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要約で読む『本を読む人だけが手にするもの』

藤原和博の読書論。本を読む人は上位10%の稀少人材になれる

2016/4/4
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。
今回は、民間企業を経て杉並区立和田中学校の校長を務めた藤原和博氏による「読書についての本」を初回する。本を読む人が少なくなったといわれる今だからこそ、本を読む人は稀少価値のある人材になれると説く藤原氏。では、私たちはどのようなことを意識して読書をすればよいのだろうか。藤原氏ならではの読書論が語られる。

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本を読んで得られる真のメリット

読書習慣の有無が階層を決める?

これからの日本では、身分や権力による「階級社会」ではなく、「本を読む習慣のある人」と「そうでない人」に二分される「階層社会」が訪れると著者は予測している。文化庁の「読書」に関する調査結果によると、1カ月に1冊も本を読まないという人が47.5%に達している。

著者は、パチンコやケータイゲームにはまらず読書をするだけで「8人に1人、つまり上位10%の希少な人材」になれると述べている。

読書によって身につく、人生で大切な2つの力

読書によって身につく大事な力は「集中力」と「バランス感覚」である。

成功者はもれなく高い集中力を誇っている。集中力を鍛えるには、時が経つのを忘れ、人の話が耳に入らないほど、本の世界に入りこむ経験が非常に有効である。

また「バランス感覚」とは、自分と地球、自分と他者など、世の中と自分との適切な距離感を保つ能力を指す。周囲の物事との関係性がつかめないと、対人関係にも負の影響を及ぼしかねない。

少し仲良くなるとベタベタした関係に陥る一方で、何か問題が起こると絶縁状態になるなど、極端に白黒をつける関係しかつくれなくなるのだ。

バランス感覚は、子どもの頃は体を使った遊びの中で身につけられる。一方、大人になってからは読書によって獲得するのが近道だ。他人の体験や知識を取り込んで、自身の内なる世界観を広げることを著者は提唱する。

他人の脳のかけらと自分をつなげる

「ジグソーパズル型思考」から「レゴ型思考」へ

20世紀の日本では、パズルのようにピースの置き場所が決まっており、唯一の正解を早く正確に導き出す「ジグソーパズル型思考」が求められていた。これにより日本は大きく経済成長を遂げることができた。

しかし、ジグソーパズル型の人には、最初に設定された「正解」の画面しかつくれず、途中で柔軟に変更することができないという問題点がある。

今後の成熟社会では、つくり手の想像力次第で、組み上げ方を無限に広げ、自らビジョンを打ち出し、納得する解をつくり出せるレゴブロック型の人材が必要となる。

この「レゴ型思考」を身につけるには、読書を通じて、さまざまな著者の「脳のかけら(アプリのようなもの)」を自分の脳につなげていかなければならない。

1人の人生で経験できることには限りがある。無数のフックをつくっておくことで、多種多様な脳のかけらを引っかけることができる。このフックのことを生物学の言葉で「受容体」と呼ぶ。

脳の受容体を活性化させる読み方

著者は、不得意な分野や興味を持たなかった分野の本にこそ目を向け、乱読することを勧めている。意図的に脳内に異質な回路をつくることで、脳の受容体が活性化され、思いがけない発見を意味する「セレンディピティ」が誘発されるからだ。最初は広く浅く理解するだけでもよい。

こうして受容体の形状や質を多様化させる中で、著者が獲得した知恵を吸収し、世界の「見方」が増え、多面的かつ複眼的に世界を見ることができるようになる。

また、他者と世界観を共有することで、他者との間に共感や信頼が生まれ、自分自身が周囲から得られるクレジット(信頼と共感を掛け合わせたもの)が増えていく。すると、このクレジットがあなたの「味方」になって、夢を実現しやすくしてくれるのだ。

読書はこんなふうに役立った

著者の人生を変えた読書

著者は大学生になっても本を読む習慣がなかった。児童期にふれた課題図書の名作が教訓めいて感じられ、読書を毛嫌いしてしまっていたのだ。

しかしあるとき、ゼミの憧れの先輩が読んでいたビジネス書の中の『ピーターの法則』という本と衝撃的な出合いを果たした。

本書に登場する「昇進を嬉しがっていると、どんどん無能になってしまう」という考え方は、著者のビジネスパーソンとしての土台となり、「早くビジネスの世界で挑戦したい」という気持ちを駆り立てた。

その後入社したリクルートでは、30歳のときに読書観が揺さぶられる経験をしたという。

ある編集プロダクションの社長から「藤原くん、純文学、読んでる?」と質問されたとき、著者は、営業の企画書づくりに役立つビジネス書を読むのがやっとだと答えた。すると社長は、「純文学を読まないと、人間として成長しないよ」と言い放ったのだ。

この言葉を機に、著者は宮本輝や連城三紀彦の作品を読み始め、現代社会を生きる人間の心模様や不条理を描き出した純文学に魅せられていった。

また、同時期にめまいを伴うメニエール病になってから、仕事だけにまい進する人生から、本を読む時間を楽しむ人生へと転換を図っていった。

その結果、読書で他者の視点を獲得するにつれ、人生の鳥瞰(ちょうかん)図が見えるようになったという。

正解のない時代を切り開く読書

成熟社会に必須の「情報編集力」を身につけよ

これまでの成長社会では、いち早く正解を導く「情報処理力」が求められたのに対し、今後の成熟社会では、「情報編集力」がますます重要になっていく。

情報編集力とは、身につけた知識や技術を組み合わせ、柔軟でクリエイティブな発想をベースに納得のいく解をつくり出す力である。正解が一つではない問題に直面したときに頭を切り替えて、両方の力を駆使することが必要だ。

情報編集力を高めるための5つのリテラシー

この情報編集力は、次の5つのリテラシーと1つのスキルに分解することができる。各リテラシーの身につけ方を紹介しよう。

・コミュニケーションする力:異なる考えを持つ他者と交流しながら、自分を成長させることである。人の話を素直に聴くことで、相手は話しやすくなり、価値ある情報を提供してくれるようになる。この技術は、先入観を排してどんなジャンルの本にも向き合う「乱読」によって磨かれる。

・ロジックする力:常識や前提を疑い、相互理解のためにロジカルに考え、分析し、「仮説」を考え出すことである。読書は、書き手の論理を理解しようとする行為の連続となるため、書き手の論理展開の仕方や分析手法を学ぶことができる。

・シミュレーションする力:仮説を立て、それが実際に当てはまるかどうかを試行錯誤しながら確かめていくことである。

この力を体得するには、常に将来を予測して行動する習慣をつけることが必要だ。自然科学系の本やSF、推理小説を読むことで、多くの事象に対する判断材料を得て、予測の精度を高めていくことができるだろう。

・ロールプレイングする力:他者の立場になり、考えや気持ちを想像することである。子どもの頃は、ママゴトやヒーローごっこを通じて社会における他者の役割を学んでいく。同様に、良質なノンフィクションや伝記を読んで、登場人物の思考や気持ちを追体験することは、この力を磨くための絶好の方法である。

・プレゼンテーションする力:相手とアイデアを共有するための表現力である。学校教育では本来、音楽や美術、体育のような実技教科を通じて自己表現を身につけることができる。

自分の考えを他人にもわかるように伝え、相手の心を動かすには、「他者」をイメージし、その他者が自身と異なる世界観で生きていることを理解することが前提となる。そのための豊かな想像力を培うには、読書によって多くのイメージにふれ、イメージをつなげることが重要だ。

情報編集力を高めるための「複眼思考」

以上の5つのリテラシーに加えて、クリティカル・シンキング(複眼思考)というスキルが必要だと著者は説く。

英語の「critical」は「本質的」「鑑識眼がある」という意味を持つ。物事を短絡的なパターン認識で捉えず、さまざまな角度から多面的に考察するスキル、つまり複眼思考が今後ますます大事になってくる。

メディアの発信した情報は、特定のフィルターがかかっている。そのため、メディアの情報をうのみにするのではなく、多くの考え方にふれて、自分なりの意見を持たなくてはならない。ブレインストーミングやディベートはもちろん、読書を通じて多様な考えの引き出しを増やすことができる。

子ども時代に「遊び」の中で、不測の事態にどう対応するかを学んでおくと、その子の情報編集力の土台ができていく。遊びは不確定要素に満ちて、変化に富んでおり、状況に応じて自分の行動を修正する能力が試されるからだ。

では大人はどうすれば情報編集力を鍛えられるのか。著者は、スケジュールや宿泊先などを自力で組み立てる「旅」に出ることをお勧めする。予定調和でない事態にあえて自分を追い込むことで、あらゆる知識と経験を総動員し、変化や危機に対処する力を伸ばすことができるというわけだ。

本嫌いの人でも読書習慣が身につく方法

藤原流・本の選び方

著者は1年で120~200冊の本を読んでいるという。本の選び方は複数パターンがあるが、一部を紹介する。

1つ目は、表紙やタイトルを見て感性に引っかかった本を5冊ほどまとめて読むパターンである。大事なのは、意図的にジャンルを分散させることである。

2つ目は、尊敬する人との会話に出てきた本を読むパターンである。できるだけその日のうちに本を仕入れて、翌日には読破し、その感想を相手にメールすることにより、読書の習慣化につながるという。

また、著者はベストセラーにはそれなりの理由があると考えているため、まずは読んでみるようにしているという。

良い本に出合うための方法

良い本を見つけ出す感受性を磨くには、数にあたることが大切である。著者の場合、これまで3000冊ほどの本を読んできたが、自分の価値観の一部を書き換えるようなインパクトのある良書との出合いは、そのうちの1割だという。

無駄な本に出合わずに効率よく本を選ぶことも、本に即効性を期待することも、まず無理だというのが著者の持論だ。

本当に自分にとって必要な本と出合うには、乱読を続けるしかない。そうすれば、予想外の考え方にふれたり、本を介して未知の人物と遭遇したりするといった化学反応が起こる可能性が高まるだろう。
 一読のススメ

巻末には、「ビジネスパーソンが読むべき本」や「小中高生を持つ親に読んでほしい本」など、著者の推薦図書が合計50冊も紹介されている。この本を通じて、読み返すたびに新たな発見や味わいが待っている本との出合いが生まれれば幸いに思う。

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<提供元>
本の要約サイトflier(フライヤー)
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