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EUで政府と研究機関が協力して解決目指す

一人暮らし高齢者をモニターするテレプレゼンス・ロボット

2016/2/04

これはシリコンバレーのものではないが、ロボットのプロジェクトで面白いなあと、ちょっと注目しているものがある。EU(欧州連合)で進められている『ジラフ』という、一人暮らしの高齢者をモニターするプロジェクトだ。

アメリカ、特にシリコンバレーでは、ロボット起業も多く、既存の技術を新しいアイデアで組み合わせ、商売になりそうなロボットを作る動きが盛んだ。ここでは、ビジネスモデルとかマネタイズということばが切り札として使われるのだが、ロボット分野も例外ではない。軍事に近いもの以外では、市場と技術を動かしているのは企業やビジネスである。

これに比べて、ヨーロッパは少々日本に近いと感じることが多い。社会が現在抱える問題を、とりあえず政府と研究との組み合わせによって解決してみようというアプローチが見られる。政府が研究補助金を出し、大学の研究室が場合によっては複数集まって開発を行う。マネタイズは後で考えようという場合がほとんどで、ジラフもそうした一例である。

ジラフは2段階で行われ、第1段階は2009年に開始、そして第2段階のジラフ・プラスは2013年に始まって昨年完了している。

EUのロボット研究関連の補助金を受け、イタリア、スペイン、スウェーデンの研究機関と、一部企業が参加。両方を通して可動式の会議システムともいえるテレプレゼンス・ロボットが使われているのが特徴である。

家の中を動き回り存在感がある

まだ一人暮らしができる高齢者の生活を、どうサポートするかは難しい問題だ。身の回りのことはどうにか自分でできるが、実際に家の中でどんなことが起こっているのかがつかみにくい。急に気分が悪くなったり倒れたりしても、見回り体制ができていないために見過ごされたりすることも多い。社会的なインタラクションが少なくなるため、身体や認知の衰えなども把握しにくい。

それでいて本人は独立心旺盛で、過剰にかまわれたりプライベートスペースを侵害されたりすることに抵抗する。高齢者施設よりも、自分がなじんだ自分の家で、好きなものに囲まれていつまでも過ごしたいと考えている。これは、現代の働く世代の未来像でもあるだろう。

ジラフでは当初、テレプレゼンス・ロボットを高齢者の家に置いて、家族や看護士、医師らが見回りをしたり、高齢者と会話したりといったことに使われた。ただの動かないスクリーンではなく、テレプレゼンス・ロボットは家の中を動き回るので、存在感もある。遠くにいる医師も居ながらにして、高齢者のだいたいの体調を診断できるわけだ。

第2段階のジラフ・プラスでは、このテレプレゼンス・ロボットに加えて、家の中にさまざまなセンサーが加えられた。ドアの開閉を認識する、家の中で高齢者が動き回るのがわかる、ベッドから起き上がるのを検知する、家電を利用するとそれがわかるといったさまざまなセンサーが、日常生活を多方面からモニターする。

それに加えて、身体の状態を計測するセンサーもある。血圧、血液中の酸素レベル、血糖値レベルなどを、簡単な機器を使うことで測定する。こうしたすべての情報が1カ所に集められ、高齢者の毎日をモニターするわけだ。

このテストケースでは、ヨーロッパの6人の高齢者の家にテレプレゼンス・ロボットが配置されたという。そのうちのひとりはイタリアに住む94歳の女性で、本を書いたこともあるコンピューター好き。自分のブログを毎日アップデートするような頭脳明晰(めいせき)な彼女だが、テレプレゼンス・ロボットがいるおかげで「安心した生活をおくることができる」と述べている。

リテラシーが高い若い世代が老人になる頃は…

ジラフは、もちろん高齢者の生活をうまくモニターする方法を探っているのだが、少ない介護提供者で多くの高齢者の世話ができるシステムを模索するものでもある。高齢者の比率がますます高くなるこれからの社会で求められるものだ。こうした統合システムがいずれ成熟すれば、人工知能も投入されて、異常があればすぐにわかるといったしくみも可能になるだろう。

ジラフを見ていると、ふたつのことを考える。ひとつは、ロボットは単体ではなく、全体的な幅広いシステムの中で使われると、その利用価値が上がるのだということ。われわれはとかくロボットに何でもしてもらおうと期待しているのだが、ロボットにはおしゃべりややりとり、そしてモノを取って来てもらうという機能に特化してもらい、他の部分は種々のセンサーでまかなってもらえば、ロボットはもっと早くわれわれの生活で活躍してくれるようになる。

もうひとつは、テクノロジーのリテラシーがずっと高い若い世代が老人になる頃には、高齢者の生活はいったいどんなふうになっているのだろうかということ。そういう彼らに今から関わってもらえば、後付けでテクノロジーを習得したわれわれとはまったく異なった高齢者生活像が出てくるのではないかと思うのだが、どうだろう。

いずれにしても、こうした具体的なプロジェクトの意味は大きい。直接関わった研究者だけでなく、これを見た人々の中にさまざまなインスピレーションがわくはずだからだ。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。