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電子機器EMSの新金宝グループが母体

消費者と企業がスマートフォンへと乗り換える傾向が進むなかで、台湾経済を長らく支えてきたPC市場は縮小傾向にあり、エイサーなどの企業が苦戦を強いられている。台湾の3月輸出額は前年同月比で11.4パーセント低下し、14カ月連続の前年割れとなった。

ブルームバーグがまとめたエコノミストらの推定では、2016年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比で0.6パーセント縮小し、3期連続のマイナスとなった。

そうしたなか、電子機器受託製造サービス(EMS)大手の新金宝グループのサイモン・シェン(沈軾栄)最高経営責任者(CEO)にとっては、時代に取り残されることへの恐れが強い動機づけとなっている。

台北の衛星都市を本拠とする新金宝グループは2015年、電子ピアノからパチンコ台、プリンター、TVのセットトップボックス(STB)にいたるまで、約70億ドル相当の製品を製造して売り上げた。同グループはハードディスクドライブ(HDD)やルーターなどのPC関連デバイスも生産しており、コンピューター産業衰退の煽りをまともに受けている。

生産・輸出における「次の大きな新機軸」の発見は、シェンCEOにとって緊急の課題だ。「われわれは新しいことに挑戦しなければならない」とシェンCEOは語る。「さもなければ、現在の製品ラインはいずれ消えてしまうだろう」

この「新しいこと」への道が、シェンCEOが3年前に設立したXYZプリンティングだ。XYZプリンティングは、ヒューレットパッカード(HP)やコニカミノルタなどを顧客に持つ受託製造業者としての新金宝グループの実績を基に、消費者や中小企業向けに小型・低価格の3Dプリンターを製造している。

350ドルの低価格戦略で31%のシェア

3Dプリンターの販売は将来の事業としての成長が期待できるとシェンCEOは語る。その期待を1日も早く実現するべく、XYZプリンティングは「ダヴィンチJr. 1.0w」などのマシンを販売している。

ダヴィンチJr. 1.0wは積層ピッチ0.1mmでの印刷が可能なWi-Fi対応3Dプリンターで、Amazon.comで約350ドルという低価格で販売されている。この低価格戦略により、XYZプリンティングは販売台数で見ると世界全サイズの3Dプリンターのナンバーワン・ブランドとしてその地位を確立している。

ロンドンを本拠とする調査会社コンテクストが最近発表したデータによると、2015年第4四半期、XYZプリンティングはデスクトップ3Dプリンター部門においてグローバル市場で31パーセントのシェアを獲得している。

同社は2015年に5万台以上の低価格プリンターを販売。これにより、2位につける3Dシステムズの2倍以上となる21パーセントのシェアを獲得した。シェンCEOは、今年同社が製造する3Dプリンターの総売上はおよそ5000万ドルに達し、3~5年以内には2~3億ドルに成長すると予想している。

その一方で、ビッグネームたちが手頃な価格の3Dプリンターに触手を伸ばしつつある。

米玩具メーカー大手のマテルは2016年2月、3Dプリンティングシステム「ThingMaker」の発売計画を発表した。ThingMakerはソフトウェア開発企業のオートデスク(本社:カリフォルニア州サンラファエル)と共同で開発された一般家庭向けのシステムで、独自の玩具の設計・創作、3Dプリントを可能にする。現在、Amazonで約300ドルの価格にて予約を受け付けている。

2016年1月にはポラロイドも、インクジェットカートリッジの回収・再製を手がけるエンバイロンメンタル・ビジネス・プロダクツ(本社:ロンドン)とのパートナーシップにより開発した3Dプリンター「ModelSmart 250S」を発表した。

製造業での実績が大きな強み

知名度こそ低いかもしれないが、XYZプリンティングには大きな強みがある。新金宝グループは長年にわたって、台湾における悪名高い薄利のエレクトロニクス産業で利益を絞り出してきた企業だからだ。

「彼らはコスト管理に非常に長けている」とIDC(広東省・深セン市)のアナリスト、ウェンディ・モクは語る。「彼らには製造業のバックグラウンドがあり、研究・開発の困難さも知っている」

ただし、ブルームバーグ・インテリジェンス(香港)のアナリスト、サイモン・チャンは3Dプリンターの消費者市場は「まだ幼児期の段階にある」と指摘する。

チャンによると、マテリアル(素材・材料)が高価である一方で、消費者たちのあいだでは需要増につながる「これは絶対に3Dプリントしたい」と思われる造形物がまだ明確になっていないという。「決定的なユーザー事例というものが、まだあまり出てきていない」

3Dプリンティングのトップ企業、米ストラタシス(2012年にイスラエルのオブジェットと合併)は、おもなターゲットを同技術の製造業への活用に絞っている。このことは、XYZプリンティングのライバル企業の大半にも当てはまる。ストラタシスのジョシュア・クラマン最高業務責任者(CBO)は、消費者市場に関して「われわれはそれほど需要を見込んでいない」と語る。

いずれはデスクトップ3Dプリンターの市場も現れるだろうが、それは品質と信頼性が向上してからの話だと同CBOは述べる。また、低価格の3Dプリンターは汎用性が低く、大半が「マテリアルや色の多様さに対応していない」とも述べている。

数百の中国企業がライバル

XYZプリンティングのシェンCEOにとって最大の脅威は、台湾海峡を越えた中国本土に存在する。PCやコンピューターコンポーネントを製造する台湾のメーカーは、中国本土に拠点を置くライバル企業を相手に劣勢を強いられており、3Dプリンティング産業も同様の競争に直面しているのだ。

IDCのモクによると、中国本土には3Dプリンターを製造する企業が何百もあるという。中国企業は「学習が非常に速い」と同氏は述べる。最も基本的な3Dプリンターに関して「非常に手頃な価格で製造できる多数の中国企業の手腕を、われわれは目の当たりにしてきた」

しかしシェンCEOは、XYZプリンティングの開発チームはプリンティングに関して何十年分ものノウハウを持っており、中国本土のライバルたちの先を行くことができると語る。

「2Dのバックグラウンドがなければ、追いつくのは難しい」と語る同CEOは、その一方で事業の多角化に取り組み、ビジネス向けの高価格マシンを製造している。地元大学と協力してデンタル・インプラントの3Dプリンティングを開発しているほか、クッキーやチョコレートなどの食品を3Dプリンターでつくるシステムの開発も行っている。

「ゆくゆくは(この技術で)あらゆることが可能になる、とわたしは考えている」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Bruce Einhorn、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:Sami Sert/iStock)

©2016 Bloomberg Businessweek

This article was produced in conjuction with IBM.