冬季東北流通特集:よねや商事・布施正洋社長 新コンセプトで売上げ30億円目指すハッピーモール店
2015/12/07, 日本食糧新聞
東北の有力SM、ヤマザワ(山形市)は2013年12月、資本提携していたよねや商事(横手市)を完全子会社化し、社長には布施正洋氏が就任した。よねや商事の13年3月期売上げは、106億5000万円、営業損失が890万円、経常利益4100万円というものだった。布施社長は「企業文化が異なり、ヤマザワの経営手法そのままではいかない」という認識で、コストの見直しや取引先との交渉を進めてきた。さらに、旗艦店となるハッピーモール店が10月8日オープンしている。売場面積730坪(2409平方m)、売上げ30億円を目指す店だ。布施社長にこの間の取り組みを聞いた。
◆コスト見直しへヤマザワ手法 漬物・鮮魚など地域商材重視 早急に次世代育成図る
旧店舗の売上げが26億5000万円あったが、ハッピーモール店は30億円の予算をたてた。売場面積はほとんど変わりない2409平方m。10月8日オープンから1ヵ月経過したが、前年比5~6%増の推移だ。1週間休業してこの分を引いてもこの業績になっている。1週間丸っきり休んだ。ぎりぎりやったが、備材や厨房設備など使えるものは使いたかったので、どうしても1週間の休みで対応しなければならなかった。従業員は前の店からそのまま働いてもらっている。オープン後の業績についてはほぼ見通し通りで、30億円はいけるという手応えを感じている。休業もそうだが、天候が極めて悪く、もっといけたはずだ。
ただ、平日の徒歩と自転車のお客が厳しい。こうした方々が前期よりもよくない。前の店より800m離れてしまったためだ。以前だと国道13号線を越えて、歩いてこられるお客が結構いた。この店の開店前に、「新しい店が向こうにできたら、私は週末しか行かない」といった声が聞こえていた。それが数字に表れている。立地はベストではないが、われわれが出店しなければイオンが来る予定だった。
●商圏特性
横手市の旧市内の方々の所得は結構高い。客単価は2200円。他の小さな店では1600から1700円程度になる。この店だけ突出する。客数は昨日(注・11月8日)で3700人だった。平均すると3400から3500人。売上げは10月で2億2000万円。ヤマザワの松見町店に比べ若干少ない。だからヤマザワグループとしても2番目に規模の大きな店となり、重要な位置付けの店になる。以前のハッピータウン店は全体売上げの4分の1を占めていた。他の8店舗は売上げでは前年を維持しているのが半分、前年割れが半分。経費をはじめさまざまなところで見直しに着手し、利益は確保できている。これからの基礎になるこの店を、しっかりしたものにしていかなければならない。
●見直すべき点
鮮魚から精肉にかけての主通路。幅が240cmしかない。300cmとりたかった。これから年末商戦にかけてショッピングカートが止まってしまう恐れがある。グロサリーを狭めて広げる計画でいたが、出来上がりが現在のレイアウトになった。ゴンドラも150cmにしたかったが165cmになった。酒類もヤマザワと同じ135cmにして主通路からの進入率を高めたかったがこれも高くなった。魚から肉にかけての主通路を広げるのは難しい。冷ケースをカットしなければならない。
●品揃えについて
目の前にバザール横手店がある。以前の店より近くなった。どうしても同じ土俵には立ちたくない。品揃えで上下の幅は拡大したが、やはり中間の部分だ。ここが一番よねやが支持を集める部分であり、ポイントはここだとしている。アッパーな商品を一部導入し、競合店に対応できるような品揃え政策だ。価格競争は避けたい。よねやは違う方法でいきたい。高級志向のお客さんも結構いる。このため、山形からドレッシング、ジャムのセゾンファクトリー商品を並べている。どうかとも思ったが、意外と知られていて、想定以上に売れる。
●酒類売場
オープン記念では純米大吟醸の獺祭を限定販売した。ドン・ペリニヨンも置いたが、高価格商品がびっくりするほど売れる。毎月25日にワインの2割引セールを行い、これが好評で、全店9店でこの日だけで1500から2000本売れる。隣接して平鹿総合病院があり、医者や病院関係者の購入が多い。この一帯は個人病院も多い。病院需要という点では果物、かご盛り、花も重要だし、こちらも高価格商品が売れる。清酒どころと思っていたが、山形から来て、ワインの売れることに驚いている。
●漬物文化
「いぶりがっこ」の本場なので、漬け込むのは各家庭でということで、平台に完成前のいぶした状態の大根を積んである。もちろん漬け込んだものも1本で、またスライスして多く品揃えしている。さらに松前漬け、三五八漬け、沢庵漬けの素、中ザラ、酢などは定番で十分売れる。また秋田はこの時期何といってもハタハタが大切な魚で、ハタハタ寿司に欠かせない糀、フノリなども重要だ。つくる人が減っているとはいえ、60歳代以上の家ではハタハタを箱で買い自宅で漬け込む。ハタハタ漁は漁獲枠があって今シーズンは800tで抑えるという。昨年1680tだったから、17年ぶりの少ない量と漁師は嘆いている。
山形県庄内地方もハタハタ文化が根付いている。このため、酒田から仕入れる段取りもしている。市場ではセリが夕市。それを翌朝引っ張ってくる。山形丸魚との取り組みだ。水産はこのほか、仙台市場は仙台水産。秋田は秋田丸魚から男鹿で捕れる魚をお願いしている。ヤマザワ同様に週2回築地からも仕入れる。このように四方八方からの仕入れ体制を築いている。秋田は魚に対する目が肥えていて、われわれも手を抜けない。
●青果物の扱い
農家が多く、おんぶにだっこ的なところがある。今後鮮度管理含めもっと店での機能を果たさないといけない。冬期は県外物が多く入荷する。山形の丸勘青果市場を使ったりしている。生鮮はベンダーにお願いしている。グロサリーは、2年前から大仙市で丸和運輸機関が物流センターを運営しているが、生鮮は9店舗では必要ない。ベンダーのフットワークもいいので現状では問題ない。
●なすべきこと
無駄なコストを省くこと。さまざまメスを入れなければならないし、ここ3年で経営基盤を固めていきたい。人事制度は当然柱であり、来期から見直しをかけ、ヤマザワに近いかたちに持っていく。地元業者との取引が多く、ヤマザワからの見直しで、売上げは同じでも利益は倍という具合になった。地元はもちろん大事だが、見直すべき点は現実にある。
ハッピーモール出店は私が来る前からの計画であって、途中入院したものだから、図面やレイアウトを見て、病院から指示していた(笑い)。他店舗の赤字は大幅なものではないので閉店することはない。ただ古い店が多い。新店はなかなか出せないので来期は2店舗の改装に取り組む予定だ。とまき店と横手南店。通常のSMでは変わり映えしないだろうから、売場を小さくしてもいいから、競争力のある、特徴ある売場をつくっていきたいと考えている。
競争力とは品揃えの問題だ。競合店に比べるとやはり見劣りする。建物、売場は大きいが品揃えの魅力に欠ける。来期早々にやろうということで指示を出した。
●ヤマザワの政策と独自性
異質な企業文化、経営手法があるわけで、簡単に同じにはなれない。異なるところだから、共通の目的を明確にしていかないと進まない。ただ、こちらに来て反発が大きいだろうと覚悟していたが、飛び込んで行くと理解してくれた。商品部長も現在の取り組み、考えをきっちり話してくれたし、私も同行して教えてもらった。だから私もできる限りのチャネルを付け、条件、値入れの改善など協力できている。これがあって売上げが伸びないが利益改善が進んだ。包装資材関係もそうで、トレー回収も有料化した。
よねやの持っているいいところはあるから、ヤマザワ通りにやっていくとはいわない。いいところは取り入れる。即食コーナーはヤマザワスタイルだ。よねやの社員も交流のあるサミットを視察してきて学んでいるからスムーズにいった。
●今後の課題
やはり人材育成だろう、大きな課題だ。各部門でバイヤーが一人しかおらず、次の世代が育っていない。早急にサブのバイヤーを付けて育てていかなければならない。採用に当たっては高卒者を多めに採用したいが、この地域でも募集をかけてもなかなか集まらない。人材不足では展望が開けない。ヤマザワから来ているのは、私と副社長だけだ。今後の出店は難しいが、ヤマザワのブランドが認知されていないから、逆に一気に3店舗ほどの出店でインパクトを与えることも考えられる。ヤマザワの開発部隊は、由利本荘など秋田県内でさまざま活動をしている。
バザール、ビフレ、タカヤナギといった地元との戦いが大きい。週末セールにはわれわれも少なからず影響を受けるが、SMとして商品、品揃えを基軸に差別化戦略で戦う考えだ。そうでなければ勝ち残れない。
●「とくし丸」事業について
移動SM事業のとくし丸は今年4月から横手南店で始まり、角館店、横手双葉店、11月大仙市とまき店での展開。従業員が出資して始める個人事業だ。各店舗で軽トラックに商品を積み込んで移動販売するものだが、高齢者が多いエリアで、事業の可能性に注目した。これは売れ残りを店で販売するのでリスクが軽減するというものだ。
〈ハッピーモール店概要〉
所在地=秋田県横手市横手町五ノ口36-1/店舗施設=売場面積730坪(2409平方m)、テナント4店/営業時間=午前9時から午後12時/店長=岩井川正樹/年商予定=30億円
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