RECRUIT×NewsPicks 求人特集
岡島悦子が語るヘッドハンターとの付き合い方
2015/11/19
キャリアについて、誰かに相談したいと思ったことはないだろうか。ヘッドハンターに会うのは、転職の時だけとは限らない。ヘッドハンターとして、長年、人材紹介やエグゼクティブサーチを行ってきた岡島悦子氏に、若手ビジネスパーソンとヘッドハンターの付き合い方を聞いた。
ヘッドハンターの2つのビジネスモデル
ヘッドハンターとは、企業の「かかりつけ医」のようなものです。クライアント(人材を求めている企業)が患者で、キャンディデート(それに合う人材)が薬。患者の症状を聞いて診断し、処方箋を書いて薬を探すのが私の役目です。過去13年間、毎年、約200人の経営陣のかかりつけ医として、コンサルティングから(社内外の)人材確保までトータルで相談に乗っています。
ヘッドハンティングには、大きく分けて、2つのビジネスモデルがあります。ひとつは「エグゼクティブサーチ」。ヘッドハンターという言葉通り、社外から経営者を見つけてくるもの。企業が抱える経営課題を分析し、その課題を解決できる経営のプロを探します。私が行っているのも、このエグゼクティブサーチです。
もうひとつは「人材紹介」。企業の求人情報と転職したい人を仲介するマッチングビジネスです。経営層でもなく、データサイエンティストのように特別な専門分野を持つ超スペシャリストの採用でもない場合、ほとんどがこのマッチングビジネスの人材紹介です。
人から脳内検索してもらえるように、自分のタグを増やす
キャリアにおいて最も重要なのが、いかに大勢の人に「脳内検索してもらえる人材になるか」ということです。
個人のキャリアは、「能力開発」と「機会創出」のかけ算。多くの人が能力開発には熱心に取り組んでいるのに、機会創出に関しては受け身なままです。
スタンフォード大学クランボルツ教授の「Planned Happenstance Theory」によると、世界の多くのリーダーたちが、成功のきっかけは「セレンディピティ=偶然な幸福」と呼ぶべき機会を経て、一皮むける経験をしたこと、だったと語っています。
キャリアの転換は大半が偶然に起きるものですが、それを呼び寄せたり、逃さないためには努力が必要。ヘッドハンターに会うことは、セレンディピティの機会を増やすための努力です。
今は、環境変化のスピードが早く、先のことが読めない時代。30年先までキャリアデザインをガチガチに考えても、あまり意味がありません。
例えば、SEという職種は将来海外にすべて委託されてしまうかもしれないし、金融の窓口業務はビッグデータによるITシステムに取って代わられるかもしれないのです。ですから、緻密なキャリアデザイン設計をするよりも、セレンディピティをいかにつかむかを考えたほうがいいでしょう。
よく「棚ぼた」といいますが、そもそも、棚の下にいないと落ちてきたぼたもちを拾えません。そして、複数ある棚の下にいる機会が多ければ多いほど、ぼたもちが落ちてくる確率は高くなるのです。
では、棚の数を増やすにはどうすればいいのか? 自分の希少性を高めることで「自分ブランド」を確立することです。それにより多くの人の脳内検索にひっかかりやすくなるはず。
この「自分ブランド」を表すものを、私はキャリアの「タグ」と呼んでいます。重要なのは、脳内検索上のAND検索、すなわちタグの「かけ算」です。
例えば私の場合、経営×人材育成、組織開発、リーダーシップ開発、破壊的イノベーション推進、女性活躍推進、グローバル推進支援、ベンチャー企業支援(ベンチャー業界のゴッドマザー)など、さまざまなタグがあり、そのかけ算で希少性が増します。タグが多ければ多いほど、機会を提供してくれたり、他薦してくれる人脈が広がり、かけ算が希少であればあるほど、機会が提供される確率があがります。
これが棚ぼたの棚が増えていくということ。こうして、ぼたもち、つまりセレンディピティをつかみやすくなります。
キャリアコーチとなるヘッドハンターを見極める
一口にヘッドハンターといっても、その能力にはかなり違いがあります。ハイエンドな美容院のカリスマ美容師とシャンプー担当くらい差があると思ってください。
そういった個々のスキルの差に加えて、さらに大きく2種類のヘッドハンターに分類できます。機会創出マシーンのようにとにかく案件を持ってくるタイプと、ライフタイム・キャリアコーチとなるようなタイプです。
後者は生涯を通じてキャリア形成を考えてくれる「お抱えキャリアコーチ」とも呼べる存在。メンタル面のアドバイスをしてくれたり、長い付き合いになるので、相性がかなり重要になります。
キャリアコーチ的なヘッドハンターは、本の帯書きのようなものです。たくさんの情報の中から、クライアント企業の経営課題を浮かび上がらせ、キャンディデートの興味やスキルに結びつける編集力がある。その人のキャリアにとって何がプラスか、きちんと言語化できるスキルもあります。複数のヘッドハンターを比較することで、信頼できる相手を見極めてください。
また、定期的にヘッドハンターに会うことは、自分の客観的な市場価値を知るうえで非常に有効です。社内と社外の評価や価値というものは、往々にしてずいぶんと違うもの。オープンな場で自分の価値や、足りないスペックが何かを把握するチャンスと考えてください。
キャリアデザインに代わる「キャリアドリフト」を実践
キャリアチェンジを考えるべきタイミングというのは、自分の成長カーブが鈍ってきたかな、と思ったときです。
ただし、そういう時期がくるまでは、社内で思いっきり仕事をすること。どんどん打席に立ってヒットを打てるように、とにかく実績を積んでください。打席に立つことで、自分の適性や、やりたいことがはじめて見えてきます。実績や適性の理解はもちろんですが、善意の失敗から得た経験値でさえタグの要素になります。まずは思い切り仕事をしてタグのかけ算を増やし、自分の希少価値を高めることにつなげてほしいと思います。
ただし、同じタスクを3〜4年していると、成長カーブの鈍りを感じることがあるはずです。こうした節目にこそ「自分の希少性を高めるために次に加えるべきタグは何か」と考え、社内で新しいタグを獲得できる環境を探す(創る)べきです。社内横断プロジェクトやジョブローテーションに手をあげるという方法もあります。
この節目以外の時には、タグを想起しながらもひたすら目の前の仕事を一生懸命する、そうすると想定外の機会がやってくる、これがPlanned Happenstance Theoryです。
通常、人材市場でニーズがあるのは、部下を持ち人材マネジメントスキルを持つようになってから。会社の規模やスタイルによっても、そのタイミングは違ってきますが、大企業なら入社10年、ベンチャーやプロフェッショナル・ファームなら入社5年くらいが目安。
ベンチャーは動く歩道を歩いているようなもので、すべてのスピードが早いし、打席に立つチャンスも多い。一方で、大企業は下りエスカレーターを駆け上がるようなもの。いくら一生懸命上ったつもりでも、上がつかえていて、チャンスが巡ってきづらい。結局、ずっと同じ場所でくすぶることになったりすることも少なくありません。
「35歳、転職限界説」というのがありますが、私は基本的に年齢に遅すぎるということはないと考えています。
ただし、例えば40歳という年齢に見合うだけのタグや実績がないと、やはり人材市場で選ばれるには厳しい。この会社ではこれ以上タグを増やすチャンスが巡ってこないと思うなら、キャリアチェンジを考えるべきでしょう。
このように、転機がくるまでは今いる場所でひたすら目の前の仕事をがんばりながら、節目の転機が訪れたら逃さない「キャリア・ドリフト」が、これからの主流。チャンスという流木がきたら、すかさずキャッチしてステップアップを目指すという考え方です。
弱みの克服よりも強みを伸ばす
大事なのは、自分の「比較優位性」、つまりタグのかけ算による希少性と、自己の客観的市場性を理解していること。弱みを克服するのではなく、強みを伸ばすことがポイントです。
好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、そしてリスク・テイクを持つ人材であることも、Planned Happenstance Theory的な機会創出に必要な資質でしょう。
多くの経営者と話していて感じるのは、今、求められている人材というのは結局、みんな
同じだということ。それは、自立型変化適応人材。外部環境の変化の先頭に立ち、変化に適応した戦略を自分の頭で考え実行できるリーダーです。
自立型変化適応人材とは、その時々の状況に合わせて自在に変化できる人のこと。世の中には、与えられた課題に向かって努力する「課題解決型」は多くいます。
しかし、変化する外部環境の中で「課題を抽出」し、自分の頭で考え実行することが、大事になってくる。経営知識やスキルはもちろん必要ですが、抽出した課題を解決するために人材を動かすための実行力や人間力の必要性が、ますます高まっています。
また、環境変化の激しい中、イノベーションが必然的に創出され続ける環境整備を行えるリーダーというのは、後方からメンバーを支え、ゆるやかに目的地へ導く羊飼いのような存在。一人の強力なカリスマ性をもつリーダーよりも、異能な人々を集め、切磋琢磨(せっさたくま)の議論と実行のための環境整備ができるようなリーダー像が求められはじめています。
これらの条件を満たし、将来への伸びしろを感じさせる人には、ヘッドハンターとして大きな魅力を感じますね。
ヘッドハンターと話してみると、市場での自分の価値、今後自分が増やすべきキャリアのタグなどが見えてくるのではないでしょうか。
(聞き手:久川桃子、構成:工藤千秋、写真:福田俊介)