americansports.001

アメリカスポーツ【第16回】

“一流プロ”は年収24億円。米国で議論を呼ぶスポーツ賭け問題

2016/3/24

メジャーリーグやNFLといったスポーツリーグの実際の選手で自分なりのチームを構成し、シーズンを通じて友人などほかの“プレーヤー”たちと競うオンラインゲーム「ファンタジースポーツ」が近年、アメリカで高い人気を博している。

このゲームでは、NFLやNBAで実際に採用されているようにチームの年俸総額が決まっており、高給のスター選手ばかりをかき集めることができず、プレーヤーの選手を見る“GM的力量”が問われる。

本物の選手たちの成績が自らのファンタジーチームの成否に反映されるため、スポーツを見る目にもより力が入る。プロリーグもそれを歓迎しており、たとえばNFLではファンタジースポーツの好成績者をスーパーボウルに招待するなどしている。

このファンタジースポーツの派生型として、近年では「デイリーファンタジースポーツ」が話題だ。ただし、必ずしも肯定的な捉え方ばかりではない。「スポーツゲームの範疇を超えているのではないか」と問題視する声も多いのだ。

毛色の違うデイリーファンタジー

それまでのファンタジースポーツと違う点として、デイリーファンタジーでは参加料を払ってプレーする。プレーヤーは25セントから5000ドルを払い、主催者設定のコンテストに参加。好成績を上げれば賞金を得られる仕組みになっている。

実際の選手の出来が反映されるという点ではファンタジーもデイリーファンタジーも同じだが、1年間のシーズンを戦ったうえで成績を決めるファンタジースポーツに対し、デイリーファンタジーはその名前が示す通り1日単位で楽しめるものとなっている。

NFL、メジャーリーグ、NBA、NHLの4大スポーツのほか、大学フットボールなども対象となっており、1日で何百というコンテストにエントリーする参加者もいる。

ファンタジーはファン獲得の手段

デイリーファンタジー業界をほぼ独占しているのはファンデュエルとドラフトキングスという会社だ。前者は2009年に、後者は2012年にスタートと歴史は浅いが、積極的なテレビコーマーシャル戦略などを駆使し急激に成長した。

ファンタジースポーツトレード協会(FSTA)によれば2015年時点でファンタジースポーツに親しむ人々の数は前年から約415万人増の約5680万人で、そのうちデイリーファンタジーをプレーする人々は約16万人。

少なく感じるかもしれないが、これでも急激に伸びているそうだ。しかもFSTAの調べではデイリーファンタジーに手を出す人々の8割は継続してプレーを続けるという。最近になってアメリカ・ヤフーもデイリーファンタジーに参入している。

上述したように、メジャーやNFLなどのリーグとしてもデイリーファンタジーをファン獲得、拡大のツールとして捉えており、実際、2013年のメジャーリーグを皮切りに現在では4大メジャースポーツリーグのすべてがファンデュエルかドラフトキングス、またはその双方に対して出資またはパートナーシップ契約を結んでいる状況だ。

金融商品仲介人から“プロ”へ

このデイリーファンタジーで生計を立てる、いわゆるプロも増えている。世界有数の証券仲介業者であるチャールズ・シュワブで株式などの金融商品仲介人だったピーター・ジェニングスという人は、ドラフトキングスの野球トーナメントで1日に100万ドル(約1億2000万円)を稼いだ“トッププレーヤー”だ。

その後会社を辞めてプロのデイリーファンタジープレーヤーとなった同氏の年収は2000万ドルになったというが、数字を大量に扱う前職での知識と経験を生かしてそれを可能たらしめている。

また、昨年は「ファンタジースポーツコンバイン」なるものがラスベガスで開催され、専門家や元NFLのコーチや選手らがデイリーファンタジーにおける戦略や必勝法などを参加者に授ける場も設けられている。

ちなみにこのコンバインに参加するだけでも895ドルもかかるが、昨年は随分と盛況の様子だった。今年もNFLシーズン直前の8月の開催が決まっている。

ファンタジーはスポーツか賭けか

ところが、デイリーファンタジーにも昨年秋ごろからその急伸長に歯止めがかかった。その理由は、デイリーファンタジーの“グレー”さにある。

金銭こそ発生しているが、デイリーファンタジーの運営会社は「このゲームはギャンブルではない」と主張してきた。いわく、ファンタジースポーツはプレーヤーのスキル(技術)、つまりは入念な統計等の収集によって成否が分かれるもので、運的要素の強いギャンブルとは違い、スポーツと位置付けられているポーカーゲームなどと一緒だというのだ。

しかし、アリゾナやイリノイ、ルイジアナなどの州がデイリーファンタジーについて、カネを賭けた違法なギャンブルだとして州法でこれを禁じた(スポーツを対象とした賭けはネバダ州以外の州では認められていない)。

ニューヨーク州ではこの問題は法廷まで持ち込まれ、つい最近、ファンデュエルとドラフトキングスが同州での運営を取りやめることに合意したと発表した。絶大な宣伝効果をもたらしていたESPNからのスポンサーシップも打ち切られてしまった。今後デイリーファンタジーを禁止する州は増えるとみられている。

年間エントリー総額3120億円

また、ファンデュエルとドラフトキングスの社員が互いに情報をリークし合い、ライバル会社のサイトでプレーすることで利益を得ていたスキャンダルが露見し、彼らに対する風当たりも強くなっている。

ほかのギャンブルのご多分に漏れず、プレーヤーの射幸心をくすぐり、ひいては依存症状となってしまうことについても問題となっている。

上述のジェニングス氏のように利潤を上げているのは一部で、多額のエントリー料金を費やしながら儲けを出せず、しかしそこから抜け出せないプレーヤーが多くいるという報道も多く見かける(プレーヤーがファンデュエルとドラフトキングスで費やすエントリー料の合算額は年間に26億ドルともいわれる)。

日本でも現在、野球賭博の問題でスポーツにおける賭けに対して注目が集まっているが、スポーツ大国・アメリカに目を向けても、日本の野球賭博問題とは別の次元のものではあるが、スポーツを対象とした賭けが問題となっているのが興味深い。

だがアメリカの場合、日本と決定的に違うのがスポーツベッティング(賭け)も巨額の収益を生み出すビジネス形態の一つであり、リーグ側も人気拡大のためにこれを積極活用していることだ。

そこまでのカネ儲け主義にはついていけない部分もあるが、有効と思うコンテンツや資源があれば半ば躊躇(ちゅうちょ)なく取り入れていくやり方には感心させられるところもある。

(写真:Lars Baron/Bongarts/Getty Images)

<連載「スポーツの最先端はアメリカから生まれる」概要>
世界最大のスポーツ大国であるアメリカは、収益、人気、ビジネスモデル、トレーニング理論など、スポーツにまつわるあらゆる領域で最先端を走っている。メジャーリーグやNBA、NFL、NHLという4大スポーツを人気沸騰させているだけでなく、近年はメジャーリーグサッカー(MLS)でもJリーグを上回る規模で成功を収めているほどだ。なぜ、アメリカはいつも秀逸なモデルや理論を生み出してくるのか。日米のスポーツ事情に精通するライター・永塚和志がアメリカのスポーツ事情をリポートする。