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中朝韓の危ない未来・中編

【Voice】中編:韓国が頼るのはアメリカと中国。日本への期待は乏しい

2015/10/23
中国の「抗日勝利70周年」行事への朴槿惠大統領の出席は、何を意味するのか。朝鮮半島緊迫化後の停戦合意には、両国のどのような思惑があったのか。今後の中国・北朝鮮・韓国の出方とは。来月1日に予定される日中韓首脳会談を前に、朝鮮半島の専門家、武貞秀士・拓殖大学特任教授が東アジア情勢を読み解く。
前編:急速に進む中韓接近。朴槿惠大統領は何を計算しているのか

食い違う南北朝鮮の読み

中韓関係の強化は、韓国にとって一石三鳥だった。経済と支持率に加えて、韓国の北朝鮮政策に絡んでくるからである。韓国は、中韓関係が緊密になれば、中国が北朝鮮に影響力を行使してくれると考える。韓国主導の統一に向けて、中国が手伝ってくれるという読みである。

今回の訪中のとき、朴槿惠大統領は8月の南北軍事緊張に際して、中国が北朝鮮に影響力を行使してくれた、と感謝の意を表した。北朝鮮を説得して韓国主導の統一に向けて前進するとき、中国が手伝ってくれるという期待が膨らんできた。

ただ、本当に中国が韓国の立場に立って北朝鮮を説得するという構図があるのだろうか。8月、軍事境界線で地雷が爆発して南北間が緊張したあと、北朝鮮が南北協議を提案したとき「大韓民国」という正式呼称で呼び、協議参加者、協議会場を韓国の提案どおりに受け入れた。

このとき金正恩第一書記の判断で、韓国軍による宣伝放送を中断させることと引き換えに「遺憾の意」を表明することで決着する方針だったようだ。中国が北朝鮮を「軍事冒険主義は許さない」と説得した具体的な動きはない。

8月の顛末について、韓国では「韓国が中国に衝突回避を頼み、米韓が協力して北朝鮮を監視した。韓米中の協力で危機を回避できた」「韓国の立場を心配した中国が北朝鮮を説得して、軍事衝突を回避することができた」「体制の弱みを抱えている金正恩体制が、韓国の強い姿勢に屈して謝罪した」と解釈しているようだ。

一方の北朝鮮は、「韓国が抗日戦争勝利行事に参加して、中韓緊密化で、韓国が限りなく中国の立場に近づくとき、米韓同盟は不協和音が始まる」と読んでいて、いまの流れに反発している様子がない。

中韓関係への米国の心配を指摘すると、韓国の学者は「韓国が中国との太いパイプをもったので、米国は韓国の立場を尊重するようになる」と答えるところに韓国人独特の国際政治観がある。

最近、モンゴル、中国延吉、ソウルなどの国際会議に出席して聞くのは、習近平国家主席が提唱している「一帯一路」と、朴槿惠大統領の「ユーラシア・イニシアチブ」は相互補完関係にあるという韓国人の発表である。グローバルな構想であっても二つは相互補完関係にあり、中韓は協力を進めていくという説明だ。韓国中心の東アジア交流の時代という見方なのだろう。

「日本離れ」は続く

自信に裏打ちされた韓国の政策が功を奏するかどうかは、後世の歴史家が説明するだろう。日本の「没落」が続き、日本経済が続けて「失われた30年」を経験し、日米同盟が破綻して、中国が韓国との経済、政治関係を優先し、北朝鮮の体制に冷淡になるとき、この韓国の判断は「当たり」である。

中国がどこまで韓国の構想を支持するかは不明だ。アジアインフラ投資銀行は、韓国が「韓国、インド、中国の三カ国で主導するアジアインフラ投資銀行」と期待していたが、中国がロシアを勧誘して、ロシアの存在が大きくなり、韓国は戸惑っている。

中国市場では韓国製品の売れ行きが鈍りつつある。8月下旬、10日間ほどソウルに滞在したが、韓国の街角の中国人観光客は激減していた。中韓関係はすでに変化が始まっているのではないか。

韓国外交にはつねに日本という要素が絡むのは事実だ。8月18日、日本のメディアが「安倍総理、9月3日の式典の前後に中国を訪問して、習近平国家主席との会談を検討」と報道した2日後、韓国政府は朴槿惠大統領の式典出席を公式発表した。

中国政府は「70周年の式典に出席する外国のすべての賓客は、軍事パレードを閲兵する」と説明しており、この時点で韓国大統領のパレード出席は最初から決まっていたのだろう。

しかし、韓国大統領の訪中発表の前に、日本の総理官邸は訪中を見送っていた。8月24日、菅義偉官房長官は記者会見で、安倍総理の訪中を見送ったことについて、「日本は式典が抗日でないものを望んでいた」として、「首相出席を前提にした調整はいっさい行なっていない」と述べた。軍事パレード閲兵を義務とした中国の要請を聞いた時点で安倍総理は、中国訪問を断念していたのである。

安倍総理が出席するという日本の報道を受けて、8月20日、韓国は訪中計画を急ぎ発表した。ただ、「韓国外交の力量が中国の韓国寄りの政策を引き出した」と見なす韓国の有識者らは「朴槿惠大統領の訪中決断と、日本の総理の中国訪問確実という日本国内の報道とは無関係」と指摘する。

韓国は韓米中の政策協調、米韓同盟強化、中韓経済連携の3つが順調に進んでいると楽観しているので、韓国が慰安婦問題、教科書問題、靖国参拝問題で日本に譲歩する可能性は少ない。むしろ、南北衝突の危機を脱した8月25日の南北合意と、中韓関係強化で勢いを増した朴槿惠政権が、米国と日本に対する強気の姿勢に転じる可能性のほうが大きい。

韓国は朝鮮半島の危機事態では、韓国、中国、米国が連携して北朝鮮の軍事冒険主義を抑止できると考え、朝鮮半島有事では米韓の作戦計画で対処し、南北対話を推進するためには、中国の支援を借りるという方針である。この3年、日本への期待に言及する韓国人に出会ったことがない。

*続きは明日掲載します。