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日本企業のイノベーションは30代から始まる

【大企業30’s】会社のリソースを使って、やりたいことをやる

2016/1/21
新しくて面白いものをつくるのはベンチャー企業。そんなムードに押されがちな大企業も、本当は豊富なリソースを武器にもっとイノベーションが生み出せるはず。そんな想いを抱いた大企業の30代社員とNewsPicksがコラボレーションし、イベント「大企業30s――日本企業のイノベーションは30代から始まる」を昨年11月に開催した。大企業で働く30代社員のリアルなトークを通じ、大企業ならではのカルチャーやその難しさ、面白さや可能性の大きさについて一緒に考えた。
第1回:大企業でイノベーションを起こす方法とは

人のせいにするのが一番つまらない

佐々木:パネルディスカッションには濱松さんに加え3人の皆さんに登壇してもらいます。3人の皆さん、簡単に活動紹介をお願いします。

大川:富士ゼロックスの大川陽介です。社内で「秘密結社わるだ組」という有志のネットワーク活動をやっています。開催イベントは約90回で、これまでに延べ約1500人が参加してくれました。

私はもともと、楽しく仕事をしたいという考えが強かったのですが、社内では、何か新しいことをやろうとすると「リスクがある」「うちの部門の仕事じゃない」と言われることが多く、30歳の頃には仕事がつまらないと感じるようになりました。

そこで居酒屋で愚痴をこぼしていたわけですが、人のせいにするのが一番つまらないことだと気づいて、わるだ組の活動を始めました。大企業ではよくあることですが、愚痴の原因はたいてい組織の壁なんですよね。そこで私たちはこれを「妖怪そしかべ」という象徴にしています。

なぜ妖怪なのか。仕事が楽しくないのは、実は組織のせいではなくて自分の問題だから。妖怪は自分の心がつくり出す幻影であるとの思いを込めて「妖怪そしかべ」です。

30代で自分の無力さを感じているなら、40代になって急に会社を変えられません。でも30代のうちにつながりや実績をつくっておけば、40代になったとき、電話一本ですぐ相談に乗ってくれる、力を貸してくれる関係ができて会社を変えていけるんじゃないか。これが、私が「わるだ組」の活動を始めた大きな理由です。

私たちの活動は、まず「楽しさ」があって、それをベースにしてやった結果、つながりができる流れです。

「仕事も人生も、自分たちで、楽しくしよう」をモットーにやっていますが、「楽しい」って本質的には何だろうと改めて考えると、一人ひとりの好奇心を解放することが「楽しい」なんじゃないかと気づきました。それができたら「妖怪そしかべ」なんてあっという間に駆逐できるはずだと。

最近の活動を紹介すると、某食品会社の有志活動と一緒になってアイデアソンを行い、子どもの頃にやりたかった夢を実現しよう! と「手作りデザートプール」をやりました。思う存分食べてやろうみたいな。

また、カレーが泉のように湧いて出てきて、そこにパンをつけて食べる「カレーファウンテン」もしましたね。「蛇口からカレー」は、蛇口をひねった瞬間に歓声が上がりました(笑)。

これらの活動を会社に言って公式化してしまうと、やたらと「結果」を求められるので、あくまでも「秘密結社」です(笑)。結果を求めると、失敗したらグループの関係の質が悪くなって結局動けなくなる。逆に、先に関係性を高めることを目指せば結果はついてきて、より関係が良くなる。この好循環を目指しています。

イノベーションの観点からお話しすると、私たちができることは、社内各所にいる可燃物質、つまり熱く燃え上がる可能性のある人を、ゆるい導火線でつなぐことです。熱い人って、各部署で結構孤立しているんですよね(笑)。

その人たちをつないでおけば、どこから火を起こしても大きな炎になります。これが大きなうねり、イノベーションに発展するかもしれませんから、つなぐことは私たちの大きな役割だと思っています。

佐々木:「手作りデザートプール」って、やることで何か意味があるんですか?

大川:子どもの頃にできなかったあの夢を! という好奇心の解放です(笑)。

大川 陽介(おおかわ ようすけ)  富士ゼロックス株式会社  1980年千葉県我孫子市生まれ。4才の娘に翻弄される父親。中小企業診断士。早稲田大学大学院で機械工学を専攻後、富士ゼロックス株式会社へ入社。SE、営業などを経て、現在は商品開発本部で新価値の探索に挑む。2012年、仕事も人生も楽しむための有志ゆるネットワーク「秘密結社わるだ組」を立ち上げ、社内外の壁を超えて、「楽しい」をキーワードに「人のつながり」を創る活動を行っている。

大川陽介(おおかわ・ようすけ)
富士ゼロックス
1980年千葉県我孫子市生まれ。4才の娘に翻弄される父親。中小企業診断士。早稲田大学大学院で機械工学を専攻後、富士ゼロックスへ入社。SE、営業などを経て、現在は商品開発本部で新価値の探索に挑む。2012年、仕事も人生も楽しむための有志ゆるネットワーク「秘密結社わるだ組」を立ち上げ、社内外の壁を超えて、「楽しい」をキーワードに「人のつながり」を創る活動を行っている

自分の名前で仕事がしたい

沼田:NTT東日本の沼田尚志です。16歳のときに原因不明の難病にかかって半身不随になり、3年間寝たきり状態でした。必死にリハビリをやって通信制の高校に通い、大学に行き、NTT東日本に入りました。

今日ここに集まっている皆さんは比較的優秀なビジネスマンが多いと思いますが、私、社内の評価はずっと低いです。コミュニケーションが下手で周囲とうまく口がきけない時期もあったりして、「丸出だめ夫」みたいな社員です(笑)。

社内での人脈もないので、勝手に社外でつながろうと、1年前に「新規ビジネスのつどい」というイベントを始めました。

会社の名前を出して黙ってやったので怒られるかと思いましたが、社内の人は意外と誰も気づきませんでした。新聞に取り上げられたこともあるのに、私の活動を社内で知っているのは10人ぐらいしかいません。ここが、今日登壇しているほかの皆さんとは違うところです。

これで味をしめ、自分の名前で仕事ができる環境にしたいと考え、いろいろな媒体に出ました。その結果、女性の活躍推進プログラムに関わらせてもらったり、企業のイノベーションビレッジで登壇したりなど、「沼田と仕事がしたい」と個人的なオファーをいただくようになりました。

社内の評価も低い私に個人名で仕事が入ってくるなんて、私自身にとっても大きな驚きでした。

皆さんへのメッセージは「意外とばれないので、勝手にやりましょう」ということです(笑)。ゴー・イノベーション! とお伝えして、私の自己紹介とします。

沼田 尚志(ぬまた ひさし)   NTT東日本 ビジネス開発本部所属 16歳で原因不明の難病を患い半身不随となる。3年間のひきこもり生活後、通信制高校/大学を経てNTT東日本へ。9年間のキャリアで法人SE/SOHO営業/企画戦略/ハードウェア開発などさまざまな職場を経験し、現在の新規事業開発へ。本業の傍ら、新規ビジネスに関るイノベーター達の祭典「しんびじ」を開催。左脳を失う経験から論理的な思考より直感を軸にした行動力が強み。34才蟹座のB型。好きな言葉は「イノベーション」。

沼田尚志(ぬまた・ひさし)
NTT東日本
ビジネス開発本部所属。16歳で原因不明の難病を患い半身不随となる。3年間のひきこもり生活後、通信制高校、大学を経てNTT東日本へ。9年間のキャリアで法人SE、SOHO営業、企画戦略、ハードウェア開発などさまざまな職場を経験し、現在の新規事業開発へ。本業の傍ら、新規ビジネスに関るイノベーター達の祭典「しんびじ」を開催。左脳を失う経験から論理的な思考より直感を軸にした行動力が強み。34才蟹座のB型。好きな言葉は「イノベーション」

遊ぶように働き、働くように遊ぶ

村上:JR東日本の村上悠です。2005年に入社して、現在34歳です。商業施設やホテルなど不動産開発を担当しています。

仕事の傍ら、「Team Fantasy-sta.(チームファンタジスタ)」という有志の活動をしています。会社のリソースを使って、やりたいことをやる。そういうチームです。「やりたいことがやれない」のは、社会と会社の重なる部分を扱っていないから。

社会と会社、さらに個人の想いが重なる部分にエネルギーをつぎ込めば、必然とやりたいことができます、そうやってプロジェクトベースで実践しています。

Team Fantasy-sta.の行動指針は「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」です。素晴らしき公私混同。これを社会人の当たり前にしていきたい。

名前の由来ですが、ステーションをはじめとするJRの資源を使ってファンタジーを実現しようという意味です。アイデアを事業化する「ゼロから1」の段階に特化して活動しています。

沼田さんからも「勝手にやる」の話がありましたが、私たちがやっていることも同じです。「勝手にやる、提案する、事業化する、そしたらすごく楽しい!」という流れです。この流れで動くと「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」になるわけです。

具体的なプロジェクトをいくつかお話しします。まずはJRのホテルを利用したプロジェクト。ホテルは地域の魅力を伝える器だと捉え、栃木のホテルのラウンジで、栃木の伝統工芸である益子焼について、職人さんを講師に迎え、宿泊客にレクチャーしてもらいました。益子焼の魅力を伝えることができれば、焼物を買ってもらえて地域の人も喜ぶし、ホテルも集客が上がります。

上野駅では、駅の空いているスペースを使って、親子でアニマル工作をしよう! という取り組みをしました。私たちは、ほかのJRグループの商業施設で一度実施しただけで、上野の件には関わっていません。契約書などのフォーマットも含め、会社での実績をつくってしまえば、それを見て共感してくれた周りの方が進めてくれる。小さく生んで大きく育てるという事例です。

またJRは地域に土地建物などのアセットを持っていませんが、JRが持つ資源を開放し、自立したプレーヤーが地域活動する仕組みをつくることが、まちづくりになると考えました。

埼京線の取り組みでは、地域活動をしている大学生にJRのリソースをバンバン使ってもらって、大学を卒業した後に地元で起業する仕組みになればと思っています。

「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」。これが私たちのチームから社会全体に広まっていけばいいなと思っています。

村上 悠(むらかみ ゆう) 東日本旅客鉄道株式会社 1981年生まれ。2005年法政大学大学院建設工学専攻修了後、JR東日本に入社。主に駅周辺の商業施設、ホテルなどの不動産開発を行う。「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」という会社人の生き方、働き方を提案する「team Fantasy-sta.」を主宰。ホテルメッツ渋谷アートボックス、ホテルRメッツ宇都宮、イキダネPJ、Community Crossing Japanなど社内外のさまざまなプロジェクトに参画。

村上 悠(むらかみ・ゆう)
東日本旅客鉄道(JR東日本)
1981年生まれ。2005年法政大学大学院建設工学専攻修了後、JR東日本に入社。主に駅周辺の商業施設、ホテルなどの不動産開発を行う。「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」という会社人の生き方、働き方を提案する「Team Fantasy-sta.」を主宰。ホテルメッツ渋谷アートボックス、ホテルRメッツ宇都宮、イキダネPJ、Community Crossing Japanなど社内外のさまざまなプロジェクトに参画

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載します。