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貧富格差は拡大するばかり

6人に1人が貧困に苦しむドイツの高齢者たち

2016/4/2

日本と同じく少子高齢化が進むドイツで貧富格差が大きな問題となっている。特に65歳以上の高齢者の貧困は深刻だ。生活保護を受ける国民100万人のうち、高齢者は51万人と半数を占める。高齢者の6人に1人が貧困危機に直面しており、貧富格差は拡大するばかりだ。

高齢者1700万人、6人に1人が貧困に直面

2015年のドイツ貿易黒字は過去最高の2478億ユーロを記録した。世界的な経済不安が高まる中で、ドイツの経済は堅調な成長を続け、欧州の優等生として独走中だ。

これに反して、貧富の格差は年々拡大しており、全人口における富裕層10%が52%の資産を保有するという富の分配の不均等が止まらない。しかもドイツの貧富格差は欧州最大だ。

とりわけ注目されているのが高齢者の貧困だ。

かつて10人に1人が貧困あるいは貧困危機に直面していた高齢者だが、2013年は6人に1人と悪化した。貧困に苦しむのは主に女性、1人親世代、低学歴、病気や長期失業で生活困難な人たちに多い。

昨年夏、独連邦統計局が高齢者の生活調査報告を発表した。この報告書によると、2013年の独全人口約8100万人のうち、高齢者数(65歳以上)は約1700万人。つまり5人に1人が高齢者で、2060年には全人口の3人に1人が高齢者となると推測する。

高齢者の生活環境は夫婦、パートナー、単身とさまざま。3人に1人が1人暮らしで特に女性は男性に比べて2倍に上る。今後も高齢女性の貧困率は顕著になると警鐘を鳴らす。

高齢者の平均年金額は、16の各州によって異なるが、男性約1000から1100ユーロ、これに対して女性は2、3割低く900ユーロ以下が多い。ドイツの平均寿命は女性82.8歳、男性77.72歳。高齢者の年金受給期間は、平均20年ほどという(2014年実績)。

いわゆるミニジョブといわれる副業的な仕事に就く高齢者は約90万人に上る。月収450ユーロ以下のミニジョブは非課税で社会的な費用負担も発生しないものの、この収入で一気に貧困は解決しない。

生活保護を受ける高齢者数は10年前の2倍に

年金だけでは足らず生活保護を受ける高齢者は51万人にのぼり、生活保護受給者100万人の半数以上を占める。10年前に比べて、生活保護を受ける高齢者は2倍に増えた。生活保護支給額平均は740ユーロ(約9万6000円)。

生活保護の支給額は、高齢者の年金受給額、資産と生活環境により審査を経て算出される。子どもの収入も審査の大きな要因となる。年収10万ユーロ以上ある子どもを持つ場合、生活保護を受けることができなくなるケースもあるという。

ちなみに貧困あるいは貧困危機にひんする一般市民とは、平均月収2700ユーロ(税込み)の6割以下で生活する人を指す。また、月収917ユーロ以下の1人暮らし、1926ユーロ以下の家族(子ども2人)を貧困層とする。1世帯の消費支出平均は月に2450ユーロほど(連邦統計局2013年)だ。

富裕層に有利な税法が貧富格差を拡大?

貧富格差の原因は、「中間層や貧困層の負担を増加させた年金レベルの削減、期限雇用や派遣などの不安定雇用の拡大、付加価値税(消費税)の増税が挙げられる」と、ケルン大学クリストフ・ブッターウェーゲ政治学教授は指摘する。

また高齢者女性に貧困が多い理由として、男女の賃金格差(男性100に対して女性は78)や、保育施設の不足により働けない母親が子育て期間に年金保険料を継続的に支払うことができないケースなどが挙げられる。

ブッターウェーゲ教授は「経済成長好調により平均収入が上がっているにもかかわらず、ハルツ4(第2種失業手当)や低賃金労働者の所得が同率に上がっていないことが貧困の増加につながっている」と分析する。つまり貧困が広がっているわけではなく、貧富の差が広がっているのだという。

一方、富裕層は資産税の廃止、相続税の実質廃止、最大税率の引き下げ(42%)、法人税の引き下げ(15%)、投資収益に対する所得税率引き下げ(25%)など、負担を軽減する有利な税法のもとでますます豊かになっている。

月収5000ユーロの例を挙げてみよう。最大45%までの諸税を支払う一般勤労者の手取りは2750ユーロ。これに対して、25%の一括税のみを支払う株式投資など資産収益のある人の手取りは3750ユーロ。手取り1000ユーロの差は大きい。

また国家および地方公務員(職種や勤務条件により例外もある)は公的年金保険料を支払う義務がない。一般勤労者の公的年金保険料は、所得の約10%を支払う。公務員の年金は最終月収の75%ほどで、失職しない限り優雅な年金生活を継続できる。その不条理も一般市民には納得できないようだ(注:公的年金保険料は所得の約20%だが、勤労者の雇用側がその半分を負担する)。

東西統一後、ベルリンやザクセン州など東部ドイツの高い貧困率が問題視されているが、今後、西部ドイツの貧困危機や子どもの貧困増加も侮れないという(ハンス・ベックラー財団)。

勝ち組富裕層は生活を謳歌・ゴルフを楽しむ高齢者 ©Rainer Sturm / pixelio.de

勝ち組富裕層は生活を謳歌(おうか)。ゴルフを楽しむ高齢者(©Rainer Sturm / pixelio.de)

早急課題は社会制度の改革

ハンス・ベックラー財団経済社会研究所の社会研究者ドロティ・シュパンナーゲル女史は、「貧富格差を抑制するには早急の税制改革が必要」と力説する。

貧困率の上昇理由は、低所得、高い医療費や高騰する家賃、勤労者の最高45%という高い税率が挙げられる。特に、不動産や資産の有無が高齢者の貧富格差を生み出している。

しかも年金受給者の納税率は年々上がっており、手取り額は減少する一方だ。2015年には年金額の70%が課税対象だったが、今後段階的に課税率は上昇し、2040年には全額に課税が義務付けられる。

年金支給額は2016年より4〜5%上がった。一方でこの3月から公的健康保険料や犬税の値上げの導入で、高齢者は期待はずれの政策に不満が募る。

年金受給額と過去の所得額の比率は現在50%ほど。2020年までに46%、2030年までに43%まで引き下げられる予定で、高齢者にとって暗いニュースばかりだ。

ドイツの出生率は女性1人当たり1.4人の出産で世界最低水準。これには子どもを持たないキャリア女性の増加だけでなく、保育園不足や低学年の授業がお昼までという学校教育制度に理由があるようだ。

最新の連邦統計局の報告では、ドイツ女性は欧州で一番パートタイム従事者が多いといい、家庭と仕事の両立に悩む母親たちのジレンマがうかがえる。これが高齢女性の貧困にもつながっていくのだろう。

少子高齢化の進む中、将来の高齢者人口に対する労働人口の比率が小さくなることから、その条件下でも年金制度が機能することを目的とした年金受給67歳が2012年1月より段階的に導入された。高齢化社会が進む中で、今後受給年齢がさらに引き上げられる可能性もある。

貧富の差を改善すべく2015年から導入された最低賃金(時給8.50ユーロ)だが、パートタイム職が大きく失われたり、最低賃金が支払われない勤労者もいるなど数々の問題が浮上している。2017年より最低賃金は8.80ユーロに上がる予定だが、少なくとも13〜14ユーロでなければ効果はないという声も上がっている。

「年金生活になったら好きな趣味や旅行で優雅に暮らしたい」といった老後の夢は、本当に夢で終わってしまいそうな現実。高齢化社会が進む中、今後どのように教育や社会制度を変えれば貧困問題を緩和できるのかが大きな課題だ。

物価高騰と諸税の値上げに苦しむ高齢者 ©Rike / pixelio.de

物価高騰と諸税の値上げに苦しむ高齢者(©Rike / pixelio.de)

(執筆:シュピッツナーゲル典子、編集:岡 徳之、トップ写真:©Petra Bork / pixelio.de)