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権田修一・SVホルン入団会見速報

権田がホルンで入団会見。現地の心を掴んだコミュニケーション力

2016/1/30

「私の名前は権田修一です。ポジションはGKです。背番号33をもらいました。SVホルンの成功のために常に全力を尽くします。ありがとうございます」

1月29日、オーストリア3部東地区SVホルンの入団会見に臨んだ権田は、そう自分をドイツ語で自己紹介した。途中で詰まってしまう場面もありスラスラというわけにはいかなかったが、この20秒を越えるドイツ語での挨拶は会見に集まったメディアを驚かせるには十分だった。
 
今回の会見に際し、現地メディアの関心は高かった。それは公共放送局であるオーストリア放送協会がクルーを送り込んだことや、全国紙『クローネ・ツァイトゥング』など多くのメディアがやってきたことからも明らかだ。とりわけ日本代表歴のある権田への関心は高く、会見後には3つのメディアが個別のコメントを求めたほどだ。

左からMFニルス・ザトル、DFミラン・ボルテル、GK権田修一、トライアウトに合格したMF新井瑞希。2部昇格を後押しすることが期待される

左からMFニルス・ザトル、DFミラン・ボルテル、GK権田修一、トライアウトに合格したMF新井瑞希。2部昇格を後押しすることが期待される

ホルンとともにCLの舞台へ

彼らがまず気になったのがなぜ、日本の1部リーグからオーストリアの3部へやってきたかということだ。オーナーであり日本代表のチームメイトである本田圭佑はイタリアの名門ACミランでプレーしているのだから。

「まず日本人のGKがヨーロッパでプレーするのはとても難しいことです。そのなかでJリーグでプレーしている僕がいきなりACミランに移籍することは99.9%ないと思っています。なのでまずホルンに入り、そこからステップアップしていけたら、もっと言えばクラブがステップアップしていく力になって、CLに出られるくらいのクラブになれるように力添えできればいいなと思っています」

さらに権田はこう説明した。

「僕は日本のJリーグで10年間プレーしていて、チャレンジをしたい、ヨーロッパのクラブでプレーをしたいという気持ちをずっと持っていて、その機会を与えてくれたのがこのクラブです。僕の目標はロシアのワールドカップで出場すること、日本代表に貢献することです。SVホルンは野心があるクラブなので、僕はそれがすごく気に入ってこのクラブを選びました」

実際プレーをしてみてどんな印象を持ったのだろうか?

「これは日本人みんなに言えることなんですけど、組織的にやることは日本は本当に優れていると思います。逆にヨーロッパでプレーしている選手は個人個人の質は本当に高いものがあるなというのは来てみて感じました。僕は正直ホルンの選手はあまり知らなかったので、3部のチームの選手がどういう選手なのかなというのはありましたけど、ポジションを争うGKの選手を含めてとてもレベルの高い選手が多いので、日本に来たら試合に出られるような選手、中心でできるような選手もたくさんいるなという気がします」

そして今後のことはどう考えているのだろう?

「ヨーロッパで必要とされ続ければ、ヨーロッパでプレーしたいと思っています。今回はFC東京との契約もあり期限付きで来ていますが、自分の価値をホルンで高めてヨーロッパで価値ある選手になればお金を出して僕を買ってくれるクラブがあるかもしれないので、それは自分次第なのでこれから頑張りたいと思います」

再びドイツ語の挨拶を披露

人口1千万人を越える大都市・東京で生まれ育った権田だが、人口6500人のホルンに対する印象は良いものだった。

「思っているほど田舎じゃなかったです。逆に日本はたくさんのものが溢れすぎているので。こっちは生きていくのに必要なものだけがあるので、コンパクトになっていて生活しやすいと思います。こっちにきて引越しの手続きをする時も全部歩いて回れましたが、日本だったら電車に30分乗ってという感じなので」

この会見には権田のひととなりが良く表れていたように思う。会見終了後、個別でコメントを求めた公共放送局オーストリア放送協会(ORF)のレポーターは、最後に「あのドイツ語での挨拶はすばらしかったよ。もう一度やってくれないかい?」とアンコールをお願いした。権田は嫌がるそぶりも見せずに再びドイツ語での挨拶を披露すると、レポーターも「パーフェクトだよ!」と満足した様子で帰っていった。

ドイツ語でリクエストに応え、早くも現地記者の心を掴んだ

ドイツ語でリクエストに応え、早くも現地記者の心を掴んだ

それを見ていた放送局『schaue TV』は、コメント収録の最後にさらなるお願いを求めてきた。それは「オーストリアで最もホットなリーグを『schaue TV』で観ます」というアイキャッチをドイツ語で、というもの。事前に準備して覚えてきたものならまだしも、その場でとなるとかなり難しい。「一週間もらっていいですか?」と冗談を飛ばす権田だが、通訳にカタカナ表記してもらい何とか読み上げた。

権田から記者へのお願い

ただ、権田も彼らに対して「お願い」をすることを忘れなかった。「これからもホルンの取材に来てくれるんですよね?」、「毎週ホルンの試合を取材しに来て下さいね?」と別れ際に笑いながら声を掛けるのを忘れなかった。

もちろん現実的に彼らが頻繁にホルンの取材にやって来る可能性は低いし、今後どの程度の頻度でやってくるかもわからない。権田自身も特に意識して取り組んだものではないだろう。それでもこのわずかなやり取りで現地メディアは権田に対して非常に好意的な印象を抱いたはずだ。

(文・写真:山口裕平)