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チームオーナーには元NBAスター選手も

eスポーツの中でも最も競争力のある著名なゲームリーグが、イノベーションが起きつつある。主要スポーツのバックグラウンドがある投資家たちも無縁ではない。

ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)は、プレイオフの開幕前に激動を迎えた。3チームがロサンゼルスへの移転をめぐって競い合い、リーグがほぼ20年ぶりに移転を承認したのだ。

だが、この事態も、知名度がやや劣る「League of Legends Championship Series」(LCS)で起きている激変とは比べものにならない。

LCSは、ビデオゲームの大会としては世界的に有名な存在だ。新シーズンは1月16日に開幕するが、状況は2015年と比べてほぼ一変する。LCSの北米リーグでは、参戦する10チーム中、3チームを新オーナーが運営。現行のいくつかのチームは、選手を全部入れ替えるのだ。

たしかに、LCSをNFLのような数十億ドル規模の巨大リーグと比較するのは馬鹿げている。LCSでは、チームが約100万ドルで売却されるが、NFLでは、トム・ブレイディのようなスター選手が、公式戦で2試合プレイするだけでそれくらいの金額を稼ぎ出す。

だが、ビデオゲーム大会を軽視したくなる者たちにとって、ここ数カ月の展開は、現在成長中のeスポーツ界に、大企業(および、プロスポーツ界のベテランたち)が進出していることを示すものだ。

LCSの新しいチームオーナーには、米プロバスケットボール協会(NBA)チーム「サクラメント・キングス」の株式も保有するアンディ・ミラーとマーク・マストロフのほか、NBAチーム「メンフィス・グリズリーズ」の共同オーナーであるスティーヴ・カプラン、NBAの元スター選手リック・フォックスも含まれている。

資金力のあるこれらの新規参入者の登場は、閉鎖的だったeスポーツの世界を、伝統的なスポーツに似たものへと変えると期待されている。

eスポーツの混乱状態に比べ、LCSは安定

eスポーツ界の新たな大立て者たちは、長期的な変化のプロセスを促進しつつある。「チームを買収しようとしている人たちは、NFL式のエコシステムにしたがっている」と説明するのは、eスポーツ企業に協力してきたコンサルタント会社マジッド・アドバイザーズ(Magid Advisors)のマイケル・ヴォーハウス社長だ。

「チームの買収を検討したり、オーナーになることを検討したりする私の顧客はみな、キャピタルゲインを期待しており、将来的には価値が10倍になると一般に予想している」とヴォーハウス社長は語る。「ただ、その将来が来年だと考えている者はいない」

そうした未来を実現するのは単なる規模の問題ではない。eスポーツの大会は、まだカンブリア爆発のような段階にあり、それ相応の大混乱に陥っている。

eスポーツ界はゲームパブリッシャーと独立系のトーナメント主催者、チーム、ストリーミングプラットフォームが入り乱れ、そのどれもが、全体的戦略がないまま行き違いが起こりがちな若い男性たちによって運営されているのが一般的だ。

eスポーツの全般的な混乱状態と比較すると、LCSは相対的に安定している。これは主に「League of Legends」ゲームのパブリッシャーであるライアット・ゲームズが自ら大会を運営し、参戦チームへの厳しい管理体制を敷いているからだ。

それでも、ライアット社はこれからも、スポーツリーグの標準的なビジネスモデルに必要とされる多くのものを作り上げていく必要がある。

なにしろ、長期的な放送配信契約やチーム運営を維持する安定した組織は存在せず、選手の扱いに関する基準もない。競争を平等に行うための戦略に関してもたいして進歩がない。けれども、チームのオーナーが最近入れ替わっているのはプロフェッショナル化の初期兆候であり、プロ化に至るまでの大変動を示唆しているのかもしれない。

「チームは不利な条件で外部からの投資を受けざるを得ない」

LCSの大変動が始まったのは、ここ最近のシーズンで苦戦していた「Team 8」が、リーグからの脱退を決めた昨秋だった。eスポーツチームの売却プロセスは、NBAフランチャイズの売却とは異なる。

アリーナのリース契約はなく、選手と大型契約を結ぶ相手が変わることはない。売却できるのはLCSへの参加権だけだ。eスポーツのこうした契約条件は非公開だが、最近の取引に詳しい関係筋によれば、今回のオフシーズン中の参加権売却で動いた金額は80万〜120万ドルであり、前オフシーズン中の価格の3倍に上ったという。

Team 8の参加権を手に入れた新オーナーは、チーム名を「Immortals」に変更。外部の投資家から集めた資金でトッププレイヤーの誘致に惜しみなく金を使い、オールスターチームを作り上げた。

チームの最高責任者であるノア・ウィンストンは選手を雇う前にサポートスタッフを採用。チームの栄養管理予定表の作成から、トレーニング内容の考案までを行った。最終的にはTeam 8から残留したのは1人だけだった。実況放送のアナウンサーは新メンバーを「ドリームチーム」と呼び始めている。

Immortalsの最も注目すべき強みは、資金を入手できることだ。ファンの間で根強い人気がある「Cloud9」や「Team SoloMid」といったライバルチームではなく、自分のチームに参加するよう選手を説得するには、金を派手に使うのがいちばんだとウィンストンは述べている。

「有名チームに追いつくためには、金を十分に使う必要がある。スタートアップがリクルートにやってきて、『インテルが払うのと同額しか支払わない』と言わないのと同じだ」

年末までに、同様に大きな資金に支えられた他の2つの投資家グループが、それぞれ新チームの「NRG」と「Echo Fox」を結成した(両チームの代表は、インタビューに応じずコメントを避けた)。

こうした新たな資金は閉鎖的なeスポーツオーナーの世界に対して圧力が強まったことを意味した。一部の情報筋によると、選手の報酬は1年で4倍になった。かなりの資金力がないと、チームオーナーがチームへの残留を提案するのが困難になっているという。

「期待が急激に膨らんでいる」と説明するのは、以前はプロのビデオゲーム選手で、現在は様々なeスポーツビジネスに携わっているスティーブン・エリスだ。「チームは不利な条件で外部からの投資を受けざるを得ないと言っていい」。

後編は明日掲載します。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Bloomberg News、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:Riot esports/flickr

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This article was produced in conjuction with IBM.