toyama3

Jリーグ・ディスラプション特別編:冨山和彦インタビュー(第3回)

冨山和彦が指摘する、「プロ野球よりJリーグが断然有利」な理由

2015/10/2
Jリーグがアドバイザー契約を結んだ5人にインタビューしていく「Jリーグ・ディスラプション」特別編の第3弾は、経営コンサルタントとしてグローバル経済から地方創生までに手腕を発揮し、企業再生のスペシャリストとしても知られる経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏。世界のサッカーシーンの一つでもあり、地方創生の観点からも重要なJリーグの発展について、大切なポイントを4日連続でお届けする。

──L(ローカル)での成功をG(グローバル)につなげるためにも、Jリーグにビッグクラブが必要だという声があります。Lの地道な成長からビッグクラブの出現に至ると思いますか。

冨山:ローカルの話を抜きにして、ビッグクラブの議論をするのは好きではないですね。ローカルをやっておかずに、ビッグクラブだけを抽象的につくってもダメです。

ビッグクラブを成り立たせるゲームに持ち込むのは、先ほど言ったように日本サッカーの環境が変わってこないとしんどいと思います。なぜなら、Jリーグがグローバルコンテンツでないままビッグクラブを成り立たせようとするわけですよね。

ビッグクラブとして暗黙の前提は、バルセロナやレアル・マドリー、あるいはバイエルン・ミュンヘンのモデルですよね? これらのクラブはサッカーだけではなく、いろいろなスポーツをやっています。

──バスケットやハンドボールのチームなども運営していますね。

要は、地元のスポーツクラブということですよね。ローカルがしっかりしていることがベースにあって、ファウンデーションになるマーケットがヨーロッパの時間帯に存在しているからそれが成り立つわけで。たとえば今から南米でビッグクラブをつくっても、南米のサッカーが復活する感じはしません。

「米国サッカーが本物になると思う」理由

一方、アメリカではサッカーがだいぶ盛り上がってきています。一因として、中学や高校で子どもたちがサッカーをやることが背景にあると思いますね。逆に言うと、プロでものすごくおカネを稼げるスポーツは、インテリ層はあまりやらないんですよ。バスケやアメフト、野球がそうですね。

野球の場合は二通りあって、中南米から一獲千金で来る選手と、カレッジでプレーしているインテリがいます。昔のカレッジ野球はレベルが高かったけれど、今はそうでもなくなっていますね。

──野球ではアメリカ人の競技人口が減少傾向にある一方、メジャーではドミニカ共和国やベネズエラの選手が増えています。

そうなんですよね。ただ、ファウンデーションとしてみんながプレーしているスポーツじゃないと、やっぱり盛り上がりません。

今回、アメリカのサッカーが本物になるのではと思っているのは、この20〜30年の間にサッカーをやってきた子どもたちの数が男女ともに飛躍的に増えているからです。そこに中南米からものすごい数の人が入ってきて、彼らの経済的な力もアメリカの中でついてきている。ペレを呼んできた時代と比べると、今回はだいぶ違うかなという感じがしています。

話を戻すと、Lにとにかくしっかり深くささっていることと、Gで成功することは相互依存的だと思うんですね。「こちらがダメならあちらで」というのは絶対成り立たないし、たぶん持続性がないわけで。慌てず、騒がずにやっていくしかないと思います。

冨山和彦(とやま・かずひこ) 経営共創基盤CEO 1960年生まれ。東大法学部卒、司法試験合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストン コンサルティング グループ入社後、コーポレイトディレクション設立に参画。2003年産業再生機構に参画しCOO。その後、経営共創基盤設立。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、みちのりホールディングス取締役のほか、経済同友会副代表幹事なども務める

冨山和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤CEO
1960年生まれ。東大法学部卒、司法試験合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストン コンサルティング グループ入社後、コーポレイトディレクション設立に参画。2003年産業再生機構に参画しCOO。その後、経営共創基盤設立。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、みちのりホールディングス取締役のほか、経済同友会副代表幹事なども務める

フットサルが生活の一部に

──現状のJリーグで、ここを掘れば可能性があるのではと感じる部分はありますか。

スポーツだけでなくエンターテインメントもそうなんですが、たとえば音楽を聴いたり、演奏したりすることが、平均的な日本人の生活や人生にどれだけ深く染み込んでいくかがすべての議論のベースにあります。私の見る限り、明らかに世代が下がるにしたがって、そうなっているんですね。

僕らの世代は、せいぜいマラソンが精いっぱい。だけど世代が下がるにしたがって、フットサルくらいやっているのが普通です。そうするとオジさんになっても、おカネを払ってスポーツを見に行ったりします。自分の子どもを見ていると、着実にそうなっていますよね。

そうなると、いろいろな方法でおカネを稼ぐことができます。ネット配信や有料テレビ、入場料、広告などですね。サッカーに限らず、すべてのエンターテインメントコンテンツに関して、いろいろな方法でおカネを稼ぐチャンスがあると思っています。

とりわけ音楽とスポーツは、自分でもできるものですからね。そこをどこまで連続的に、一つのライフスタイルに取り込めるか。とにかく追い風ではあると思います。音楽は最近、プロとアマチュアとか、やる側と見る側の境目がだんだん曖昧になってきていますしね。

──初音ミクはそんな感じですね。

そうそう。僕もいまだにバンドをやっています。僕らでさえやっているということは、これからの若い子たちはずっとやっていくんですよね、きっと。

サッカーにある「連続的世界」

──サッカーで不思議なのが、自分でプレーはするけれど、Jリーグは見ないという人がそれなりにいることです。

それはひょっとすると、そういう人たちとJリーグの生活圏が重なり合っていないんじゃないですか。そこにどう連続性を持たせられるか、でしょうね。

アメリカの野球で言えば、シングルAクラスの人たちって、アマチュアとの境目が曖昧なわけです。サッカークラブも本来、地域のスポーツクラブなので、バイエルン・ミュンヘンだって、アマチュアのチームを持っていますよね? 要するに、スポーツクラブのメンバーということです。それがプロチームを抱えているということ。

だからおそらく、距離感が近いんですよ。ひょっとすると、田舎のほうが社会が狭いので、その距離が縮まるかもしれません。飲み屋に行ったら、試合に出ていた選手と一緒になったりね。

──英国のサッカークラブでは、クラブハウスの中にパブがあります。

その感じが大事なんです。さすがにスーパースタークラスはあまり来ないかもしれないけれど、準レギュラーくらいの選手たちとはしょっちゅう接点があって、時々草サッカーに出てもらったりして(笑)。これからは子どもにサッカーを教えることだけではなく、アマチュアとプロの境目がどれくらい連続的につながっているかが大事な気がします。

──逆説的に、「プロとアマの間に壁のある野球界はダメだな……」と悲しい気持ちになりました(苦笑)。

Jリーグではそういうことがないですからね。連続的な世界をつくることはすごく大事ですよ。

Jのファンが高齢化している理由

──よく「Jリーグはファンが高齢化している」と言われますが、「コト消費」に向いている若い人たちをうまく取り込めていないのかもしれませんね。

取り込めていないと思います。高齢化しているファンは、Jリーグが生まれたときのナショナル系のファンなんでしょうね。要するに「野球はいまいち」みたいな人が、ナショナルコンテンツだったJリーグにワーッと行きました。カズさん(三浦知良)やラモス瑠偉さんが活躍していた頃ですね。ヴェルディの凋落って、完全にナショナルの凋落なので。

当時、巨人対阪神の代わりがヴェルディ対マリノスみたいな打ち出し方をしていたじゃないですか。あのモデルは最初から、持続性がなかったですよね。

その裏返しで言うと、やる側と見る側の境目がすごくはっきりしなくなって、生活の中に混然一体としてくるのは、野球よりサッカーのほうが成り立ちます。なぜなら野球は、やるのが大変だからです。人数をそろえるのも大変だし、グラウンドもきちんとした規格の場所を借りないとできません。

サッカーは広い場所があれば、誰でもプレーできます。その状況に合わせてやればできるわけだから、サッカーのほうが断然有利だと思いますね。だからこそサッカーを人生の一部にしていく生き方みたいなものを、どこまで厚みをつくれるかになるでしょうね。

(取材:佐々木紀彦、取材・構成:中島大輔、撮影:福田俊介)

*明日に続きます。