勝者の条件4人目:朝原宣治(第7回)
【朝原宣治×為末大】失敗が怖くなくなる「毎日ゼロベース思考」
2015/10/26
大阪ガスに入社して1年目にドイツへ拠点を移した時、「失敗したらどうしよう」とは感じませんでした。
当時、僕は100メートルの日本記録保持者だったんですね。普通だったら、拠点を移すことにリスクを感じるかもしれません。でも、そういう気持ちがまったくなかったんです。
過去に積み上げたものに対する執着がなく、ふわっとしながら進んで行くのが僕の特徴。大ちゃん(為末大)に言わせれば、そう見えるみたいです。
控えめな性格だから36歳まで続けられた
今の時代、やる気を前面に出すことが評価されやすいと思いますが、僕はいつも飄々(ひょうひょう)としていました。だからドイツに行くことに怖さはなかったし、うまくやっていけたんだと思います。
それはたぶん、性格ですね。ガツガツしているのが、小さいころからあまり好きではなくて。頑張る時はすごく頑張るけれど、それを相手に見られるのはカッコいいことではない、という気持ちが昔からあったんです。
そういう性格の人もたくさんいると思いますが、僕はそれでいて日本一になったり、世界の舞台で戦っているのが面白いと言われます。性格と、やっていることの乖離が面白い、と。
自分では、ふわっとしていたからこそ陸上の世界で36歳まで続けられたと思っています。嫁さん(元シンクロ日本代表の奥野史子)とうまくやっているのも、それが理由かもしれません(笑)。
こだわりがないからストレスがかからない
やっぱり、振り幅を大きく持っているんだと思います。ほわっとしているのもそうだし、計画もそう。要は、「こうなるんじゃないか?」というイメージをすごくほわっと持っている。
その分、こだわりがないというか、「たとえ失敗しても、これをこうしていけば、何となくうまくいくんだろうな」と思っているので、ストレスがかからないわけです。
逆に「こうじゃなければいけない」と、すごく狭い振り幅でやっていると、イライラしたりするじゃないですか。
目標がはっきりしている人ほど、失敗したときに立ち止まっちゃうことが多いと思います。ガックリくると、立ち上がるのも大変ですよね。
僕はそうではなく、今っぽく言えばゼロベースなんです。しかも、毎日ゼロベース。
全然ダメな時でも、「まあ、何とか行けるんじゃないか」と、ゆーらゆーらとやってきました。性格的にもブレない選手だったから、陸上を長くやることができたと思います。
(聞き手:為末大、構成:中島大輔、撮影:武山智史)
*続きは明日掲載します。
<連載「勝者の条件」概要>
スポーツほど、残酷なまでに勝敗のコントラストが分かれる世界は珍しい。練習でストイックに自分自身を追い込み、本番で能力を存分に発揮できて初めて「勝者」として喝采を浴びることができる。アスリートたちは一体、どのように自身を高めているのか。陸上男子400メートルハードルの日本記録を保持する為末大が、毎月トップ選手を招いてインタビューする連載。4人目の今回は、陸上男子100メートルで日本記録を3度更新した朝原宣治。勝者になるための7条件、そして為末大による総括を8日間連続でお届けする。
第1回:業界トップの必勝法を効果的にマネるコツ
第2回:コーチは環境の一部。プラスに働くかは自分次第
第3回:仮説と成果と感覚の「因果関係」
第4回:自分の感覚を研ぎ澄ますためのチェック項目
第5回:「わがまま」と「さすが」の境界線
第6回:目標設定は大事。でも、今日と明日の理想は違う