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養育費圧縮のためなら年収を捨てる覚悟もあるが…

離婚後の養育費として月16万円の要求。納得できない

2015/12/23
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

15年連れ添った妻と離婚調停中です。離婚を言い出したのは妻の方で、私には寝耳に水でした。

私は広告代理店に勤務しており、毎晩、深夜帰宅がほとんどで家庭を顧みなかったことが、妻には許せなかったようです。妻が離婚を言い出した以上、もう愛情はないことは明らかですし、私としては離婚に応じるつもりです。2人の子どもへの愛はあり、定期的に会うことは妻も認めています。

山崎さんに相談したいのは、養育費についてです。妻は養育費として月16万円を要求しているのですが、それには納得できません。私の年収は1500万円、メーカーに勤める妻は750万円です。私が浮気などの不義理を働いていならいざ知らず、ただ、ひたすら仕事をしてきたのにと思うと納得できないのです。

養育費を下げるため、また、ちょうど今の仕事以外にやりたいことも見つかったので、年収を捨てて今の会社を退職し起業しようと考えています。養育費を下げたいというのは不純な動機でしょうか。
(広告会社、40代、男性)

「大人の離婚」

離婚は、多大なエネルギーを消耗する不本意なイベントですが、夫婦の「どちらか」が、一緒に暮らすよりも別々に暮らす方がいいと合理的に判断するなら、それ自体は仕方がありません。基本的に、一方、ないしは両方が、「この相手と一緒に暮らすのではない方がいいのだが」と思いながら我慢をして一緒にいるのは、人生の無駄です。
 
ご相談文から、相談者は、この点を十分理解されていると拝察します。

また、相談者と奥様とが共に素晴らしいのは、相談者が金額に不満はあっても現時点で養育費を支払うことを前提として離婚を考え、奥様が子どもを離婚後に父親に会わせることを承諾しておられることです。

離婚しても養育費を払わない元夫、離婚したら子どもを元夫に会わせない元妻が、世間に少なからぬ割合で存在することを思うと、離婚を褒めるのは妙な感じもしますが、いい意味で「大人の離婚」だと思います。

夫・妻が共に、外で働いて、少なからぬ収入を得ていることが分別をもたらしているのでしょうか。

子どものお金は積極的に払おう

さて、今後の問題を考えるに当たり、ここまでの経緯を整理しておくといいと思います。以下は、法律論ではなく、回答者の個人的な価値観とバランス感によるものだとあらかじめお断りしておきます。

ご相談文によると、離婚に至った原因を、「毎晩、深夜帰宅がほとんどで家庭を顧みなかったこと」だと相談者は理解されています。回答者自身の日常を振り返ると背筋が寒くなるような理由ですが、これは、離婚を決意するに十分な理由であるように思います。

求める生活像が違うのですから、一緒に暮らす意味が無いと一方が思っても仕方がありません。離婚理由は十分です。

一方、夫・妻双方に相手に対して、深刻な不実があったわけではなく、どちらかが慰謝料を請求するような関係ではないのだとも拝察します。この点は、相談者だけでなく、奥様も理解されているのでしょう。

離婚に伴うお金の動きは、一方に問題があった場合に、問題があった側が慰謝料を支払い、子どもがいる場合には、両者の収入に応じて一方が(たいていは収入の多い方が)子どもが成人するまで相応の養育費を支払うのだと理解するのがいいと思います。

つまり、相談者に不貞等の問題となる事実があったかどうかと、養育費は分けて考えるべきでしょう。

相談者の場合、今回の離婚は、慰謝料のやり取りが発生するような離婚ではないが、養育費は「子どものために」元夫・元妻の間で相応の額をやりとりするべきだと理解しておくのがいいでしょう。

「16万円(毎月)」という額の多寡に関して、回答者は「相場観」を持っていませんが、ウェブサイトを検索して相場らしきものを調べると、奥様に少なからぬ収入があることを考えると、幾らか多い印象を受けます(詳しくは、離婚問題のプロ、たとえばNewsPicksのプロピッカーである荘司弁護士のような方の意見を聞いて下さい)。

お子様に対するお気持ちとして、相談者は、子どもの将来の費用は負担するにやぶさかでないでしょうが、別れた後の奥様の生活費まで負担することは、納得しがたいところでしょう。奥様と交渉して、当面支払う養育費を引き下げること自体は、何ら恥ずかしいことではないと思います。

もっとも、お子様に掛かるお金については、「相場」より高くても、相談者が払いたいと思うだけ払うとするなら、何ら構わないとも思います。

また、交渉次第でしょうが、恒常的に掛かる養育費を抑える一方で、学校の入学金や授業料など、将来の「子どものために掛かる支出」であることが明確なものについて支払うことを約束する費用負担の方法もあるのではないでしょうか。お金に色は付いていませんが、相談者にとって、より納得できる払い方を交渉するといいと思います。

「(離婚後の)元妻のためのお金を払う気はないが、子どものためのお金は相応程度以上、払う用意がある」と考えるのが良い基本方針でしょう。

余計なお世話かもしれませんが、別れた妻の元にいる子どもの養育費を払い渋るようなセコイ男に、将来、女性が魅力を感じる可能性は小さいのではないでしょうか。

養育費と仕事は分けて考える

ご相談文を拝読して、最も気になったのは、相談者が「今の会社を退職し起業しよう」とすることと、養育費の圧縮を関連付けて考えようとしておられることです。

基本的に、養育費はその時々の経済状況に合わせて上下しても構わないものでしょう。転職や起業をしなくても、人や仕事にも、会社にも盛衰があり、離婚時点で決めた養育費を長い将来保証しなければならないと考えることは、合理的ではありません。

一方、今の会社を辞めて、好きな仕事で起業するという、精神的にも経済的にも極めて重要な問題を、養育費の多寡と関連付けて判断することは、全くバカげています。

小さくても確実で気になる損得にこだわって、ずっと大きなスケールの意思決定が影響されるのは、オマケや特典、あるいはポイントなどにこだわって、大きな買い物をしてしまう消費者(現実には少なくないでしょうし、だから「ポイント」が存在するのでしょうが)と同じくらい愚かな意思決定だと思います。

現実的には、(1)まずお子様に適切だと思われる費用を年収比等の納得のいく基準で負担することについて合意し、しばらく頭を冷やしてから、(2)「養育費とは別に」ご自身の仕事をどうするかを考え、しかる後に、(3)ともすればセコイ方向に傾きやすい相談者の気持ちをたたき直しつつ叱咤(しった)激励してくれるようないい奥さんを見つけるように頑張って下さい。

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。