泥沼化するメディア王国バイアコムの継承騒動【Part 3】
2016/03/17, Bloomberg Businessweek
実子との愛憎入り交じる関係
シャリと父親は長い間、公然と衝突と和解を繰り返してきた。その原因は、他人にはうかがいしれないほど複雑な数々の怒りや不満だった。レッドストーンには実の息子ブレント(65)もいる。
2006年に、ブレントはサムナーとシャリを訴えた。その結果、ナショナル・アミューズメンツが、会社における彼の権利を買い取ることになった。
家族間のあつれきにもかかわらず、シャリは巧みにレッドストーン帝国内で強力な地位を手に入れた。
バイアコムとCBSが支配権を持つ映画館チェーンのナショナル・アミューズメンツの社長を務め、バイアコムの取締役会のメンバ一になり、20%の株を保有している(残りは父親が保有)。
バイアコムとCBSの取締役会の副会長も務めている。最終的には父親が保有するナショナル・アミューズメンツの80%の株を管理する取消不能信託の7人の受託者の一人になる。ドーマンもまたこの信託の受託者だ。
レッドストーンの実の娘と仕事上の息子は、ほかの面でも似たところがある。ドーマン同様、シャリは弁護士で、注目を浴びたがらないタイプ。
同い年で、2人とも慎重な性格だ。日々の業務よりも高度な企業戦略に熱心になるところも似ている。ナショナル・アミューズメンツの社長の仕事に加えて、シャリは、初期段階のテクノロジーやメディア、娯楽ベンチャーに投資するベンチャーファンドのアドバンシット・キャピタルを経営する。
ドーマンもまた、メディアとテレコミュニケーションの投資に手を出している。
最近、シャリがドーマンにいら立ちを覚えていたことを示すヒントがあった。
「彼女は、レス(ムーンベス)をとても重んじている」と、オーストラリアのカジノ億万長者でシャリの友人であるジェームズ・パッカーは昨年の夏、ブルームバーグ・ニュースに話した。「フィリップとはバイアコムに関して少々問題がある」
2月3日、シャリは短い声明を出した。「おのおのの会社の会長として父の跡を継ぐ人物は、レッドストーン一家の関係者や家族信託の受託者ではなく、独立した立場のリーダーであるべきだと私は考えています」。この声明の解読は難しくない。シャリはドーマンの出世を妨害したかったのだ。
その翌朝、バイアコムの取締役会は、会長としてサムナーの後を継ぐ人を決めるために、電話会議を行った。10対1でドーマンが選ばれた。唯一の反対票はシャリが投じたものだ。
投票の成り行き、あるいは『バーニーズ あぶない!?ウィークエンド』のジョークで揶揄されることを心配していたとしても、ドーマンはその気配を見せなかった。彼は休暇を過ごしていたカリブ海のセントバーツ島から取締役会に電話をした。
「フィリップは、ほぼ30年間バイアコムの成功のあらゆる場面で、サムナーを助けてきた」と、シュワルツは後に声明を出した。
「彼が会長に就任することは、会社と株主全員にとって最も利益になる、とわれわれは考えている」取締役会がドーマン支持に傾いた要因がもう一つある。
証券取引委員会に提出された書類によると、ドーマンの契約には、サムナーの会長職を引き継がない場合、バイアコムは追加報酬として約8800万ドルを支払うという条項が含まれている。
バイアコムの早期改革を望む人は、不満の声を上げた。「取締役会とコーポレート・ガバナンス、信託の義務について疑問が浮かんだ」と、投票後にマスコミに宛てたEメールでジャクソンは述べた。
シャリのスポークスマンは、「彼女はバイアコム株主の最大の利益と信じることを訴え続ける」という声明を出した。
娘は父との和解を主張
1月上旬、ハーザーの訴訟を棄却に持ち込もうとするレッドストーン陣営を支援するために、シャリはロサンゼルスの法廷で陳述を行った。
父親が2015年の秋にハーザーを追い出して以来、シャリは父と再会し、関係を修復したと述べた。昨年11月以来、彼女は父親を39日訪問した。
同様に、彼女の3人の子どもも、彼女いわく「最愛のおじいちゃん」との交流を再開した。このときの陳述で、2009年以来、ハーザーはレッドストーンの財産から7000万ドル以上の現金と資産を受け取っていると考えていることも述べた。
ハーザーの代理人を務めるピアス・オドンネル弁護士は、シャリの陳述は「父親との関係に関するつくり話」だと応戦した。
「実のところ、マヌエラ・ハーザーは、ほぼ20年の間のサムナー・レッドストーンの献身的で忠実な、思いやりのある友人だった」と、彼は書いている。
「彼女への攻撃は、レッドストーン氏の悲劇的な精神能力欠如とごまかしの実態を見えにくくするためのものだ」
2月9日に提出された裁判書類によれば、レッドストーンの弁護団は、彼がハーザーから医療代理人の地位を剥奪した10月の同じ日に、5000万ドルとビバリーヒルズの豪邸の所有権の行先をハーザーから慈善団体に変えたことを明らかにした。
ハーザーの弁護士は、彼女にとって「この訴訟はカネの問題ではない」と、反論。そして遺産計画の内容を開示したことは彼女のプライバシーの「邪悪な意図的な侵害」だと反論した。
12月18日付けの手紙でレッドストーンは、晩年の医療に関する決定を行う際、シェリの意見を「共同医療代理人として行動しているものとして」考慮しなければならないとドーマンに指示した。
彼女とドーマンはすでに、7人の受託者から構成される信託について対峙(たいじ)する構えだった。だが今、さらにややこしいことに、2人ともレッドストーンの終末期の医療に関与している。
ともあれ、ドーマンはまずは1勝というところだ。これで、過去10年にわたって経営してきた会社を回復させる時間の余裕ができた。彼は会社の売り上げを促進することもできる。
バイアコムがCBSを再合併する話はかなり前からある。ムーンベスとドーマンは、常にその可能性をつぶしてきた。テレビ番組市場の統合の流れからすれば、たとえばAMCネットワークやタイム・ワーナーなど他社による合併もあり得る。
2月9日、バイアコムは昨年10~12月(第1四半期)の決算を発表した。売上高は前年同期比の6%下落で、31億5000万ドル、調整後1株利益は9%減の1.18ドルだった。
国内の広告収入は4%下がった。同社は、ティーンに人気があるモバイル・メッセージ発信アプリ「スナップチャット」にコンテンツを供給し、広告配信を行う新しい契約を大々的に宣伝した。
2014年3月のピーク時から53%下落していたバイアコムの株は、その日21%以上下げた。投資家との電話会議で、ドーマンは挑戦的な姿勢を見せ、批判者が間違っていることを証明すると誓った。
「われわれの展望と事実は否定論者や自己中心的な評論家、売名家に歪曲され、あいまいにされた」と、彼は語った。「われわれは動じることも、くじけることもない。目前に広がる明るい未来に向かってまい進する」
(執筆:Felix Gillette、翻訳:栗原紀子、写真:REUTERS/Danny Moloshok)
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