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NP読者からの質問に回答します

IoTのこれまでと、これから──NP読者から寄せられた質問への回答編

2015/10/22
東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授の川原圭博氏が、全3回の連載に寄せられた質問の中からいくつかをピックアップして答えます。
第1回:なぜ今、IoTなのか? これまでの歴史から、あるべき姿を考える
第2回:IoTは社会とどう関わるべきか──新技術のポイントと過去の注目サービス
第3回:IoTが本当の革命となるためには──国内外の最新事例から見た、今後の展開と可能性

前回いただいた質問の中から、いくつかピックアップしてお答えいたします。

「IoTの本当の革命は、スマートフォンとは独立したサービスが本格的に普及したときに初めてやってくる」という主張に関する質問が複数寄せられました。

スマホという個人が所有するネットワークのハブを超えてIoTが普及するとしたら、実際にネットワークに接続したセンサを設置していく担い手は誰になっていくか。また、そのドライビングフォースは何になると予想されているかについてご意見を伺いたいです。
ヒトと切り離されたモノ同士が会話するプラットフォームとは、以前から言われているM2Mの実現ということなのでしょうか? それとも、自動的なアクションを埋め込んだ完全自動化システムのようなものをイメージされているのでしょうか?

はい、M2Mのコンセプトはスマホとは独立な実空間の利用シーンと言えるでしょう。ですが、本意としてはIoTよりもM2Mが本命だと言いたいわけでもスマホを使っているうちはまったくダメだというわけでもありません。

ユーザーが特に意識せずに手に取った商品(車でも家電でも、家具、衣服、建材、なんでも)の多くがネット接続可能なものであるというような時代、つまり次代になれば、IoTの時代が来た、と言えると思っています(今や電話をかけた先が、IP電話か、固定電話かなど気にしないように)。

普及を進める主体について言えば、実際にセンサや3G/LTEなどの無線接続の装置を家庭や職場のどこに組み込めばいいかを利用者が考えているうちは、まだまだ黎明(れいめい)期で普及途上なのだろうなと思います。

いろいろなサービスや商品を提供する企業が、よりよいサービスや商品を実現するために、ごく自然な選択肢として、小型のコンピュータと近距離あるいは広域の無線インタフェースを利用して、実空間のモノの状態をクラウドに通知するような仕組みを取り入れるようになるのだろうと思います。

(現状では実現が難しいものの)たとえば、たった1個のパケットを、広域通信網を使ってクラウドに投げることができる機能を数円でつくれたとします。

シャンプーでもトイレットペーパーでも電池でも冷蔵庫内の牛乳でも良いのですが、残容量が一定値を下回ると、自動的に注文が飛ぶというような機能が実現できれば、私は1〜2割単価が高かろうと気にせず買いたいと思います。スマホ経由だろうがモノが直接クラウドにデータを送ろうが、そこは些細(ささい)な差なのかなと思います。

次の質問にお答えいたします。

今後IoTが発展していくにつれ技術的に最も重要となってくるのは、クラウド側のシステム(IoTクラウドプラットフォーム)部分だろうと考えていますが、IoTクラウドプラットフォームの国内外の動向やシェアなどは今後どのようになっていくとお考えでしょうか?
この分野の研究者の方の行き着く先はグーグルかアップルだけになってしまう可能性はどれくらいですか。

IoTのプラットフォーム争いは、すでに激戦です。ハードウェアから、上位のプロトコル、そしてデータフォーマットまで実にさまざまな戦いが、各レイヤーで繰り広げられています。そして、どれが本命になりそうかは、私にはよくわかりません。いずれかが極めて優れているようには見えません。

IoTのアプリが明確に見えない時代においては、ハードウェア開発プラットフォームから、クラウド、ネットワーク、ユーザーの端末まですべて持っているグーグルやアップルは有利でしょうね。優秀なエンジニアもそろっていますし、資金力も豊富です。

さらには、スマホを中心としたサービスを展開するステージにおいては、Android、iOSというすでにユーザーと開発者のコミュニティを抱えている点は圧倒的に有利でしょう。

ただし、プラットフォームの標準を取る必要性はそこまで高くないかなと思います。昔に比べれば、異なるシステム間でメッセージの形式を変えるぐらいであれば、ある程度柔軟に対応可能ですし、コンシューマビジネスのケースであれば、ユーザーのプラットフォームの乗り換え障壁は低いと思われます。

続きましては、こちらの質問です。

スマホとは独立したサービス、すなわちモノとモノになってきたときに「制御のガバナンス」をどう考えるか。第2回の最後の方にあったテロへの応用のリスクとか、軍事利用に関する話を聞いてみたいです。(略)過去の成功や過ちを踏まえたうえで、現代の研究者たちがどういうスタンスでいるのか気になりました。

過去の過ちに関しては、インターネットのプロトコルが良い例かもしれません。インターネットもその構造の欠陥からさまざまな問題を起こしています。

ただ、現代の視点からは欠陥と言わざるを得ない設計も、開発されたインターネット黎明期においては、まさかこれほどまで多様な用途に使われるという発想もなかったため、極めて合理的でシンプルな、称賛すべき設計として受け入れられていました(たとえば、メールは簡単になりすましができる仕様になっているため、スパムメールやフィッシング詐欺が横行しています)。

こうした既存のインターネットの欠陥を解決する次世代インターネットをつくろうとする動きもありますが、一度広まってしまったものを取り替えるのはなかなか大変です。どんな技術でも、それが広がるにつれ新たな使い方が登場し、やがて悪用する者が現れます。

技術だけではどうしようもなく、法やモラル、教育とセットで開発・運用する必要が出てくると思います。技術者も、サービスを考える企業も、法律の専門家や、文化や価値観が違う人たちと一緒に議論し、お互い目を光らせながら開発していくしかないと思います。

それでは、最後となります。

電力が自由に使えるようになったら、通信の混線なんかも問題になってくるような気もします。まだ先になりそうですが。

なかなか面白い視点です。現在でも無線LANなど、ユーザーが勝手に設置することが可能な無線機器では干渉が問題になっています。

無線給電にどの周波数を使うかは大きな議論になっていますが、基本的にはISM周波数帯など免許不要な周波数が使われることになるでしょう。さらにその周波数は無線給電だけでなく、無線通信にも使われてもおかしくないので、もっとややこしいことになります。

そもそも通信と給電では送る電波出力に大きな差があります。1桁や2桁でなく、無線給電は通信の千倍から1万倍以上大きな電力を出力することもあります。スマホを充電している間は通信ができないなんていうのでは利便性を損ないますので、そこはルールづくりと技術開発をしっかりやる必要があります。

ただし、無線給電を行うための送信機どうしの干渉は、通信に比べれば些細な問題です。干渉した波からでも整流して直流電力にすることは容易です。

厳密な議論は省きますが、複数の送信源がある場合、送受電側のアンテナと回路を工夫すれば、得られる電力はそれらの和に近い大きさにまでできます。かみ砕いて言うと、無線給電のアンテナを2倍、3倍と置けば受電側で得られる電力も2倍、3倍近くにできることもあります。

以上で、回答編とさせていただきます。本連載に対して、たくさんのコメントとご質問を頂きまして、ありがとうございました。
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