20160114-careerstory

RECRUIT×NewsPicks 求人特集

業種を超えたプロフェッショナル・キャリアの挑戦

2016/1/18
専門的なスキルがあれば、業種を超えて経験の幅を広げスキルアップしていくことができる。P&Gの消費財のマーケターから、DeNAのアプリやネットサービスのマーケターへと転じて、独立後もマーケティングのプロフェッショナルとして活躍を続ける彌野泰弘氏に、キャリアへの思いを聞く。同時に、異業種からの応募可能な求人情報も掲載する。

マーケティングのプロとしてP&GからDeNAへ

「1年でアプリなどネットサービスのCMを100本以上作ったのは、日本で私しかいないでしょう」

そう語るのは、2015年4月に独立するまでの約3年半、DeNAで執行役員マーケティング本部長として全社横断でマーケティングの指揮をとっていた彌野(やの)泰弘。

とはいえ、彌野がDeNAに入社する前からアプリやネットサービスの知識や経験が豊富だったわけではない。DeNAへの入社前の彌野は、P&Gで消費財のマーケティングを担当していた。SK- IIなどの化粧品に始まり、スナック菓子のプリングルズ(現在はケロッグに売却済み)、シェーバーなど小型家電のBRAUNのブランドマネージャーを国内外で務めた。

彌野によると、マーケターには2つのタイプがあるという。主観を重視するタイプと、客観を重視するタイプだ。

主観を重視するタイプは、担当する商材に対する自身の感覚を大切にする。その商材への愛着が、マーケティング戦略を立てる上で重要なのだ。

一方、客観を重視するタイプは、自身が商材のユーザーである以上に、その商材のターゲットのニーズを客観的にとらえ、ターゲットが重要視するものを客観的に判断する。自身の主観的な視点はバイアスととらえてあえて外す。

彌野は、客観を重視するタイプだ。だから、彌野は女性用化粧品のSK-IIなどのマーケティングもやってきた。そこにあるのは、ターゲットにできるだけ良いプロダクトを届けていきたいという強い思いだ。

例えば、ある飲料を売り出すとする。マーケティングで重要なのは、自分にとってその味が好みかどうかではない。その飲料のターゲットが誰か。どのようなシーンでどのような期待値で飲んだら、そのターゲットが求めている便益を感じてもらえるのかを明確に定義する。そうすれば、おのずとマーケティング上で必要な製品要件やプロモーション要件が見えてくる。

「ゲームでもそれは同じ。ロールプレイングゲームの場合、ユーザーが求めているのはワクワクする非日常な冒険体験。CMでも求めている冒険のワクワク感が伝わるようにするのがポイントです」

DeNAでマーケティングに携わる中で、彌野は商材が変わってもマーケティングのフレームワークには変わりがないと確信した。

「需要と供給のバランスで需要が強い市場であれば、良い製品さえ作れば売れるのでマーケティングは必要ありません。逆に、同じ需要に対して供給が過剰になる市場では、マーケティングが必要です。

それは売れるかどうかを左右するのが企業の意思ではなく、ユーザーの判断に変わるからです。ユーザーが何を求めているのか、その現状と理想の間をプロダクト面、プロモーション面、そしてブランディング面で埋めていく作業がマーケティングです。

それは、単にアンケートでユーザーが求めているものを作ることではありません。また、広告出稿や広告の最適化がマーケティングではありません。ユーザーの根源的なニーズや欲求を理解し、期待を超えるプロダクトやサービスを生み出し、届けていくのがマーケティングです」

「日本企業でマーケティングをしてみたい」

P&Gといえば、マーケティングを志す者、誰もが憧れるマーケティング先鋭企業だ。なぜ彌野は、P&GからDeNAへ転職したのだろうか。

P&Gでのキャリアの後半は、シンガポール、ジュネーブを拠点に日本やアジア市場向けのマーケティング戦略を立案していた。

海外での滞在を機に彌野は自分が日本人であることを強く意識するようになった。海外にいると、どこから来たのかと聞かれ、「日本から来た」と口にすることが増えた。そんな中で起きた意識変化だった。

P&Gという外資系企業に身を置き、日本向けのマーケティングをすれば、ライバルは日本企業だ。花王やパナソニックを相手に、どうやって勝つかを考える日々。

いつしか彌野は、日本企業と戦うのではなく、日本企業の製品やサービスを世界に売り込むようになりたい、また、マーケティングのレバレッジがより大きくなる成長産業にチャレンジしてみたい、と思うようになった。

日本企業が世界で強みを発揮でき、しかも市場が成長している業界とは。そう考えた結果、行きついたのがインターネットの業界だった。中でも、ファクトとロジックを大切にするカルチャーがP&Gと似ていたDeNAへの転職を決めた。

「DeNAでは最初は役職もなく、一社員のポジション。日本企業で、成長しているインターネット産業にあり、会社の文化が肌に合う。そして、これまでのマーケティング経験が生かせそうだと思ったのです」と、彌野は言う。

実際にDeNAに転職してみると、あまりのスピードの速さに驚いた。「7倍といわれるドッグイヤーどころではなかったですね」と、彌野は振り返る。消費財の場合は、1年先から3年先を見通し、四半期ごとのプランを立てる。原則、期初に作ったプランをベースに動くのが常だ。

2012年当時、ゲーム業界はモバイルの黎明(れいめい)期。半年先のことは、誰にも分からないのが大前提。プロジェクトを進めるのに時間をかけて社内説明用の資料を作り込むこともない。意思決定のプロセスも圧倒的に速い。すぐに決めて、決まったらすぐに動く。

CMなどのプロモーションの効果がリアルタイムに数字で見えるのもインターネットサービスの特徴だろう。何がうまくいき、何がうまくいかなかったかも明確に分かり経験として積み上がる。

また、CMが当たればユーザー数が爆発的に伸びる。消費財に比べてボラティリティが圧倒的に大きいのが、彌野の性格に合った。

消費財は市場は大きいが、小売店の棚を取るか、シェアをどう維持するか、という「守り」が中心のマーケティング。一方、インターネットサービスは市場自体が成長する中で新しいものを作り出していく「攻め」のマーケティングが中心だったことも彌野の志向にはまった。

米国大学卒業。約9年間に渡り、P&G社にて、高級化粧品のSK-II、スナックのプリングルズ、そして小型家電のBRAUNなど、幅広いターゲット、価格帯、そして、販売チャネルのブランドマーケティングを、日本市場、韓国市場、オーストラリア・ニュージーランド市場に向けて担当。  日本だけでなく、シンガポール、スイスなどの海外オフィスで、アジア各国、欧米各国などの多国籍なチームメンバーと共にマーケティング戦略の策定、および実行の指揮を取る。  2012年1月にDeNAに入社。執行役員 マーケティング本部 本部長として、主力のモバイルゲーム事業、EC事業、新規事業において、パフォーマンスフォーカスのテレビCM、デジタルマーケティング、戦略PRなどのクロスメディアの360°統合マーケティングを推進。手がけたCMの本数はネットサービスのCMだけで100本を超える。  新規サービス開発時のマーケティング視点での開発支援(コンセプト強化、UI/UX強化、集客機能の強化)や、DeNA社のコーポレートブランディングのために、DeNA社のロゴの刷新やグローバル拠点の名称統一などを指揮。  DeNAベイスターズ・DeNAランニングクラブといったDeNA社のスポーツ事業を活かしたスポーツマーケティングも含め、全社のマーケティング活動を統括。  2015年4月に株式会社Bloom & Co.を設立。ナショナルクライアントからシードからレイターといったスタートアップ企業までのマーケティングやブランディングを支援。  CNET Japan CMO Award 2014 受賞。Ad Tech Tokyo、Google Think、Play with Twitterなどで登壇。  http://www.bloom-and-co.com

米国大学卒業。約9年間に渡り、P&G社にて、高級化粧品のSK-II、スナックのプリングルズ、そして小型家電のBRAUNなど、幅広いターゲット、価格帯、そして、販売チャネルのブランドマーケティングを、日本市場、韓国市場、オーストラリア・ニュージーランド市場に向けて担当。 日本だけでなく、シンガポール、スイスなどの海外オフィスで、アジア各国、欧米各国などの多国籍なチームメンバーと共にマーケティング戦略の策定、および実行の指揮を取る。 2012年1月にDeNAに入社。執行役員 マーケティング本部 本部長として、主力のモバイルゲーム事業、EC事業、新規事業において、パフォーマンスフォーカスのテレビCM、デジタルマーケティング、戦略PRなどのクロスメディアの360°統合マーケティングを推進。手がけたCMの本数はネットサービスのCMだけで100本を超える。 新規サービス開発時のマーケティング視点での開発支援(コンセプト強化、UI/UX強化、集客機能の強化)や、DeNA社のコーポレートブランディングのために、DeNA社のロゴの刷新やグローバル拠点の名称統一などを指揮。 DeNAベイスターズ・DeNAランニングクラブといったDeNA社のスポーツ事業を活かしたスポーツマーケティングも含め、全社のマーケティング活動を統括。 2015年4月に株式会社Bloom & Co.を設立。ナショナルクライアントからシードからレイターといったスタートアップ企業までのマーケティングやブランディングを支援。 CNET Japan CMO Award 2014 受賞。Ad Tech Tokyo、Google Think、Play with Twitterなどで登壇。 http://www.bloom-and-co.com

「好きを見極める」のがキャリア戦略の第一歩

功績が評価されてDeNAの執行役員マーケティング本部長に昇格した彌野。どんな能力が成功につながるのか、と聞いたところ、意外な答えが返ってきた。

「人の能力にそんなに大きな差はないと思っています。むしろ、自分が素で好きな仕事をやっているかどうかが大事」と彌野は言う。好きな仕事なら人は時間を気にせず集中できる。集中して量をこなせるから、スキルアップする。スキルアップすると求める結果が出やすくなり、更に仕事も増え、経験が増え、さらにスキルアップする」

人は十人十色。それぞれに好き嫌いがある。だから「自分が本当に好きなことを見極めることこそ、キャリア戦略の一番大切なこと」と彌野は言う。キャリア戦略とは自身のマーケティング戦略。自分の本当に好きなことを見極め、それに取り組むことが、自分の得意を作り、自身のキャリアに生きてくる。

彌野にとっては、マーケティングは好きで楽しい仕事だった。だからこそ、人よりも時間をかけることもいとわなかったし、自分の強みにできた。P&Gでの経験を生かして、DeNAという異業種に転身することで、さらにキャリア領域を広げられたのも、好きな仕事だったからだ。

以前から起業志向があった彌野はDeNAを離れ、今は独立した立場で、アパレル、飲料、ファストフードなどのナショナルクライアントのマーケティングアドバイザーをしている。また、シード期からレイター期までのインターネットを中心としたスタートアップ企業のマーケティングアドバイザーとしても活躍している。

彌野のキャリアを通じて浮かび上がるのは、プロフェッショナルなスキルは業種を超えて生かせるという事実だ。業種の垣根を越えてこそ広がる知見や人脈、そして何よりキャリアの幅を広げてくれる機会が生まれることを、改めて気づかせてくれた。

(写真:北山宏一)