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要約で読む『ジョコビッチの生まれ変わる食事』

絶対王者・ジョコビッチが説く、最高のメンタル状態を保つ食事法

2015/9/21
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。
今回取り上げるのは、今月13日に全米オープンテニスを制覇したテニス界の絶対王者・ジョコビッチが書く『ジョコビッチの生まれ変わる食事』。現在、圧倒的な強さを誇る彼も、フェデラーとナダルの2強を超えることができない、苦しい時代があった。彼が「壁」を打ち破れた秘訣は、「小麦の排除」という、思い切った食事改善があった。
本書で紹介されている食事法は、ダイエットはもちろん、生活習慣病の予防や、脳のパフォーマンス向上にも一定の効果を期待できるという。身体のコンディションを保つことは、アスリートのみならずすべての「プロフェッショナル」に必須だと実感する1冊だ。

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ジョコビッチを生まれ変わらせた食事

予告もなしに力を奪う謎の力

2006年、当時19歳だったノバク・ジョコビッチは、クロアチアオープン決勝ラウンドでリードを奪っていた。しかし、スタジアムの声援はジョコビッチの耳には届かなかった。頭の中では不気味な音が響き、感じられるのは痛みだけだった。鼻はふさがれているように感じられ、胸は苦しく、足にはコンクリートを流し込まれたようだった。コートにジョコビッチは倒れ込み、大会は終わった。

6歳のときから、ジョコビッチはウィンブルドンで優勝するという目標のために人生を捧げ、家族もそのために途方もない犠牲を払ってきた。だが、大舞台に立つたびに倒れてしまう。この状態を「アレルギー」と呼ぶ人もいれば、「ぜんそく」と呼ぶ人もいたし、「単なる調整不足」と切って捨てる人もいた。

ジョコビッチはさまざまな努力をした。毎日朝と午後に練習をし、ウェイトトレーニングをし、1日も欠かすことなくバイクをこぎ、走り込みをした。

トレーナーやコーチを替え、呼吸をしやすいように鼻の手術も受けた。メンタル面の調整のために、ヨガやさまざまな薬も試した。そうした努力のために、シーズンごとに少しずつ結果がよくなり、ジョコビッチは世界ランキングトップ10に加わるようになった。が、それでもまだ、ジョコビッチは試合中の体の異変に苦しみ続け、「世界最高の選手」という夢には手が届かなかった。

1万4000キロの遠方より下された驚くべき診断

ジョコビッチにとって、プロ生活で最低の瞬間は、2010年1月27日に訪れたという。全豪オープンで準々決勝まで進んでいたジョコビッチは、試合中またも突然、目に見えない力に襲われて呼吸困難となり、世界ランキングで自分より下位の選手に敗北した。

その瞬間を、1万4000キロ離れた場所から偶然見ていた人物がいる。ジョコビッチの祖国であるセルビア出身の栄養学者、イゴール・セトジェヴィッチ博士だ。

ジョコビッチが倒れる姿を自宅のテレビで見ていた彼は、原因はぜんそくではないとすぐに見抜いた。ジョコビッチの呼吸困難は、体内の消化システムの不均衡が原因で、腸内で毒物が発生していることにより引き起こされているというのが彼の推測だった。6カ月後に対面した博士は、ジョコビッチの肉体に合った、食事に関する指導要領をつくってくれると言った。

ジョコビッチの人生を一変させた食事とは?

それから約1年、2011年7月までに、ジョコビッチはまったくの別人になっていた。5キロ軽くなった体は強靭で、それまでで一番の健康体となっていた。メンタル面でも安定してより楽観的になり、脳内の霧が消え去ったように集中力が増した。そして生涯の目標だった2つのゴールに到達した。ウィンブルドン優勝と、世界ランキング1位だ。

ジョコビッチを「そこそこいい選手」から「世界最高の選手」に生まれ変わらせたのは、新しいトレーニングプログラムでも、新しいコーチでも、新しいスタイルのサーブでもなかった。それは、新しい食事だった。

あなたの人生を激変させる14日間

博士のおかしな実験

「このテストをすれば、君の体がどの食べ物に対して過敏になっているかがわかる」

セトジェヴィッチ博士はそう言って、ジョコビッチの左手を腹に当てさせ、右腕を横に真っすぐ伸ばすようにと指示した。博士はジョコビッチの右腕を下に押しながら、力に逆らうように命じた。

それが君の体のあるべき反応だと博士は言い、次に、ジョコビッチに一切れのパンを左手に持ち、おなかに近づけるように言った。ジョコビッチが言われた通りにすると、先ほどとは明らかな違いが表れた。パンをおなかに近づけるだけで、ジョコビッチの腕の力が抜け、博士の下向きの力に抵抗できなくなっていたのだ。これこそ、体がパンに含まれる小麦を拒絶している証しだという。

その後ジョコビッチは、ELISAテストと呼ばれる血液検査を受け、体が小麦と乳製品への不耐症を持ち、トマトに対しても少し敏感であることが判明した。

体の機能を上げたければ、パンとチーズを食べるのをやめ、トマトも減らすようにという博士の言葉に、ジョコビッチは驚き、抵抗した。

「うちの両親はピザ屋なんですよ!」

パンとパスタに別れを告げる

ジョコビッチが生まれ育ったセルビアの料理は、非常に重い食べ物ばかりだ。乳製品をたっぷりと使い、肉もパンも多い。幼い頃からパンと乳製品をずっと食べていたせいで、肉体がそれらに過敏になったということは十分にあり得る。

「一生涯パンを諦める必要はない」とセトジェヴィッチ博士は言った。まずは14日間だけパンをやめてみるよう、博士は指示した。

ジョコビッチは、最初の1週間はパンやピザ、甘い菓子パンが恋しくてならなかったという。だが1日、1日と進むにつれ体は軽くなり、活力があふれてきた。長年悩んでいた夜間の鼻づまりは突然消え去った。1週間が過ぎる頃、パンはもはや恋しくなくなり、毎日の目覚めは素晴らしいものとなった。

2週間の体験を終えたジョコビッチに、セトジェヴィッチ博士はベーグルを食べるように言った。次の日、ジョコビッチはまるでひどい二日酔いのような症状に苦しむことになった! この体験以来、ジョコビッチは体の声にすべて耳を傾けるようにしているという。

食事のルール──勝利するための食卓

ゆっくりと意識的に食べよう

「食物は情報だ」とジョコビッチは言う。つまり、食物は体にどう機能するかを伝える情報なのだという。

ジョコビッチの食事において、「何を食べるか」と同じように大切なのは、食べ物を「どのように食べているか」ということだ。食べ物は何らかの形で肉体に影響をもたらす。このプロセスに意識を向けることが大切なのだ。そのために、ジョコビッチは食べ方の4つのルールを厳格に守っている。

食べ方の1つ目のルールは「ゆっくりと意識的に食べよう」ということだ。よくかんで口腔でも消化活動を促せば、胃は効率的に速く食べ物を処理できる。また、細かくかみ砕くことで、消化のために多くのエネルギーを使わなくて済むようになる。

そのために、ジョコビッチは食事中にテレビもメールも見ないし、電話で話すこともない。そしてかむときには、フォークを目の前に置いて、かみ砕くことに集中する。

体に明確な指示を与えよう

2つ目のルールは「体に明確な指示を与えよう」。「まず、これをやってくれ。それから、次にやってほしいのはこれだ」と、従業員を動かすときのように、肉体にも指示を与える。

ジョコビッチの場合、日中は体に可能なかぎりエネルギーを発してもらいたい。だから、昼食時までの1日の前半に摂取するカロリーのほとんどは、エネルギーに変換されやすい炭水化物でとっている。炭水化物をとるとき、ジョコビッチはいつも体に「エネルギーが必要なんだ。だからとれるだけとってくれ」と言い聞かせるという。

夜になれば、エネルギーはそんなにいらない。疲れていて、熟睡したいと望んでいる。だから夕食時には鶏肉などの肉類や魚が大切になってくる。肉体に「今日つくった傷を修復してほしいんだ。だから、これから君に与えるプロテインを使って必要なことをやってくれ」と語りかけながら食べる。

前向きであれ

3つ目のルールは「前向きであれ」だ。

このことは、食事中にジョコビッチがテレビを見ない理由の一つにもなっている。テレビには前向きな話がほとんど出てこないからだ。

食べ物の扱い方によって、それが明るいエネルギーも暗いエネルギーも運ぶことがあると、ジョコビッチは信じている。恐怖や心配など、暗い気持ちを抱えて食べれば、味わいもなくなり、食事から得られるエネルギーも減ってしまう。

だからこそ、ジョコビッチは食前の祈りを欠かさない。食べ物とジョコビッチは、いつも良好な関係を築けてきたわけではなかったが、今はかつてなく食べ物に感謝しているという。

量ではなく、質を追求せよ

4つ目のルールは「量ではなく、質を追求せよ」だ。

プロスポーツの世界において、アスリートたちが恐れるのは、十分に燃料を得ていないのではないか、十分に水分補給をできていないのではないか、十分に栄養をとれていないのではないか……ということだ。

彼らと同じく、ジョコビッチもまた十分な食料をとれていないのではと不安で、いつも余計に食べていた。満腹でも食べ続け、練習中も防腐剤や糖分まみれのエネルギーバーを口に運んでいた。

化学薬品まみれの食品が肉体に出す指令の一つが「体重を増やせ」である。オーガニック食品や、天然の魚や放牧牛、放し飼いの鶏肉は普通の価格よりは高い。

しかし、ジョコビッチに言わせれば、こういう食品にはそれだけの投資をする価値がある。誰もがこういう特別な食品におカネをかけられるわけではないのはもちろんだが、可能ならば、ぜひやってみるべきだ。

悪い物を食べれば、肉体は悪いシグナルを送ってくる。その逆に、良い物を食べれば、体は最高の状態になる。

ジョコビッチの食習慣

実際のジョコビッチの食生活を簡単に紹介しておこう。

毎朝目覚めると、ジョコビッチはコップ1杯の室温の水を飲む。それまで長い時間何も飲まずにいた体に水分補給をし、機能させ始めるためだ。

そして、スプーン2杯の蜂蜜を口にする。ヨガと太極拳を組み合わせたストレッチ運動の後、グルテンフリーミューズリーやナッツ、果物、ココナッツオイルなどを組み合わせた朝食をとる。

午前中の練習を終えると、野菜入りグルテンフリーパスタなど、糖分とタンパク質を避けたランチをとる。午後も練習を行い、夕食の時間になると、高タンパク質でサラダ付き、炭水化物とデザートはなしの食事をとる。ステーキか鶏肉、サーモンに、ズッキーニやニンジンなどの野菜類を組み合わせる。

食べ物がもたらす肉体への変化に敏感になり、求める結果に近づけるよう学んでいくと、肉体と心理に最高の結果をもたらすことができる、とジョコビッチは語る。
 bookpicks_一読のススメ

本書は、世界最強のテニスプレーヤーであるジョコビッチが、自身を変えるきっかけになった「食事」について多くの人に知ってほしいと出版した1冊である。本稿で紹介しているのは、ほんのさわりの部分である。

ほかに、グルテンの作用についての詳細な解説や、戦時下のセルビアで育った彼の生い立ち、誰にでも簡単にできるフィットネスプラン、ジョコビッチが実際に食べている食事のレシピなどが紹介されており、彼のファンはもちろん、健康と食事に関心を持つすべての人にとって読みごたえのある内容になっている。

ぜひ手に取り、実践して、体の変化を実感してほしい。

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<提供元>
本の要約サイトflier(フライヤー)
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