。「どうしてデザインが重要なのか」を明確にするために、まずは「デザインは誰のものなのか」という命題を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
デザインは誰のものなのか
「デザインは誰のためにあるのか」という問いに対して、もっとも世界中に知れ渡った回答を示した一冊として『誰のためのデザイン―認知科学者のデザイン原論』(ドナルド・A. ノーマン著/1990年/新曜社刊)を紹介します。
刊行からすでに約25年。四半世紀にわたって読み継がれているベストセラーであり、新版も最近刊行されました。現在におけるいわゆる「ユーザーを中心に考えるデザイン」の思考の先駆けとなった一冊です。このノーマン博士のジャンルについては、現在も多くの専門家が携わり、開発を続けています。
また、本書に登場する「アフォーダンス」という言葉を耳にしたことがある方も多いかもしれません。
私自身は「アフォーダンス理論信仰者」ではなく、別のロジックで多くの案件をこなしているのですが、それでもノーマン博士が本書で示した「ユーザーを中心に考えるデザイン」については、その考え方の多くを取り入れてデザインの開発に役立てています。
本書には、この「アフォーダンス理論」も含めて、多くの事例や考え方が掲載されています。実は、デザイナーでない一般の人がビジネスの戦略を考える際にも、この「ユーザーを中心に考えるデザイン」という考え方はとても重要になっています。
ぜひ、まだ読んだことがないという方は手に取ってみてください。
ユーザー中心でないデザインとは
ビジネスの戦略にとって「ユーザーを中心に考えるデザイン」がとても大切だと書きましたが、では「ユーザーが中心にいないデザイン」とはどのようなものなのでしょうか。整理して皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
たとえば、NewsPicksには女性ユーザーが極端に少ないという話をよく聞きますし、実際に、あまり女性のピッカーを見かけませんね。
これは、次回の記事のメインテーマにする予定ですが、その明確な理由のひとつとして、サイトやアプリが「女性を引き寄せないデザイン(女性ユーザー中心でないデザイン)」になっていることが挙げられます。
最近ではよく「デザインは装飾ではなく、問題解決だ」なんていうフレーズを見かけませんか?
これはつまり、装飾としてのデザインでなく、問題解決としてのデザインとしてNewsPicksのサイトデザインを考え実装すれば、女性ユーザーもどんどん増え、女性と男性の割合が近づくことで「理想のコミュニティのデザイン」が可能になります。また、コメント欄もきっと荒れずに、ニューズピックスさんの売上げも上がるだろう、ということなのですがどうでしょう。
良いことづくしではありませんか?
引きつける対象が女性ユーザーでない場合でも同じです。NewsPicksでも関心が高い「観光産業」は、これからの日本の在り方、国としての成長にも大きく影響すると言われています。
先日、私もPickした、京都市が観光都市として成功した、という記事が連載で取り上げられていました。
この中には、京都の街並みをさらに美しく整えるため、看板を減らす試みが紹介されていて「なるほど」と思いました。
皆さんもご存じの通り、欧州など多くの「街並みの美しい国」では、都市や地域で景観を整える条例が制定され、観光としても価値があり住む人にとっても誇りとなるような「景観や街作りのデザイン」を数多く見かけます。
つまり、京都の例で言えば、京都を訪れる多くの「ユーザー」となるのは「観光客」です。海外から訪れる観光客は、わざわざ遠い場所から来日し「京都らしい」風景・風情を楽しみに来ているわけです。
それなのに、自国でも見かけるファーストフード店の看板や、京都の風景にふさわしくない安売り店の電飾看板、寺院や日本式の建築とマッチしづらいポップなデザインばかりが際だって目についたら、がっかりするでしょう。
ですから、観光客ががっかりするような看板を目立たせずに「数を減らしたり」「色数を減らしたり」「彩度(色の鮮やかさの数値のこと)を落として馴染ませる」ことも、「ユーザーを中心に考えるデザイン」と言えます。
デザインで技術や戦略を伝える
ここでは、私自身が観光や地域ブランディングの仕事に携わっていますので、「ユーザーを中心に考えるデザイン」を取り入れていると言えるわかりやすい例として、京都の取り組みを挙げました。
もちろん、観光や地方といった区切りではなく、企業が消費者に対して行うサービスや製品開発においても「ユーザーを中心に考えるデザイン」はさらに重要になっています。
ではここで、「ユーザーは中心にいなかった時代のデザイン」とはどんなものだったのかを、おさらいしてみましょう。
NewsPicksの記事にもよく取り入れられていますが、たとえば、一時代前には「メディア受けするデザイン」や「メディア映えするデザイン」がとても重要でした。
皆さんもご存じの通り、テレビや新聞、雑誌から発信される情報の影響力がとても大きかったからです。
見て、触って、体験して、「これ良いです」「イマイチです」などとユーザーが発信もできなかったわけですから、メディアに流れる情報をコントロールすることがより重要でした。
今でも、もちろん大きなメディアに取り上げられて、多くの人に情報が伝われば、それはよい「宣伝効果」となって売上げや評判に影響を及ぼします。
ですが、近年はメディア側だけが発信する情報というよりも、どこかのユーザーによる評価や情報が、メディアによる情報発信の起点となることも少なくありません。
多くのユーザーは「見て」「触って」「使って」商品やサービスを評価します。つまり、人間の五感や直感と「ビジネスの戦略」がとても近づいているのです。そして、これを、つなぐのがデザインです。
つまり、企業のサービスや製品があったとします。その良さや独自性について、見て、触って、感じて、最終的には「いいね!」と評価してもらうために、その技術や戦略を伝えるために「デザイン」が介在しているのです。
会社の中はデザイナーだらけ?
皆さんが毎日使っているスマートフォンやサービスにおいても、世界的に成功している企業の多くは「ビジネスにデザインをうまく取り入れて」成功しています。では、世界の成功している企業に行ったら、会社の中はデザイナーだらけ?なのでしょうか。ちがいますね。
ビジネスを成功させたい経営者や担当者は、ちゃんとデザインのことを勉強して、うまい具合にデザイナーを使っているのだと思います。ところで、これをお読みの皆さんは「ちゃんとデザインのことを勉強したこと」がありますか?ぜひ、今回の連載をきっかけに一緒に勉強していきましょう。
※次回は、デザイナーをうまく使うにはどうしたら良いかをお話しします
(バナー写真:iStock.com/vm)