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夏野剛インタビュー(第1回)

外国人枠を撤廃すれば、日本人の可能性も広がる

2015/9/26
Jリーグがアドバイザー契約を結んだ5人にインタビューしていく「Jリーグ・ディスラプション」特別編の第2弾は、慶應義塾大学の大学院政策・メディア研究科特別招聘教授などを務める夏野剛氏。「iモード」の生みの親であり、ニコニコ動画を黒字化させた夏野氏に、Jリーグを活性化させるための方法を聞いた。夏野氏の考えるテクノロジー活用法、リーグの抜本改革案、国際戦略などを4日連続でお届けする。

──夏野さんは堀江貴文さんや統計家の西内啓さんらとともに、Jリーグのアドバイザーに就任しました。Jリーグがもっと盛り上がるために、どうすればいいと考えていますか。

夏野:今のJリーグの在り方は、サッカーをやってきた人を中心としたファンのためのプロスポーツになっているように思います。つまりファン層が、基本的にサッカー経験のある人で固定されているんですね。

ツイッターで「お前はサッカーの何を知っているんだ」とか「サッカーをやったこともないヤツのくせに」と、サッカーファンから言われることがあります。確かに1993年にJリーグが誕生し、日本サッカーのレベルが底上げされてきました。サッカー部出身のOBたちの中から、Jリーグのようなコミュニティが生まれてきたのは、良かったと思います。

でも、もはやそういう段階ではありません。ワールドカップに常時出場するようになり、若い選手がプレミアリーグやブンデスリーガなど、世界のリーグにこれだけ移籍するようになった今、Jリーグに必要なのは、サッカーを昔から応援してきた人じゃなくても入りやすいコミュニティ。サッカーをさらに幅広く国民的スポーツにしていく段階にきていると思います。

つまり、「サッカーをする人による、サッカーをする人のための、サッカーをする人のリーグ」ではなく、サッカーをしたことがない人でも気軽に楽しめる、ファン層の広い国民的スポーツにしていく必要がある。少なくとも、ヨーロッパと南米ではそういうスポーツになっているわけです。

日本では、野球とサッカーの一番の違いはそこにあって。野球部出身じゃなくても野球は楽しめるけれど、サッカー部出身じゃないとサッカーはいまいちかもしれない、みたいな感じになっている。改善点はここだと思いますね。

現状のJリーグは「欧州への選手養成所」

──確かに、日本代表は国民的に楽しめるコンテンツになっていますからね。

日本代表はそういうコンテンツになっているのに、Jリーグはそうなっていないのが最大の問題です。先ほど言ったように、サッカーをしたことがない人でも気軽に楽しめるJリーグにするために、アドバイザーとして物申していきたいと思います。

──具体的には、どんな問題がありますか。

今のJリーグの最大の問題は、有力な選手がみんなヨーロッパに行くこと。日本代表のレギュラーに、Jリーグでプレーする選手があまりいません。こういう状況を打破するためには、国内チームのレベルを上げるしかないと思います。

──そのためにはどうすればいいでしょうか。

ズバリ、外国人枠を撤廃したほうがいいと思います。外国人枠とは、国内の公平性を担保する仕組みなんですね。つまり、「おカネのあるチームが外国からバンバン補強したら、そのチームに勝てなくなるじゃん」と。そうなるとつまらなくなるから枠をつくろう、と。で、国内の選手を育成しようということだと思います。

そうすると、いつまでたっても「ヨーロッパのリーグに選手を出すための養成所としてのJリーグ」にしかならない。それを見せられる日本の観客はつまらないじゃないですか。

──現状、外国人の同時出場は3人プラス、アジアサッカー連盟加盟国の国籍を有する1人、そして「日本で生まれ、かつ日本の義務教育中であるか修了したか日本の高校・大学を卒業した者」1人で、最大5人となっています。しかし、最も資金力のある浦和レッズのスタメンはほぼ日本人ばかりで、獲得してきた外国人がベンチに座っているという試合も少なくありません。

今のレッズは強いから、それでいいと思います。でも外国人枠を撤廃すれば、勝てないチームの中に出場している選手の半分くらい外国人というところも出てくると思うんですよ。

夏野剛(なつの・たけし) 1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

夏野剛(なつの・たけし)
1965年神奈川県生まれ。1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年にNTTドコモ入社。ドコモ在籍時に「iモード」や「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学 政策・メディア研究科の特別招聘教授を務める傍ら、上場企業6社の取締役を兼任する

海外の人からすると、日本は「行ってみたい国」

──ブラジルから若手を買いあさるチームが出てきたら面白いですね。

いや、もっと違うと思っていて。アレッサンドロ・デル・ピエロとか、往年の名選手を獲るチームがいっぱい出てくると思うんです。アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)でデビッド・ベッカムがロサンゼルス・ギャラクシーに移籍したとき、「サッカーなんてアメリカでは流行らねえんだよ」と言われていたところが大騒ぎになったわけです。

カズ(三浦知良)さんもそうだけど、サッカー選手ってずっと現役でいたいという気持ちがありますよね。そうすると往年時に名選手だった人で、Jリーグに行こうという人も出てくると思うんですよ。世界中の往年の名選手が各チームに一人か二人ずついるような状態をつくっちゃうと、ものすごく盛り上がりますよ。

──それってかつてのJリーグに似ていませんか。

かつてのJリーグは往年の名選手ではなく、旬の人を獲得しようとしたから報酬も高かった。私がヴィッセル神戸の取締役だった頃、イルハン・マンシズ(元トルコ代表)と契約しました。

そういう選手ではなく、セリエAなどで出られない選手に日本でプレーするチャンスを与えればいい。デル・ピエロにやる気があるかはわからないにせよ、すでに十分に稼いでいるわけじゃないですか。

──そうですね。ロナウジーニョを獲ってきても面白いと思います。

ほとんど動かないけど、一発あるみたいな(笑)。僕はクール・ジャパン有識者会議のメンバーを務めていますが、海外の人から見ると、日本って行ってみたい国なんですよ。国際会議を東京でやると、参加率が高くなるくらいです。東京やパリ、スペインは人気があって、ドイツやロンドンはそうではない。それくらい、地の利があるんです。

サッカー選手は、女の子から特に人気がありますよね。外国人からも日本の女性は大人気。ご飯はおいしいし、治安はいい。そうすると、1年くらい日本に行ってみようかなと思うわけです。日本代表の監督と契約しようとする場合、好条件でスカウトできますよね。そう考えると、1年くらい日本でプレーしようと思う往年の名選手がいるはずです。

Jの平均引退年齢は25.8歳

──セレッソ大阪がウルグアイ代表のディエゴ・フォルランを獲得して、結果的にはうまく行きませんでした。でも、ああいう獲得はいいということですね。

いいと思います。ただし、外国人枠が3人しかないと、往年の名選手を獲るのは賭けになります。獲得しても、ベンチに入れるか、入れないかと考えて迷うくらいなら、そんな枠はなしにしてしまえばいいと思います。

──FC 東京がバルセロナのシャビの獲得に動いたという報道がありましたが、実現したら面白かったですね。実際には、カタールのアル・サッドに年俸13億5000万円で移籍しましたが。

もちろんおカネで動く場合もあれば、あれくらいのクラスになると、単純におカネだけではない人もいると思うんです。

──野球では黒田博樹投手がニューヨーク・ヤンキースから年俸21億円のオファーを断り、広島カープと4億円で契約しましたね。

野球はまさにそれをやっているじゃないですか。メジャーリーグで活躍した黒田投手を見たくて、ファンが球場にやって来る。野球は選手寿命が長くなっている印象もありますしね。

Jリーグで問題なのは、選手平均のレベルは高いと思うんですけれど、その差があまりないこと。平均引退年齢が25.8歳です。

──そんなに早いんですか。

良くない状況ですよね。外国人枠を撤廃するということは、逆に言うと選手たちも日本だけで生きていてはいけないと思うから、タイなどに行くことも考えるだろうし。そうやって日本人の可能性も広がっていくわけだから、外国人枠の撤廃が大事だと思います。

(取材:佐々木紀彦、取材・構成:中島大輔)

*続きは明日掲載します。