テレビ放映権論・第2回
外国人枠をなくしたら、おのずと外国人選手の質が高まった
2015/8/30
外国人枠撤廃の後にオーストリア・ブンデスリーガが生み出した、世界的に見ても珍しいオーストリア独自のテレビ放映権収入の分配システム「オーストリア人の壺」。育成促進を促す重要な仕組みになっている。今回はこのシステムによって生み出される2つのメリットを紹介する。
オーストリアのプロサッカーリーグには外国人枠がないが、その代わりに自国選手を多く使うほどテレビ放映権の分配金が増える仕組みがある。
簡素化すると、ポイントは2つだ。
・試合でメンバー入りしている外国人選手は6人以下か
・22歳以下のオーストリア人は何人いるか
四半期ごと(9試合ごと)に放映権の分配金が計算され、そのタームに1度でも外国人が6人を越えてしまうと、分配金は一切もらえなくなる。また、若手を使うほど分配金は多くなる。
こういう計算ルールがあるため、スポーツディレクターや監督が選手の補強を考える際、まずはクラブが経営戦略を決めることが必要になる。
たとえば、「金持ちクラブ」と「貧乏クラブ」なら、それぞれ次のような戦略があり得る。
【金持ちクラブ】分配金は当てにしない。好きなだけ外国人選手を使う
【貧乏クラブ】分配金をなるべく多く欲しいため、国内の若手選手でチームを構成する
メリット1:経営陣に質の高い人材が起用される
現実的にはゼロか1かではなく、予算規模と戦力、そして成績に応じて、四半期ごとに方針を変えていくことになる。極端に言えば、いくら若手で臨もうと考えていても、9連敗すれば次のタームで方針を変えざるを得ない。
経営と強化の両方のセンスが問われ、おのずと経営陣やスポーツディレクターに質の高い人材を起用するようになる。それが「オーストリアの壷」が生み出す副産物的なメリットのひとつだ。
メリット2:外国人選手の質が高まる
もうひとつの副産物的なメリットは、質の低い外国人選手を排除できることだ。
外国人選手を獲得する際には、「国内選手にはないストロングポイントを持っていること」が重要になる。そうでないと分配金からの収入を減らしてまで獲得した意味がない。必要とされるのは、いわゆる「助っ人」だ。
おのずと「優秀な外国人選手のみ」の獲得を狙うようになる(もちろんポテンシャルのある若手外国人選手が育成目的で獲得されるというケースも一部ある)。
若手の国外流出による難しさ
若手を起用するうえで難しいのは、オーストリアの一線級のタレントは国外に出てしまっている、という現状があることだ。
いわゆる「トップレベルの若手選手」はほぼ全員、国外移籍が許される16歳を越えた途端にドイツやイングランドに吸い上げられる。
現在では、ドイツのブンデスリーガやイングランドのプレミアリーグのクラブの育成部門(セカンドチームを含む)に50人以上のオーストリア国籍の選手が所属していると言われている。
もしオーストリア国内にいたとしても、すべてレッドブル・ザルツブルクにとられる。となると「トップレベルではない」若手選手でチームをつくらなければならない。
現実には「レベルB」の中で最も優れた選手達のみがオーストリア・ブンデスリーガでの出場機会を得ることができており、そのほかの選手たちはほぼ例外なくオーストリア2部もしくは3部に所属している。
さらに、「オーストリア人の若手の出場=分配金が増える」ということを業界内の誰もが理解しているため、若手選手のエージェントが市場価値より高めの年俸を要求してくることがある。
レベルBの若手だけでは間違いなく降格する
ここで厄介になるのが、オーストリア・ブンデスリーガのレベルの高さだ。
レッドブル・ザルツブルクやアウストリア・ウィーン、元日本代表監督のイヴィツァ・オシムが率いたことでも知られるシュトゥルム・グラーツなどの強豪がしのぎを削っている。
「レベルB」の若手中心にチームを構成し、多くの分配金を得る──という方針ではほぼ間違いなく降格する。
いかに「オーストリア人の壺」からの分配金が魅力的に見えたとしても、常にクラブの目標に合わせた現実的なチーム構成方針を打ち出す必要がある。
次回は、具体的なクラブ名を挙げながら、成功・失敗の実例を紹介したい。
*本連載は毎週日曜日に掲載する予定です。