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マネーフォワード主催イベントリポート

ディスラプター4社の創業者が語る「固定観念の壊し方」

2016/5/18
既成産業に風穴を開けた勝者の共通点は「テクノロジーとヒト」、技術をサービスにうまく転換したリーダーがいることだろう。人材サービスを変えたクラウドワークス、会議を変えたブイキューブ、決済を変えたメタップス、そして金融を変えたマネーフォワード。この4社はその代表例かもしれない。マネーフォワードの主催イベント「MFクラウド Expo 2016」に4社のトップが集まった。テーマを絞らずにスタートしたパネルディスカッションは、「マネジメント」「発想の根源」「世界展開」など多岐にわたり……。各社の創業者たちの頭の中の一端を紹介する。

<パネルディスカッション参加者>
 ・クラウドワークス 社長兼CEO 吉田浩一郎氏
 ・ブイキューブ 社長CEO 間下直晃氏
 ・メタップス CEO 佐藤航陽氏
 ・マネーフォワード 社長CEO 辻庸介氏(モデレータ)

秘訣は「変われるか」

:ブイキューブの間下さんは38歳、クラウドワークスの吉田さんは41歳、メタップスの佐藤さんは29歳と、みなさん若くて創業者。急成長していることも共通点です。猛スピードで成長することで生まれる課題をどうやって乗り越えてきたんですか。

辻庸介 マネーフォワード 社長CEO 1976年生まれ。京都大学農学部を卒業後、ソニーに入社。2004年にマネックス証券に移籍し、2009年ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後、COO補佐、マーケティング部長を歴任し、マネーフォワードを創業。代表取締役社長CEOに就任する。マネックスベンチャーズの投資委員会委員、新経済連盟の幹事を兼任する(写真一番左)

辻庸介
マネーフォワード 社長CEO
1976年生まれ。京都大学農学部を卒業後、ソニーに入社。2004年にマネックス証券に移籍し、2009年ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後、COO補佐、マーケティング部長を歴任し、マネーフォワードを創業。代表取締役社長CEOに就任する。マネックスベンチャーズの投資委員会委員、新経済連盟の幹事を兼任する(写真一番左)

間下:「変化」でしょうね。

世の中のニーズも技術も変わりますから、もともと持っている強みを維持しながら、それに合わせて企業もいかに変わり続けるかだと思います。

吉田:成長する会社や人と、そうじゃないケースの違いは長期的な視点を持っているかどうかだと思います。

当社はインターネットを活用したクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を提供していますが、われわれの新たなプラットフォームが新たな競争社会を生むという批判もあります。既存の仕事を奪い、今の環境を壊す、と。

でも、歴史を振り返れば、1800年代の産業革命の「ラッダイト運動」で労働者が産業機械を壊す暴動が起きましたが、結果的に労働者が職業を奪い返すことはできませんでした。

洗濯機が普及すれば手で洗うことがなくなり、食洗機が登場すれば皿洗いはしなくなる。便利なツールを手にしたら、もう後には戻れないんです。新しいイノベーションが生まれれば、人は変化していかなければならない、ということです。

吉田浩一郎 クラウドワークス 社長兼CEO 1974年生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニアやリードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコムに移籍した。執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、2011年11月にクラウドワークスを創業。ネットを活用したクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を提供し、2014年12月東証マザーズに上場した。2015年には、経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞を受賞

吉田浩一郎
クラウドワークス 社長兼CEO
1974年生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニアやリードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコムに移籍した。執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、2011年11月にクラウドワークスを創業。ネットを活用したクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を提供し、2014年12月東証マザーズに上場した。2015年には、経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞を受賞

マネジメントの極意は「あきらめさせる」

:世の中は変化している、変化しないと負けてしまう。ただ、人間は変化を嫌います。わかっていても、大半の人は変化を受け入れられません。

トップが変化を促しても、それを社員に理解してもらうのには相当時間がかかることが多いですよね。佐藤さんは熱く語る経営者のように見えないのですが(笑)、どうやって社員を動かしているのですか。

佐藤:「あきらめてもらう」ですかね。

「佐藤は誰が止めてもきっと聞かない。やるんだろうな」と思わせるのが最も早い気がします。「私はこれをどうしてもやりたい」と話して、「そこまで言うなら仕方ない」と言ってもらえたら勝ち。

その時に大切なことは、自分が何をしたいかを明確にしておくこと。私が良かったと思うのは、どんな方向に進みたいかを言葉に落とし込み、自分を理解してきたことです。だからこそ、まわりの人もついてきてくれたんだと思います。

デジタル社会でも大事な「対話」

:国外も含めた社員との効果的なコミュニケーションとマネジメント方法を教えてください。

間下:一番のコミュニケーションは、拠点をぐるぐるとまわり、社員と酒を飲むことです。ウェブ会議をやっている会社のトップが、なぜ出張ばかりしているんだと、よく突っ込まれるのですが(笑)。

ムダな出張はウェブ会議を使ってコストを抑えるのがいいのですが、出張が全部悪いというわけではありません。コミュニケーション手段の一つとして、トップが直接会いに行くことが必要な場合もあります。

私はシンガポールに活動拠点を移して、年間60万キロ移動していますが、現地に足を運んで一緒に飲みながら話を聞き、伝えたからこそわかり合えることは多いです。

間下直晃 ブイキューブ 社長CEO 1977年生まれ、慶應義塾大学大学院修了。大学在学中の1998年に、ウェブソリューションサービス事業のブイキューブインターネット(現・ブイキューブ)を設立。2013年1月よりシンガポールに移住し、「アジアNo.1のコミュニケーションプラットフォーム」の実現を目指し、海外での事業展開を積極的に進めている。2013年12月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。2015年7月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更。経済同友会の幹事も務める

間下直晃
ブイキューブ 社長CEO
1977年生まれ、慶應義塾大学大学院修了。大学在学中の1998年に、ウェブソリューションサービス事業のブイキューブインターネット(現・ブイキューブ)を設立。2013年1月よりシンガポールに移住し、「アジアNo.1のコミュニケーションプラットフォーム」の実現を目指し、海外での事業展開を積極的に進めている。2013年12月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。2015年7月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更。経済同友会の幹事も務める

佐藤:実際に会うことの大切さは、私も実感しています。

メタップスでは年に1回、全社員が1カ所に集まるようにしています。これでコミュニケーションはかなり活性化されるんです。1週間くらいずっと一緒にいることで、離れて仕事をしているうちに徐々に食い違ってしまった言葉の意味も一つにまとまってきます。

:事業がうまくまわっている組織は、リーダーが信頼されている。無茶な指示も、現場が「しょーがねーな」と思って動いてくれる信頼関係が大切で、それを築くための一つの手段として直接コミュニケーションを重視しているんですね。

アメリカは“ラスボス”

:みなさんはビジネスエリアを世界に置いている点でも共通しています。アジアやヨーロッパ、アメリカなど、事業展開のうえで「ここがオススメ」という国・地域はありますか。

間下:業種や業界で違うと思います。ITで言えば、日本がアメリカに勝てる勝算はほぼないでしょう。なので、われわれはアメリカ勢が行きにくい地域に照準を合わせ、アジアにフォーカスしています。

大事なポイントは、アジアを見下さないこと。途上国でもインフラが整い優秀な技術者もいます。日本だけでしかできないと思っていたことは、今やアジアのほかの国でもほぼ実現できる。

日本がアジアのほかの国に抜かれるのも時間の問題かもしれない。アジアは予想以上に進んでいます。それは現地に行って触れてみないとわからないので、現地の事情を正確に把握することがカギですね。

佐藤:グローバル展開するうえで大切なのは、市場規模や潜在需要といった一般的なマーケティング情報よりも「日本とカルチャーが近いか」を判断基準に置くこと。共通の文化があるか、日本に好意的かなどのほうが大切。

そうしたことを鑑みれば、アメリカは最も遠い存在かもしれません。いわば、グローバル展開の“ラスボス”。最後に行く国です。

間下:日本の常識で海外の状況を見聞きしたところで、本当に理解できるかは怪しいものです。常識のベースが違う海外に住んでこそ、判断できることがあります。逆に、失敗して悩んでいる人から得る情報は大きいですね。

佐藤航陽 メタップス CEO 1986年生まれ。早稲田大学法学部在学中の2007年にメタップスを設立。2011年に人工知能(AI)を活用したアプリ収益化プラットフォーム「Metaps」を開始、アジアを中心に世界8拠点で事業を展開する。2013年に金融プラットフォーム「SPIKE」を立ち上げ。2015年8月に東証マザーズに上場した。2015年のフォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、2016年「Under 30 Asia」に選出された

佐藤航陽
メタップス CEO
1986年生まれ。早稲田大学法学部在学中の2007年にメタップスを設立。2011年に人工知能(AI)を活用したアプリ収益化プラットフォーム「Metaps」を開始、アジアを中心に世界8拠点で事業を展開する。2013年に金融プラットフォーム「SPIKE」を立ち上げ。2015年8月に東証マザーズに上場した。2015年のフォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、2016年「Under 30 Asia」に選出された

ヒントは「エゴ」と「違和感」

:情報過多な中、戦略を描いたり経営判断する場合に必要な情報やヒントの取捨選択はどうしていますか。

吉田:私の根源は、SF作家のロバート・A・ハインラインと手塚治虫なんです。何が言いたいかというと「人のエゴを想像すると未来がわかる」。

たとえば、自動販売機で「いつまでしゃがんで飲み物を取り出すの?」と疑問に思えるか。ロボットは、しゃがんで取ることを最適化することはできますが、この疑問を持つことはないでしょう。一方、人はしゃがまずに立って取り出す方法を考えます。

つまり、「人の欲望を想像して違和感を感じることができるか」。当社の新入社員にも、そうした自分特有の違和感を発見しろと言っています。

佐藤:私は、活動時間の80%は考えごとです。考えて疑問が浮かんだら、その道に詳しい人を探し出して質問攻めにします(笑)。一番詳しい人に聞くと、80%くらいはわかります。

最近の話で言えば、物理。金融工学が物理を応用していることを知ったら、数珠つなぎに物理のことをどんどん知りたくなって。一見すると、われわれの事業とはかけ離れているように思えることでも、知りたい方向を突き詰めると、結果的にビジネスにつながることが多いんです。

吉田:佐藤さんと話すと、私とは未来の考え方が違うなと実感するんです。私は人のエゴがどうなっていくかという方向に思考が向くのに、佐藤さんはテクノロジーがどうなるのかという基準で考えていますよね。

佐藤:そうですね、人は一つのファクターでしかないので。

吉田:そう。そこが20世紀と21世紀の違いだと思って。20世紀って高度経済成長を背景に、人が何かをつくって、人が消費するという人間中心の社会。

でも、21世紀は違う。機器同士が人を介さずにデータを送受信しあい、コンピュータが知能を得る。そんな世の中で人は、確かに一つのパーツにすぎないのかもしれない。人間中心ではない社会で私たちはビジネスを展開しなければならないのかもしれません。

「やりたいこと」を自問しろ

:あちこちに話題が飛びましたが(笑)、最後に会場のみなさんに伝えたいことがあればお願いします。

吉田:当社は営業利益1兆円の目標を掲げ、機関投資家に冷たい目で見られていますが(笑)上場企業になったからにはトヨタ自動車に並ぶくらいの位置を狙う。目指すことは悪いことではないはずです。

今はクラウドソーシングによって世界中で瞬時にビジネスパートナーが見つけられる世の中です。クラウドワークスで新しい働き方をもっと提案していきます。

佐藤:経営者は自分と向き合うことが重要だと思います。世の中の動きをみるのはもちろん大事ですが「そもそもオレ、何がしたかったんだっけ?」と自分に問い、言葉に落とし込んでいくことが大切だと思います。

間下:世の中は、何も変えたくないと感じている人が大半です。新しいサービスが登場しても「要りません、困っていませんから」と言います。しかし本当に困っていないかは、その時点ではわからない。

ウェブ会議が定着した企業は、トップがしっかりとコミットした企業です。変えていくのがトップの仕事。働き方を変え、会社の文化を変え、社会の文化を変えれば、日本はもっと良くなっていくのではないでしょうか。大切なのは変わり続けることです。

イベントには約2000人が応募し会場を埋め尽くした

イベントには約2000人が応募し会場を埋め尽くした

(構成:阿部祐子、写真:是枝右恭)