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初めての資産運用と適切な購入タイミング

国債、外国株式インデックス、上場TOPIX以外で投資すべき商品が知りたい

2016/3/2
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

こんにちは。山崎さんの以前の資金運用の相談を読み、初めて資産運用することを決心しました。

そこで、立ち読みしてくださいと書いてあった本を購入し、その本の通りにネット証券に口座を開きNISA、個人型拠出年金にも申し込みをしました(NISAおよび個人拠出年金の申し込み・手続きには予想外に時間がかかり今年のNISAには間に合いそうにありません)。

運用資金として2500万円あるので、安定資産として1000万円で国債を購入し、リスク資産としてニッセイの外国株式インデックスファンドを500万円、上場TOPIXを500万円購入する予定にしています。あと500万円の購入先を考えていますが、上記以外でバランスをとるため購入を検討すべきものがあれば教えてください。

また購入の適切なタイミングについてどのように見極めたらいいか教えてください。

(メーカー、女性、40代)

新興国株式の底値買いを狙ってみては

本題に入る前に、立ち読みと書籍の購入の関係について一言言わせてください。実は、回答者は、かつてある新書本の前書きで、「結論を早く知りたい読者は、○○ページを立ち読みしてください」と書こうとして、出版社の部長さんともめたことがあります。

本を買ってもらうには、立ち読みで興味を持ってもらうのが一番だと思ったのでした。結論をコンパクトに示されたら、その話に興味がある人は、理由を知りたくなるのではないでしょうか。

しかし、頑固で同時に小心な件(くだん)の部長さんは、「書店から文句が出ると困る」という理由で、頑としてこの記述を認めようとしませんでした。

今回、相談者が、「立ち読みしてください」と書いた本を購入してくださったことは、回答者を大いに勇気づけてくれました。ありがとうございます。

さて、今回のご質問には、何パターンかの回答が考えられますが、今回は3パターンの回答を提示します。いずれの回答にも、ご参考になる考え方があろうかと思います。

【回答1】3つの商品でいいではないですか!人は余計な商品を知ろうとするから間違えるのです。それにしても、500万円が単位というのは少し変です。

【回答2】「個人向け国債・変動10」を増やしておきましょう。無難です。

【回答3】外国株、特に新興国の株式を買いましょう。面白いと思いませんか。

読者にとっては、どの回答が納得的だろうか? 以下、3つの回答の背景をご説明します。

【回答1】余計な商品を知る必要はない

3つの商品でいいではないですか! 人は余計な商品を知ろうとするから間違えるのです。それにしても、500万円が単位というのは少し変ですよ。

理屈っぽくお答えすると、この回答になります。

そもそも、お金の運用目的は、誰にとっても同じ「お金をなるべく安全かつ効率的に増やすこと」です。そして、「お金の使い道は自由」。つまり、資金の使途は後から考えて、変えることができます」。加えて、運用商品の優劣は明確に比べることができます。

これらを論理的に組み合わせると、世の中にある運用商品の99%以上は、金融論的には、はじめから検討に値しないクズだと無理なく言うことができます。

「新しい運用商品を追加した方がいいのではないか」「世の中にある運用商品をもっと知るべきではないか」というお気持ちは、(回答者も含めて)金融マンにとっては大変ありがたい心情なのですが、多くの投資家が、必要のない運用商品に興味を持つことで、誤った投資に迷い込んでしまうのが現実です。

そこで、回答者は、運用の入門書を書くときに、①個人向け国債・変動10、②TOPIX連動のETF、③先進国株式の外国株式インデックスファンド、の3本に運用商品を絞ることにしたのでした。

「他の運用商品を見るヒマがあるなら、お金の運用のことなど考えずに、人生を楽しんでください(あるいは、もっと働いて稼ぐことを考えましょう)!」というのが拙著の真意でした。

多くの個人にとって、金融マンとやりとりをしたり、金融商品について調べたりすることは、危険であるのと同時に、知的・文化的にもくだらない時間の無駄です(運用を趣味にされるなら話は別ですが、その場合には、もっと本格的に取り組む必要があります)。

せっかく拙著を読んでいただいて、回答者の考えに、なにがしかご賛同いただき、3つの運用商品で2000万円まで運用しようとされているのですから、残りの500万円についても、同じ方針で分散投資してしまっていいのではないか、というのが【回答1】で言いたいことです。

それにしても、相談者は、なぜ運用商品を500万円単位で考えようとしておられるのでしょうか。この点はいささか奇妙です。

ご質問の前提条件を批判するというのは、人生相談としては「やや失礼」かもしれないので、遠慮しながら申し上げますが、500万円単位にこだわる必要はありません。

【回答2】「個人向け国債・変動10」を増やす

これが無難です。

実のところ相談者がどのようなご事情を抱えていらっしゃるのかを、回答者は正確には知りません。また、何らかの具体的なアドバイスをすると、仮に相談者がそのアドバイス通りに行動して、それが裏目に出る可能性があります。

結果が裏目に出て恨まれるくらいのことは、回答者個人としては、正直なところどうでもいいのですが、最も良心的な回答の方向性として、リスクが最小の答えを提示するというのは一つの見識かと思います。

そこで、「最も無難なアドバイス」は何かと考えると、無リスク(に近い)資産の中で最も有利な物の追加購入を勧めておくのがいい、という選択肢に行き当たります。

日銀がマイナス金利政策を導入し、長短の金利が一層下がった現在、(1)銀行預金よりも安全で、(2)変動金利で元本保証なので将来の長期金利上昇リスクに強く、さらに、(3)変動金利の最低金利として設定された0.05%が他の商品と比べて有利になった(メガバンクの10年定期で0.025%、10年国債の利回りも0%〜0.05%程度で変動中)という要素が加わり、「個人向け国債・変動10」(変動金利の10年満期型)は、目下圧倒的に有利な運用選択肢です。これを買っておくのは、無難な選択肢です。

【回答3】新興国株式のETFを買いましょう。

上記の【回答2】は、答えとして自分で書いてはみたものの、いかにも小心で融通が乏しく、まるで冒頭に書いた出版社の部長さんが考えた答えであるように思えます。

相談文を読み返すと、相談者は、確たる仕事をお持ちで、しかも、40代の今日までに2500万円の運用資金を蓄えられたという「経済的な強者」です。

十分リスクを取る余裕をお持ちでしょうし、「上記以外でバランスをとるため購入を検討すべきものがあれば教えてください」というご質問にも、「新たなリスク資産を追加しよう」という意欲がうかがえます(「バランスを取る」という言葉に、別のリスクを持つ資産を組み合わせることを示唆するニュアンスを感じます)。

せっかくご相談いただいたのだから、相談者の意を酌んで、ご満足いただけるような回答を探すというのも、正しい人生相談の姿でしょう。

2つ選択肢を提案します。

まず、国内株式と外国株式を50%ずつという組み合わせは、簡単ではありますが、機関投資家が使う期待リターンとリスクの前提を使うと、もう少し外国株式があっても悪くはありません。

1つは、以前の本連載でも取り上げた、日本株、新興国株、小型株も含めて世界の株式に広く投資するバンガード社の通称「VT」(ニューヨーク証券取引所のティッカーコードです)こと「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF」を買うという選択肢です。

このファンドは、大変良心的で、日本では2月29日に年間の経費率(≒手数料)を0.17%から0.14%に引き下げることを発表しました。

資産残高の成長を受けて運用手数料を引き下げ、商品を改善する(手数料引き下げは運用商品として「確実な」改善です)バンガード社の姿勢は大変素晴らしいと思います。残った500万円をこの商品に投資するのは、いかがでしょうか。

もう1つの選択肢は、もう少し山っ気があります。新興国の株式に投資するETFないしはインデックスファンドを買ってみないか、というご提案です。

近時の株価の下落には、米国の利上げに加え、資源価格下落、中国経済の減速などが複合的に作用した、「新興国バブルの崩壊」の側面があります。新興国への投資に向かっていた資金が、逆に新興国から先進国に戻っているのが、その大きな背景です。

株式は、不人気なときこそが買い時です。大まかな投資戦略を考えるとして、投資家にとって今年の一番の楽しみは「新興国株式の底値買い」ではないか、と回答者は考えています。このアイデアは、いかがでしょうか?

なお、「購入の適切なタイミング」は相談者にも分からないでしょうし、「今年は新興国株式が面白いのではないか」という(無責任な!)言説と矛盾しますが、実のところ、回答者にも分かりません。

投資のタイミングは、努力で分かるようになるものではありません。だから、悩まないでください。人生の努力は、投資タイミングを分かるようになること以外の目的に割り当てる方がずっと効果的です。

「好きなときに買ってください!」

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。