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勝者の条件4人目:朝原宣治(第7回)

【朝原宣治×為末大】失敗が怖くなくなる「毎日ゼロベース思考」

2015/10/26

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大阪ガスに入社して1年目にドイツへ拠点を移した時、「失敗したらどうしよう」とは感じませんでした。

当時、僕は100メートルの日本記録保持者だったんですね。普通だったら、拠点を移すことにリスクを感じるかもしれません。でも、そういう気持ちがまったくなかったんです。

過去に積み上げたものに対する執着がなく、ふわっとしながら進んで行くのが僕の特徴。大ちゃん(為末大)に言わせれば、そう見えるみたいです。

控えめな性格だから36歳まで続けられた

今の時代、やる気を前面に出すことが評価されやすいと思いますが、僕はいつも飄々(ひょうひょう)としていました。だからドイツに行くことに怖さはなかったし、うまくやっていけたんだと思います。

それはたぶん、性格ですね。ガツガツしているのが、小さいころからあまり好きではなくて。頑張る時はすごく頑張るけれど、それを相手に見られるのはカッコいいことではない、という気持ちが昔からあったんです。

そういう性格の人もたくさんいると思いますが、僕はそれでいて日本一になったり、世界の舞台で戦っているのが面白いと言われます。性格と、やっていることの乖離が面白い、と。

自分では、ふわっとしていたからこそ陸上の世界で36歳まで続けられたと思っています。嫁さん(元シンクロ日本代表の奥野史子)とうまくやっているのも、それが理由かもしれません(笑)。

朝原宣治(あさはら・のぶはる) 1972年兵庫県生まれ。高校時代から陸上を始め、高校3年時に走り幅跳びでインターハイ優勝。同志社大学時代に100メートルで当時の日本記録10秒19を樹立した。1997年に同種目で10秒08を記録し、日本人初の10秒0台を計測。オリンピックには1996年アトランタ大会から4回連続出場し、2008年北京五輪では4×100メートルで銅メダルに輝いた。同年現役引退。現在は一般社団法人アスリートネットッワークを設立し、ジュニアやユース世代の育成、アスリート支援などを行っている。妻は元シンクロ日本代表の奥野史子

朝原宣治(あさはら・のぶはる)
1972年兵庫県生まれ。高校時代から陸上を始め、高校3年時に走り幅跳びでインターハイ優勝。同志社大学時代に100メートルで当時の日本記録10秒19を樹立した。1997年に同種目で10秒08を記録し、日本人初の10秒0台を計測。オリンピックには1996年アトランタ大会から4回連続出場し、2008年北京五輪では4×100メートルで銅メダルに輝いた。同年現役引退。現在は一般社団法人アスリートネットッワークを設立し、ジュニアやユース世代の育成、アスリート支援などを行っている。妻は元シンクロ日本代表の奥野史子

こだわりがないからストレスがかからない

やっぱり、振り幅を大きく持っているんだと思います。ほわっとしているのもそうだし、計画もそう。要は、「こうなるんじゃないか?」というイメージをすごくほわっと持っている。

その分、こだわりがないというか、「たとえ失敗しても、これをこうしていけば、何となくうまくいくんだろうな」と思っているので、ストレスがかからないわけです。

逆に「こうじゃなければいけない」と、すごく狭い振り幅でやっていると、イライラしたりするじゃないですか。

目標がはっきりしている人ほど、失敗したときに立ち止まっちゃうことが多いと思います。ガックリくると、立ち上がるのも大変ですよね。

僕はそうではなく、今っぽく言えばゼロベースなんです。しかも、毎日ゼロベース。

全然ダメな時でも、「まあ、何とか行けるんじゃないか」と、ゆーらゆーらとやってきました。性格的にもブレない選手だったから、陸上を長くやることができたと思います。

為末大(ためすえ・だい=写真右) 1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2015年9月現在)。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)などを通じ、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行っている。著書に『諦める力』(プレジデント社)『走る哲学』(扶桑社新書)などがある

為末大(ためすえ・だい=写真右)
1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2015年9月現在)。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)などを通じ、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行っている。著書に『諦める力』(プレジデント社)『走る哲学』(扶桑社新書)などがある

(聞き手:為末大、構成:中島大輔、撮影:武山智史)

*続きは明日掲載します。

<連載「勝者の条件」概要>
スポーツほど、残酷なまでに勝敗のコントラストが分かれる世界は珍しい。練習でストイックに自分自身を追い込み、本番で能力を存分に発揮できて初めて「勝者」として喝采を浴びることができる。アスリートたちは一体、どのように自身を高めているのか。陸上男子400メートルハードルの日本記録を保持する為末大が、毎月トップ選手を招いてインタビューする連載。4人目の今回は、陸上男子100メートルで日本記録を3度更新した朝原宣治。勝者になるための7条件、そして為末大による総括を8日間連続でお届けする。
第1回:業界トップの必勝法を効果的にマネるコツ
第2回:コーチは環境の一部。プラスに働くかは自分次第
第3回:仮説と成果と感覚の「因果関係」
第4回:自分の感覚を研ぎ澄ますためのチェック項目
第5回:「わがまま」と「さすが」の境界線
第6回:目標設定は大事。でも、今日と明日の理想は違う

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