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楽天のボールパークビジネス(2回)

総工費30億円で天然芝化。熱情のボールパークは街のシンボル

2016/1/31

杜の都にある宮城球場は、1950年に建設されてから半世紀以上の歴史を誇る。2005年シーズンから本拠地とする東北楽天ゴールデンイーグルスは楽天koboスタジアム宮城と命名し、総額100億円以上かけてリノベーションしてきた。

2015年シーズン終了後には、翌年の開幕に向けて人工芝から天然芝への改修工事を開始。ビジョンの新設などを含めて総工費30億円をかけたこのプロジェクトについて、スタジアム部の川田喜則部長はこう説明する。

「この球場には天然芝が似合います。イーグルスでは『メジャーリーグのようなスタジアムをつくっていこう』と、球界参入当初からボールパーク化構想を掲げていました。それを前提に今回、投資をしました」

2015年まで人工芝だったコボスタ。天然芝になれば、一層美しい光景が見られるはずだ

2015年まで人工芝だったコボスタ。天然芝になれば、一層美しい光景が見られるはずだ

メジャー28球場が天然芝

本来、ボールパークやスタジアムは街に溶け込み、地元の人々に愛されるような場所だ。つまり都市のシンボルであるため、その中で脈々と刻み込まれてきた歴史や伝統、雰囲気を踏まえながら、時代の潮流や市民の要望に合ったかたちでデザインされるべきである。新国立競技場のザハ・ハディド案に対する批判に「神宮外苑の歴史的文脈が考慮されていない」という声があったが、街の象徴ともいえるスタジアムは市民やファンの誇りとなるべき場所なのだ。

イーグルスは毎年のようにコボスタ宮城の改修を行う一方、66年前に設置された6基の照明灯は当時のものを使い続けている。宮城球場の施設をシンボルとして残すことで、オールドファンからは「昔のイメージが残っているので、親近感を持てる」という声もある。

球場のドーム化を望むファンもいた中、イーグルスは「野球場の魅力を感じてほしい」と考えた。なぜなら、コボスタはボールパークであるからだ。海の向こうに目をやると、メジャーリーグ30球団のうち28チームが天然芝の本拠地でプレーしている。ボールパークには青々とした天然芝が必要だと、イーグルスはこだわってきたのだ。

コボスタに隣接する天然芝のフィールド「グリーンフィールド」。選手も登場してファンと一緒の時間を楽しむ

コボスタに隣接する天然芝の「グリーンフィールド」。選手も登場してファンと一緒の時間を楽しむ

球場に生命を宿す天然芝

では、天然芝と人工芝の決定的な違いは何か。川田部長はこう考えている。

「天然芝の場合、生き物がフィールドで育っています。見た目、匂い、芝の生えている雰囲気。それらの良さは、実際に見ないとなかなかわからないかもしれません。しかし、人工芝は人間がつくったものですよね。天然芝と比べて、見たときの感覚がまるで違うと思います」

選手視点に立つと、足腰への負担減少がメリットとしてまず挙げられる。人工芝も年々改善が進んでいるものの、天然芝には及ばない。人工芝で飛び込むと火傷するリスクもあり、天然芝のほうが思い切ったプレーをしやすいといわれている。イレギュラーしやすいというデメリットはあるが、守備の基本ができていないと対応しづらいので、長い目で見れば選手のレベルアップを促すことができる。

ファンとしては、ダイナミックなプレーを見られるのが何よりの楽しみだ。たとえば球界屈指のセカンド守備力を誇る藤田一也がセンターに抜けそうな打球に飛び込み、一塁にリズムいいスローイングでアウトにする。そうした好守を太陽に照らされた天然芝で見せるほうが、人工芝より映えるはずだ。選手たちが躍動しやすい舞台は、ファンにとって大きな魅力となる。

リズミカルな守備で魅了するセカンドの藤田一也

リズミカルな守備で魅了するセカンドの藤田一也

技術面の進化で実現可能に

数年間検討してきた天然芝化に今オフ踏み切れたのは、技術面の進化によるところが大きい。メジャーリーグの球場で導入されているサブエアーシステム、簡単に言えば床暖房を日本で初めて導入した。

仕組みとしては、寒い時期には天然芝の下から温風を吹き込み、芝の育成を促す。気温の下がりにくい夏場には、水分の調整を行うことで地熱温度を下げて芝を生育させる。こうしたシステムのおかげで、美しい芝生を保つメドが立ったのだ。

ただし、人工芝より維持費用がかかるのは間違いない。少なくとも2倍、多くて5〜10倍となる可能性もある。雨天中止の試合も増えるだろう。歌手のコンサートなど野球以外のイベント開催は現状、年に1度あるか、ないかというくらいだが、芝の養生を考えると使いづらくなる。

ボールパークはコミュニティ

それでも天然芝化に踏み切った背景には、コボスタが「コミュニティ化」を目指しているからだ。

ここ数年、スタジアムで野球を見ないにもかかわらず、コボスタを訪れる人が増えてきた。外周で行われるイベントに参加したり、ビールを飲みながらモニターで試合観戦するなど、ファンの楽しみ方にバリエーションが出てきているのだ。

それこそ、イーグルスが描くボールパークの姿だと川田氏が言う。

「スタジアムだけではなく、コンコースにある売店やいろいろなスポット、外周で行うイベントを含めて、一つのエンターテイメント施設をボールパークだと考えています。そのボールパークの中に、私たちの理想のスタジアムがある。極端に言えば、試合を見なくても誰かがそこにいるから自分も行く、というかたちでもいいんです。そうやってコボスタがコミュニティ化していけばいいと思います」

コボスタの外周では、大勢のファンが思い思いに楽しんでいる

コボスタの外周では、大勢のファンが思い思いに楽しんでいる

ハードとソフトの融合で観客増

魅力的なハードをつくり、試合やイベントを含めて質の高いソフトを提供することでファンを満足させていく。観客動員を増やすには、その両者が不可欠だと川田氏が続ける。

「1回足を運んでもらうためのソフト的な施策と、1回足を運んだらもう1回来たくなるようなハードがともに必要です。ソフトとハードの施策が融合して、それがリピーターにつながっていくと思っています」

イーグルスの定義するボールパークは、単なるスタジアムの概念ではない。熱い思いを込めた象徴が、左中間後方につくられる観覧車だ。

左中間スタンドには約4000平方メートルの公園がつくられ、観覧車が設置される予定だ

左中間後方には約4000平方メートルの公園がつくられ、観覧車が設置される予定だ

(写真:©Rakuten Eagles)

<連載「東北楽天ゴールデンイーグルスのボールパークビジネス」>
2004年に球団創設して以来、東北で着実にファンを獲得してきた東北楽天ゴールデンイーグルス。本拠地をボールパークと捉え、充実したファンサービスを行いながら球界に新風を吹き込んできた球団の取り組みについて、隔週日曜日にリポートする。