【新連載】レアル・マドリードの経営哲学
レアル・マドリード大学院に日本人が入学。巨大クラブの世界戦略
2015/12/17
今秋、酒井浩之(36)は広告代理店を退社してレアル・マドリードの大学院に入学した。なぜレアルはスポーツビジネスの人材を育てようとしているのか。酒井がマドリードでの日々をつづる。
2015年10月、ついに念願のスペインのマドリードへやって来た。
レアル・マドリードの大学院から正式に合格通知をもらってから約6カ月。スポーツマネジメントのMBAコースに、日本人として初めて合格をいただくことができた。
レアル・マドリードの大学院が設立されたのは、ちょうど10年前の2006年のことだ。自分が入学する代でちょうど10期目。これまでに世界40カ国・総勢125人の卒業生を輩出してきたそうだ。
レアル・マドリードが地元の大学と提携をして直接運営をしており、校長は1980年代に選手として活躍した伝説のエミリオ・ブトラゲーニョ氏。クラブ自ら優秀な人材を育て、世界中にネットワークを築くのが目的だ。そのためなるべく多くの国から生徒を集めており、僕が入れたのも日本というエリアを意識してのことだろう。
悶々とした日々を変えるために
僕がレアル・マドリードの大学院に応募したのは、会社に通う日々に悶々としたものを感じていたからだ。
サラリーマンとして、自分は本当に挫折ばかりだった。大学卒業後に外資系のスポーツメーカーに勤めることができたが、リーマン・ショックなどの影響もあって解雇されてしまった。ほかの会社を見つけても、なぜか約1年半ごとに解雇、解雇。その後、契約社員として広告代理店に入社したが、ふと思うことがあった。
「自分は何を目指しているんだろう。何のために働いているんだろう」
学生時代はFC青山というチームに入って、本気でプロサッカー選手を目指していた。それだけに、理想と現実のギャップにやるせなさを感じていた。
きっかけは大先輩からの勧め
そんなとき、一歩を踏み出すきっかけを与えてくれたの、やはりサッカーだった。
FC青山は青山学院大学サッカー部のOBが中心となって活動している社会人サッカーのチームだ。青学サッカー部のOBの一人に、アメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)のアジア事業顧問の中村武彦さんがいる。
仕事に身が入っていなかった昨年8月末、ある食事会に顔を出したところ、ニューヨークから帰国していた中村さんに出会った。中村さんはFCバルセロナの仕事をしていた経験もあり、スペインにもパイプがある。大先輩はこう言った。
「レアル・マドリードに直結した大学院がある。まだ日本人は入ったことがない。もし興味があるなら紹介するぞ」
レアル・マドリード、そして日本人初。この2つの響きがすごく魅力的に感じた。
「ぜひ情報をください!」
テストまで半年間しかなかったが、英語をもう一度復習し、筆記試験とネットでの面接をパスして、合格することができた。
シニアコースに入学
いざ来てみると、うわさ通り、生徒は世界中から集まっていた。同期は約50人で、そのうち半分が「5年以上の社会人経験」が求められるシニアコース。自分もそのコースだ。
生徒の国籍を書くと、スペイン、フランス、ポルトガル、スイス、ウェールズ、オーストリア、アイルランド、ポーランド、トルコといった欧州はもちろん、北米からアメリカとカナダ、南米からブラジル、コロンビア、アフリカからケニア、アジアからサウジアラビア、クエート、ヨルダン、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、パキスタン、韓国、そして日本。
レアル・マドリードが世界中を視野に入れていることが伝わってくる。
絶対に卒業したい
入学してから1カ月半しか経っておらず、すべての教授に会ったわけではないが、アメリカの超有名大学の教授、レアル・マドリードのマネジメント部の職員、レアル・マドリードの元バスケットボール選手の授業を受けた。
学校側から授業内容を明かすことが禁止されており、詳細は書けないが、経営の全般的なことから、組織運営の細いことまでさまざまなことを習う。
「あなたはどう考えるか?」と質問され、みんなで意見を交換しながら進めていく授業が多い。ランダムに4、5人のグループをつくり、プレゼンをすることもある。
すべて授業は英語だが、なかなかスパングリッシュ(スペイン語訛りの英語)はハードルが高い。
授業後、仲良くなったサウジアラビアの友人と、思わず顔を見合わせた。
「今日の授業、わかった?」「いや、正直わからん」「そういえばカナダからの彼は英語ペラペラだし、スペイン語もわかるらしいから助けてもらおうか」
それでもみんなの解釈が食い違ってしまい、教授に確認することも。とにかく声を上げないと取り残されてしまう。食らいついて、自分の存在をアピールしていくしかない。
海外の大学は入学することよりも卒業することのほうが大変だとはうわさに聞いたことがあるが、本当にその通りだと感じている。
今は、「絶対に卒業してやる!」という、その思いが心の支えだ。
(写真:筆者提供)
*本連載は月に1回のペースで掲載予定です。