(Bloomberg) -- ソフトバンクグループの孫正義社長が米子会社の業績改善を誓い、自社株買いも行っているにもかかわらず、同社の時価総額は保有する株式価値を下回る状況が続いている。アナリストからは、安定した収益が期待できる国内通信事業の上場を勧める声も出ている。

ソフトバンクのホームページによると、保有する上場株式の時価総額の合計は9日時点で9兆4500億円。一方、ブルームバーグのデータによれば、ソフトバンクの時価総額は6兆9566億円となり、保有する上場株式の合計を約2兆5000億円下回る。

パソコン用パッケージソフトの流通事業から始まったソフトバンクは、固定通信や携帯電話事業の買収により業容を拡大し、国内外で通信やゲーム、プロ野球球団など多様なビジネスを営む企業に成長した。一方、投資家にとっては、収益の方向性が分かりにくい状態になっている。現状は、国内通信事業は安定して収益を生み出すが、米子会社スプリントが株価上昇の重荷だ。同社は10日に前期(2016年3月期)の決算を発表する。

ジェフリーズ・グループのアナリスト、アツール・ゴーヤル氏は、スプリントなど関連会社の資産価値をめぐる議論には「ソフトバンクの国内通信事業が生み出すキャッシュの視点が欠落している」とし、国内通信事業が上場されれば「価値が顕在化する」と話した。同氏によると、国内事業が上場されれば同業他社並みの価値となり、750億ドル(約8兆1000億円)から800億ドルに上る見込みという。ソフトバンクの広報担当、小寺裕恵氏はコメントしなかった。

株主還元

米子会社スプリントの業績懸念により、株価は14年初頭に9000円を超えたのを最後に伸び悩んでおり、2月には4133円まで売られる場面もあった。9日終値は14年初めから37%下落。一方、NTTドコモは56%、KDDIは46%それぞれ上昇している。

買収による会社の成長を重視していたソフトバンクだが、株価が伸び悩む中で株主還元策を相次いで実施している。2月には、同社としては過去最大となる5000億円を上限とした自社株買いを発表。また4月には、15年3月期は40円だった年間配当を前期は41円の予定とし、今期は44円まで引き上げる見通しだと明らかにした。

このほか、権限の明確化と機動的な事業運営のため、傘下に国内事業と海外事業を統括する中間持ち株会社を設置した。国内統括会社には宮内謙取締役が、海外統括会社にはニケシュ・アローラ副社長が最高責任者に就任。国内統括会社には通信子会社やヤフーなどの国内事業会社の保有株式を移管し、海外統括会社には米スプリントや中国アリババ・グループ・ホールディングなどの保有株を移す。

「ソフトバンクの積極的なインターネットへの投資は、より保守的な投資を好む株主を困惑させてきた」とブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、ミッシェル・マー氏は分析する。「一部の投資家はソフトバンクの株式はかなり過小評価されていると考えている可能性があり、国内事業の上場は考えられる解決策の一つだ。そうすれば、リスクへの許容度に応じて投資することができる」という。

天野高志 tamano6@bloomberg.net, Pavel Alpeyev palpeyev@bloomberg.net, 宮沢祐介 ymiyazawa3@bloomberg.net, 中川寛之, 浅井秀樹

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