〈テクノロジーリポート〉ユニバンス「トルクコンティニュアスリー・オートシフト・トランスミッション」
2015/11/18, 日刊自動車新聞
マニュアルトランスミッション(MT)や四輪駆動装置などのギア製品を手がけるユニバンスが、MTをベースにした新機構の自動変速機「トルクコンティニュアスリー・オートシフト・トランスミッション(TC―AST)」の開発に取り組んでいる。自動変速機はステップATや無段変速機(CVT)など様々なタイプが実用化されている。MTの良さを生かし、小型・軽量で低フリクションの自動変速機の実現を目指す。
◆シングルクラッチでトルク切れなし
MTベースの自動変速機と言えば、オートメーテッドマニュアルトランスミッション(AMT)や、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)が実用化され、乗用車や商用車に搭載されている。AMTは変速操作を自動化したもの、DCTは2系統の変速機構を備えることにより、変速時のトルク切れもなくしたものだ。
しかし、DCTは構造が複雑で、ユニットが重く、大きいという欠点がある。これに対し開発品は、シングルクラッチでありながら、トルクを遮断せずに変速する、いわばトルク切れのないAMTといったところだ。
シングルクラッチでトルク切れのない変速機はこれまでも研究されてきたという。しかし、「前のギアと次のギアが二重に噛み合うとミッションを壊すという問題があった」と加藤忠彦執行役員・事業本部専任部長は話す。いろいろな機構を検討してきた中で注目したのが、フォーミュラカーや競技用車両の部品の設計・製造を手掛けるイケヤフォーミュラ(池谷信二代表取締役、栃木県鹿沼市、以下イケヤ)が特許を持つ新機構だ。
◆側面にV字型溝を刻むハブがカギ
イケヤの機構は、ギアが二重で噛み合う時に生じる力を利用してギアチェンジするもので、「非常に画期的なもの」(加藤執行役員)。スリーブやシンクロメッシュ機構の代わりに、側面にV字型の溝を刻んだハブと、この溝に沿って移動するクラッチリングでギアを切り替える。
ユニバンスはイケヤとの共同開発により、この基本原理を活用した7速自動変速機を製作。スズキ「ジムニー・シエラ」に搭載して、製品化に向けた開発を進めている。想定している市場は、主に東南アジアなどMTが中心の新興国市場だ。日本でも小型トラックなど商用車に適していると見て、2020年までの製品化を目指す。
◆MT経営資源使い独自技術で差別化
「世界の新車市場の49%がMT」と事業本部の大石哲司執行役員が言うように、MTの市場は、世界的に見ればまだ大きい。しかし、欧州向けや一部のスポーツ車を除けば、需要の中心は新興国で、求められるのは価格の安さだ。付加価値を追求するなら、自動変速機に参入する必要がある。
とはいえ、既存の自動変速機の市場ではサプライヤーの勢力図がほぼ固まっている。「MTの経営資源を使い、独自技術で差別化した方が競争力がある」(加藤執行役員)と、まだどこも量産した事例がない新機構に挑戦することにした。「うまくいけば、MTから新変速機にシフトしていける」(大石執行役員)と見込む。
MTベースの自動変速機は「モード燃費と実燃費のかい離が小さい」(加藤執行役員)という利点もある。モード燃費の測定は市街地を想定し加減速を繰り返すが、「実走行は時速30~60キロメートルの一定速で走ることが多く、ギアが噛み合った走り方が最も効率が良い」(同)ためだ。カタログ燃費より実燃費を重視する傾向がユーザーの間で高まれば、チャンスが広がる。
ただ、課題もまだ残っている。ギアチェンジの時の音が非常に大きいことだ。改良を続けMTより小さくなったが、「CVTやATと比較されるオートの世界では通用しないレベル」(加藤執行役員)という。自動車メーカーや変速機メーカーからも注目される新機構なだけに、課題の早期クリアに期待がかかる。
(小室 祥子)
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