AI、IoT、ロボットで日本は稼げるか?

2016/5/22

世界を変える「3つの新技術」 

「第4次産業革命」──このビッグワードに対する注目度が、2015年に入ってから急上昇している。
安倍晋三首相は、「第4次産業革命」をアベノミクスの新たな目玉に設定。第4次産業革命の実現により、2020年までに30兆円の市場を創出する目標を掲げている。同様に財界でも、製造業などを中心に、「第4次産業革命」を成長戦略の柱に据える企業が増えている。
この「第4次産業革命」とは何を意味するのか。
端的に言えば、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボットという3つの新技術をドライバーとした、産業全体の構造変化のことを指す。
その背景にあるのは、ハードウェアの劇的なコスト低下、データ量の爆発的な増加、ディープラーニング(深層学習)などAIの進化といった要因だ。これらのブレークスルーによって、これまで不可能と思われていたビジネスの実現が可能になりつつある。
これまで人類は、歴史上、3つの産業革命を経験してきた。
第1次産業革命は、1760年代頃から英国で始まった。機械化、蒸気機関の発明などをテコとして、繊維産業などが大きく発達した。
第2次産業革命は、電力をエネルギー源とした動きだ。アメリカ、ドイツを中心として、重化学工業が拡大。T型フォードが象徴するように、「大量生産・大量消費」社会が到来した。
そして、第3次産業革命は、コンピュータ、エレクトロニクス、IT技術を核とした構造変化だ。工場の自動化が進むとともに、通信・ITの進化により、情報化、グローバル化が一気に進展した。
そして、2015年頃から本格的に幕を開けたのが、第4次産業革命である。

2018年に1兆円超

第4次産業革命の影響は、全産業にまたがる大きなものとなる。
まず、これまでネット空間に閉じていたネットが、モノの世界へと波及していく。
調査会社ガートナーによると、2014年時点で、ネットにつながっているデバイスの数は約38億個。その数が、2020年には200億個を超えると予想されている。  
自動車、家電といった消費者向けデバイスから、白熱電球、暖房・換気、空調システム、医療機器といった業務用デバイスまで、ありとあらゆる「モノ」がインターネットにつながっていく。
そうしたIoTの普及は、新しいビジネスを生み出す。
野村総合研究所によると、通信費、センサーなどのデバイス、データ処理・分析のためのソフトウェア開発などによって、2018年には1兆円以上の国内市場が生まれると予測されている。  
ただし、IoTの浸透によりデータ量が爆発的に増えたとしても、それを死蔵するだけでは付加価値は生まれない。そこで重要になるのが、AIだ。
AIはディープラーニングの発展により、非連続的な進化を遂げた。
2020年に向けて、AIが、言語理解、大規模な知識理解といった分野において精度を上げていくことは必至。さらには、自動プログラミングによる、ビッグデータ分析やマーケティングの自動化も実現する可能性が高い。人間の頭脳労働を代替していくのだ。
同様にロボットもさらなる進化を遂げ、人間の肉体労働を代替していくだろう。
こうして、IoT、AI、ロボットのインパクトが相まって、あらゆる産業で新たな付加価値が生まれる。特に効果が大きいのが、製造業の分野だ。
2013年から2022年の間に、生産の即時対応・オーダーメイド化、リードタイムゼロ化、異常の早期検知などにより、世界全体で累計3.9兆ドルの付加価値が生まれると予測されている。  
ものづくりの他にも、公共セクター、流通・小売・物流、金融、医療など、多くの分野で新たな付加価値が生まれる。

トヨタ、日立の変化

こうした第4次産業革命の流れに、これまで日本は乗り遅れていた。「インダストリー4.0」を掲げるドイツ、「インダストリアルインターネット」を掲げるアメリカの後塵を拝してきた。
しかし、ここに来て、日本は急速に追い上げつつある。
政府は「第4次産業革命」を成長戦略の軸に定め、大企業もIoTやAIへの投資を加速している。
今年1月、トヨタはAIの研究開発拠点として「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」をシリコンバレーに設立。トップには、AIの権威で元グーグルのギル・プラット氏を招き、5年間で約10億ドルを投資していく計画だ。
Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images
日立製作所も、5月に発表した中期計画において、「IoT時代のイノベーションパートナーになる」(東原敏明社長)と宣言。ハード・ソフトの両面から社会インフラの革新を行う「社会イノベーション事業」を成長戦略の柱に置いた。
経済産業省のIoT支援委員会の座長を務めるIGPI(経営競争基盤)の冨山和彦社長は「第4次産業革命は、日本企業にとって、大チャンスであり、大ピンチでもある」と語る。
「これからモノが復権する。ハード技術とソフトを両方わかっていないといけないので、そこに日本のチャンスがある。しかし逆にいうと、この分野でもやられてしまうと、日本は全部やられてしまう」(冨山氏)
第4次産業革命が変えるのは、企業の経営だけではない。会社の人事の在り方、個人の働き方、キャリア形成さえも変えていく。
冨山氏は「40、50代のおじさんの半分ぐらいのクビを切っても会社は全然困らない。こうしたおじさんの仕事は、100%AIに置き換えられる」と話す。
第4次産業革命による変化は、個人にとっても、大チャンスであり、大ピンチであると言える。
本特集では、Part1で、第4次産業革命の本質を、専門家への取材などによって解説する。Part2では、日本のライバルとなる、アメリカ、ドイツとの戦い方を分析。アメリカの第4次産業革命のリーダーである、GEの事業変革と意識変革などをリポートする。
そしてPart3では、第4次産業革命による注力する、日本の政府、企業の戦略をリポートするとともに、第4次産業革命時代のリーダー、マネージャー、ビジネスパーソンの生き方について考えていく。
(バナー写真:iStock.com/everlite)