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RECRUIT×NewsPicks 求人特集

事業会社だからこそできる ベンチャー投資の魅力

2015/9/8
コーポレート・ベンチャー・キャピタル、略してCVC。事業会社の中でベンチャーへ投資する部門のことを指す。今、新たにCVCを始める企業が後を絶たない。なぜ、CVCは人気なのか。どんな人が投資を行っているのか。リクルートとNewsPicksが共同で、CVCで活躍する2人のキャリアストーリーにフォーカスしつつ、CVC関連求人の情報も同時に掲載する。

ベンチャーのエネルギーで企業に新風を

「会社がCVCを始めようと言い出したとき、最初は反対したんです」と話すのは、TBS次世代ビジネス企画室投資戦略担当部長の片岡正光だ。反対した理由は大企業が手を出すには、ベンチャーへの投資はリスクが高すぎると思ったからだ。

企業の一部門が投資する限りは、キャピタルゲインがないと管理部門からはやめろと言われる。M&Aもアメリカほど活発ではないし、人口が減少局面なので、アップサイドのある市場は少なくメガベンチャーが生まれる土壌でもない。そんな環境でキャピタルゲインを上げるのは容易ではない。

経費を下げる、売り上げを伸ばすといった効果も、大企業の売上規模からすると誤差の範囲にとどまる。マネジメントの専門家がいるわけではないので、経営に深く関与することもできない。しかも、放送事業は公共財という側面があり、失敗は許されない。どう考えてもCVCを始める合理的な理由が見つからない、というのが片岡の見方だった。

そんな片岡が、いよいよCVCが立ち上がる時に自ら手を挙げたのは、実際にベンチャーをリサーチしてみて、やるべき明確な理由が見えたからだ。

「ベンチャーにはエネルギッシュで、優秀な人が圧倒的に多い。TBSの人間と一緒にやれたら面白いことが起きると確信したのです」

若者の嗜好が多様化する中で、視聴率を上げようとすれば制作現場はどうしても年配の声に引っ張られる。このままではダメだとわかっていても、過去の成功体験があるので前例踏襲になりがちで、新しいものが生まれにくい。ベンチャーのエネルギーを吹き込めば、TBSに新しい風が吹くかもしれない。そんな思いをかたちにするため、投資基準として片岡が重視しているのは、あくまでも放送事業とのシナジーがあるかどうかだ。

TBSホールディングス次世代ビジネス企画室投資戦略部 片岡正光氏

TBSホールディングス次世代ビジネス企画室投資戦略部担当部長 片岡正光氏(撮影:福田俊介)

必要なのはプラス思考、巻き込み力

今では、マネーフォワード、データセクション、アイリッジなど7社にCVCとして出資している。中でも、ソーシャルメディア分析を行うデータセクションとはすでにシナジーが生まれている。

当初は、ソーシャルメディア分析をバラエティ番組のコンテンツづくりに使うことを想定していたが、災害情報の検知に有効ではという声が報道番組の現場から上がった。このアイデアはすでにかたちになり、災害や事故が起きた現場にいち早く取材ヘリを飛ばせるようになった。

データセクションは去年12月に東証マザーズへの上場も果たしており、投資先が順調に成長していることがうかがえる。

「私自身は、新卒からずっとTBSで法人営業や事業開発をやってきました。CVCのメンバーの半分はキャリア採用です。ファイナンスや法律の知識はもちろんあったほうがいいですが、そもそも、ベンチャーはデューデリ(デューデリジェンス)しようがないことも多い。

知識よりも、プラス思考、巻き込み力やへこたれない実行力が重要です。何よりも、テレビが好き、TBSが好きという気持ちが、いろんなことを突破する力になるように思います。あえて業界で言うなら、商社の人はマルチプレーヤーが多いので向いているかもしれません」

投資することで新しい価値が生まれる

セールスフォース・ベンチャーズ日本代表を務める浅田慎二は、「CVCにふさわしい」と片岡が言う、まさに商社の出身だ。

「新卒で入った伊藤忠商事では、まず、管理部門系の部署で財務経理の基礎を叩き込まれました。商社のビジネスモデルは事業をつくっていくことなので、どんな新人も数字をつくれるようになるべきという哲学がありました」

浅田の伊藤忠でのキャリアの半分以上は、スタートアップへの投資だ。日本とアメリカを往復してシリコンバレーのベンチャーとも交渉した。実業経験の不足を感じて、自ら希望して事業会社へ出向したこともある。IT系担当として、メルカリ、Box、ユーザベースなど数々のベンチャー、スタートアップへの投資に関わった。

分野が違うところでは、電動車いすベンチャーの「WHILL(ウィル)」に投資したこともある。車いす利用者はケガなどで活動を制限され、引きこもりになる人も多い。そんな人々が、電動車いすに乗るだけで気持ちが明るくなり生活が変わっていく様を思い描き、「この会社に投資したい」と強く思った。「投資を通じて新しい価値、サービスを生むことができることが、この仕事の最大の魅力」と、浅田は言う。

セールスフォース・ベンチャーズ日本代表 浅田慎二(撮影:稲垣純也

セールスフォース・ベンチャーズ日本代表 浅田慎二(撮影:稲垣純也)

1億人よりも70億人

ベンチャー投資の魅力にとりつかれた浅田だったが、1億人よりも70億人をターゲットにできるグローバルな環境の投資をしてみたいという思いが強くなった。グローバルな環境のほうが、バイリンガルである自身の強みを生かせるに違いない。そんな思いで飛び込んだのが、米国セールスフォース・ドットコムがコーポレートベンチャーキャピタルを行っているセールスフォース・ベンチャーズだ。

伊藤忠時代の投資経験から、本当にベンチャーをサポートするためには実業を支える「仕組み」が必要だと考えていた。セールスフォース・ドットコム自体がクラウドビジネスを展開しており、すでに全世界で17万社以上の顧客を持つ。

これら顧客は、セールスフォースを初めとしたクラウドサービスを常時利用している企業なので、セールスフォース・ベンチャーズ投資先のBtoBクラウドベンチャーにも高い可能性があり、相互に営業活動ができる。これこそ、CVCが金融系VCとは異なる点だろう。

世界中のネットワーク、投資の目利きが相まって、セールスフォース・ベンチャーズは、BtoBクラウド分野に特化しながらもDropbox、Twilio、Docusignなど、評価額10億ドル以上のいわゆる「ユニコーン」への投資がグーグルよりも多い規模になっている。ダイナミックな投資の表れだろう。

どんな人がCVCに向いているのだろうか。浅田からは、「実業経験があり、インターネットが好きでたまらなく、好奇心の塊であること」という答えが返ってきた。触らずして製品の評価はできないので、まずはユーザーとしてプロダクトに興味を持てることが大前提のようだ。

ますます注目を集めるCVCは、本業とのシナジー効果をどう生み出すかという視点が求められる。これは、金融系VCとは決定的に違う点で、難しくもあり、大きな魅力でもある。あなたの興味や関心が生かせる投資で、今はまだ世の中に存在しない新しい製品やサービスが誕生するかもしれない。

(文中敬称略)