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ファイターズの球団経営【8回】

北海道新幹線開業。ファイターズはコラボで何を得るか

2016/3/25

2016年のプロ野球が開幕した翌日の3月26日、千葉ロッテマリーンズの本拠地QVCマリンフィールドで戦う北海道日本ハムファイターズは、見慣れないユニホームに身を包む。「常盤グリーン」をメインに、「彩香パープル」「飛雲ホワイト」でデザインされた特別戦闘服だ。このカラーリングは、同日に開業となる北海道新幹線と同じ配色となっている。

新幹線カラーのユニホームに身を包んだ大谷翔平

新幹線カラーのユニホームに身を包んだ大谷翔平

「当日、道内は新幹線の開業一色になると思います。スポーツ系以外のニュースでも、ファイターズのこのユニホームが露出していくはずです」

そう語るのは、事業企画部の佐藤拓氏だ。新幹線カラーのユニホームは開業日の3月26日と、5月3日に始まる「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」の全19試合で着用される。3月26日にはファーム(2軍)も身にまとい、ホームの鎌ケ谷スタジアムでイースタンリーグの試合に出場する。

ユニホームはアイデンティティ

近年、球界では漫画やアニメ、人気歌手とのコラボが盛んだが、ファイターズが今回行う取り組みは、ただ話題を狙っているわけではない。2004年に本拠地を札幌に移したファイターズにとって、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」はシーズンで最も重要なイベントだ。そこにある思想と新幹線とのコラボを結びつけたのが、ユニホームの胸に刻まれた「HOKKAIDO」の文字である。

プロ野球ではホーム、ビジターで異なるユニホームを着用するが、札幌に移転当時、12球団の多くは胸の位置にホームではチーム名、ビジターでは親会社名を入れるのが一般的だった。だからこそ、佐藤氏は新しい取り組みを試みた。

「ファンにとって、ユニホームは一番のアイデンティティです。うちの場合、ホームには『FIGHTERS』、ビジターでは『NIPPONHAM』と入っているのですが、地域名の『HOKKAIDO』を入れたいというところから始まりました」

そうして2007年に始まったのが、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」だ。

ファイターズを身近な存在に

選手は普段と異なるカラーリングの戦闘服に身を包んでプレーし、球場では北海道に特化したイベントが実施される。当時はまだB級グルメが全国的に流行する前だったものの、北海道各地の名産品を集めて販売すると好評を博した。

札幌から1時間の距離にある奈井江町出身の佐藤氏は子どもの頃、札幌を「遠い場所」と感じており、「北海道のものを全部集めると、札幌の人が楽しめるのでは」と企画した。その狙いは見事に当たり、「北海道の人は地元愛が強いと確認できた」。

「子どもの頃、札幌をすごく遠い場所にある都会だと思っていたんです。こちらから近づくことによってそういう距離を縮めることができれば、(道民に)ファイターズは身近な存在だと思ってもらえるのではと考えました」

十勝ハーブ牛赤身ステーキ、イチゴアイスクリーム、昆布ドーナツなど北海道各地の名産品が出店され、ファンは舌鼓

十勝ハーブ牛赤身ステーキ、イチゴアイスクリーム、昆布ドーナツなど北海道各地の名産品が出店され、ファンは舌鼓

野球を媒介に北海道が一つに

今年10年目を迎える「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」は、年々バージョンアップされてきた。今年の目玉は5月3、4、14日に行われる来場者全員へのユニホーム無料配布で、札幌ドームが新幹線カラーに染まる。

特別ユニホームには毎年コンセプトを持った配色が施され、2014年は「NEXT BLUE」、2015年は「Ezolutionラベンダー」が採用された。「色やコンセプトはポリシーを表現する手段なので、単純に毎年色を変えるというわけではなく、もう少し上の思想を込めています」と佐藤氏は語る。

このユニホームを球場の選手やファンだけでなく、北海道各地の市役所役員や札幌市交通局、銀行や空港の職員、電気量販店や旅行代理店の店員なども着用し、北海道中が同じ色に染まる。ファイターズを触媒に、北海道民が郷里愛を再確認する仕掛けになっている。

2013年には北海道民の「不屈のエネルギー」を意味する七光星の燃えたぎる「バーニング・レッド」を採用。吉川光夫投手も着用した

2013年には北海道民の「不屈のエネルギー」を意味する七光星の燃えたぎる「バーニング・レッド」を採用。吉川光夫投手も着用した

新幹線の恩恵をどう生かすか

もう一つ、今年の目玉として5月5日、ロックバンド「GLAY」のライブパフォーマンスと始球式が行われる。GLAYは北海道出身で、「スポーツと音楽の力で道民と夢や感動、希望を共有し、北海道を盛り上げていこう!」というコンセプトに賛同した。シリーズ最終戦が函館で行われる26日の試合後には、チームが次戦の行われる仙台まで北海道新幹線で移動するプランもある。

北海道新幹線開業に伴う延伸は新青森から新函館までの148.8キロメートルで、人の流れがどう変わるのかはまだ見えない部分が多い。それでも、旭川や道北の人たちも新幹線の恩恵を受けようと、アイデアを捻出している。

ファイターズも函館から札幌、道東、道北へと人の流れをつくり出そうと、さまざまな企画を行っていくつもりだ。北海道を触媒に、道全体で活性化を図ろうとしている。

北海道を代表するファイターズ

例年、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」は夏場に行われてきた。だが今回は、ゴールデンウイーク中に前倒しされる。その理由は、北海道特有のものだ。桜前線が訪れるのは本州から1カ月遅いゴールデンウイークの頃で、同時期に行楽ムードが盛り上がる。つまり競合する娯楽が多く、とりわけゴールデンウイーク後半は客足の鈍る傾向があるのだ。

そこで今年、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」をゴールデンウィークのど真ん中に企画した。シーズン前半に球場へ足を運んでもらい、夏場以降も足を運ぶリピーターを増やそうという狙いである。

「以前のWE LOVE HOKKAIDO シリーズは3連戦や6連戦というくくりで行っていましたが、去年から1カ月単位にしました。お客さまが来られる日を多くし、イベントを認知してもらうようにしています」

「ビジターの試合でも『HOKKAIDO』と書かれたユニホームでプレーすることで、ファイターズが北海道を代表して戦っているようにも見えます。そうしてシリーズに興味関心を持つ人を増やし、(ヘルメットなどに書かれた)北海道の市町村を露出する機会を多くしたいと思っています。そうやって北海道に人を呼び込んでいきたいですね」

新幹線の開業をきっかけに、人の流れが生まれていく。それをさらに活性化するべく、ファイターズは道全体と連携しながらさまざまな取り組みを行おうと考えている。そうして野球チームが、地域のシンボルになっていくのだ。

昨年の「WE LOVE HOKKAIDOシリーズ」では札幌ドームがラベンダーカラーに染まった

昨年の「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」では札幌ドームがラベンダーカラーに染まった

(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)

<連載「北海道日本ハムファイターズの革新的球団経営」概要>
2004年に札幌へ本拠地を移転して以来、グラウンド内外で好成績を収めている北海道日本ハムファイターズ。チーム編成やスカティングで独自の方法論を持つ球団は、SNS活用や女性ファン獲得など経営面で球界に新たなトレンドをつくり出している。いかにして北海道でファン拡大しているのか、ビジネス面の取り組みを隔週金曜日にリポートする。