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セコムは警備で実用化

全国の老朽化インフラ点検、不可能を可能に

2015/8/13
前回の記事では、アマゾンをはじめとした企業が「ドローン配送」の実現に向けて研究や実験を行っていることを紹介した。配送はドローンの用途として大きく期待されている分野のひとつだが、同じくらい期待されているのが、ドローンによる安心・安全の確保である。今回はその中からいくつかの事例を取り上げてみたい。

警備ドローンという発想

今年7月、米コネチカット州に住む18歳の大学生が、拳銃を搭載したドローンを開発し、森の中で発砲させる実験を行い、映像を「YouTube(ユーチューブ)」で公開。世界中から注目を集め、米連邦航空局(FAA)が違法性の調査に乗り出すという事態にまで発展している。

こうした危険な活用がクローズアップされてしまうが、リスクばかりが生まれているのではない。人々や社会の安全を守る取り組みも出てきている。

電気・電子工学技術の学会、IEEEが発行する雑誌の編集者を務めるポール・ワリック氏は、小学校の息子が毎日無事に学校に通えるか心配するあまり、自宅から400メートル先にあるバス停まで見送りをするドローンをつくった。

子どものカバンに設置されたGPSやビーコンを手がかりに、ドローンが自動で子どもの後を追跡し、映像を撮影する。実用レベルには達していないが、日本でも子どもの安全確認は関心の高い分野だ。

セコムが実用化を予定

一方、法人向け警備サービスへの導入は本格化している。たとえば、大手警備会社のセコムは2012年12月、自律型「小型飛行監視ロボット」という名称の装置を開発中であることを発表し、試作機を公開。今年5月の国際ドローン展では、さらに小型化された機体を出展し、近いうちに、実用化する予定であることを発表した。

実は、セコムは知られざる「警備用機器メーカー」だ。セコム工業という子会社を通じ、これまでも技術の進歩に応じてさまざまなセキュリティシステムを生み出してきた。

セコムの警備ドローンは既存のセキュリティシステムと連動し、何らかの異常が検知されると、緊急発進して現場に向かう。飛行は自律制御されており、空間情報から最適な経路を割り出す。不審者や不審車両を確認した場合、その追跡や映像撮影もでき、情報は管理センターに送信される。

ドローンの技術仕様や運用体制の構築にあたっては、セコムが蓄積してきた知見やノウハウが生かされている。たとえば、追跡している不審者が敷地外に出た場合、ドローンはそれ以上深追いするのではなく、追跡を止めて不審者が逃げ去った方向を確認。その情報を警備システム全体で共有する。

また、撮影データを抱えたままのドローンが持ち去られ、映像が不正に入手されてしまうことのないよう、ドローン本体に搭載するメモリはできる限り小さくして、データをクラウド側に送信する仕組みになっている。こうした細かな配慮は、これまでの警備サービスの現場から得られた気づきに基づいている。

ドローンは、発展途上の技術であり、まだ最適な運用法やシステム構成などは確立されていない。そのような状況では、メーカーに任せるのではなく、現場のニーズを知るユーザー自ら開発に参加するというのが有効だろう。

さらに面白いのは、セコムがこれから展開しようとしているセキュリティシステムの全体像だ。ドローンを使った低高度からの監視だけでなく、全長15メートルという飛行船を都市上空に飛ばして、不審者や不審車両に目を光らせるもの。そこから得られたデータも、中央の管理センターで集約される。

何らかの異常が検知された場合には、ドローンや人間の警備員が現場に駆けつけるという仕組みが検討されている。このように警備用のドローンは、ほかの機器や担当者と連携して、システム全体として安全の維持を実現するという姿が定着していくだろう。

今年5月に開催された国際ドローン点では、さまざまな用途のドローンが展示された。原発や被災地などの監視でも期待が集まる。 写真は、PRODRONE社の大型機PD6-B=千葉・幕張メッセで

今年5月に開催された国際ドローン展では、さまざまな用途のドローンが展示された。原発や被災地などの監視でも期待が集まる。写真は、PRODRONE社の大型機PD6-B=千葉・幕張メッセで

インフラを守るドローン

ドローンが守る対象となるのは、人間や資産だけではない。農作物や野生生物、さらには国境を見守るドローンなど、さまざまなアイデアが登場している。特に日本において期待されているのが、「老朽化したインフラの監視」だ。

1960年代の高度経済成長期、インフラが大量に整備されたが、多くは耐用年数を迎えようとしている。そのための保守やメンテナンスは数が多い一方で、必要な人員の数が圧倒的に足りていない。

たとえば、橋梁(きょうりょう)の場合、国土交通省の発表によれば、2013年には建設から50年が経過した橋梁の数は約7万1000橋と、全体の18%だった。しかし、2023年には約17万1000橋と、全体の43%になると予想される。

一方、橋梁保全業務に携わる土木技術者が存在しない市区町村の割合は、市区で14%、町で46%、村では70%に達する。また地方公共団体が用いている橋梁点検要領の点検方法は、76%が遠望目視などであり、「点検の質に課題がある」とも指摘されている。

こうした課題を解決する手段のひとつが、ドローンを使ったインフラ点検だ。たとえば橋梁の下面を点検する際には、現状では、遠くから望遠鏡で観察するか、橋梁点検車と呼ばれる特殊なクレーン状の車を用意して、橋の下に人が乗れるプラットフォームを差し込んで点検を行う。

しかし、ドローンであれば、自由に空中を移動して、近くから亀裂などを確認できる。さらにサーマルカメラを使って目視では確認できない異常も検知できる。

ただし、社会インフラは各地に大量に存在し、かつ非常に大規模なため、単にデータを自動収集できるツールが増えたぐらいでは、逆にデータを増やすばかりになる。効率化の効果が限定的なものになる恐れもあるため、ほかのさまざまな機器やシステムと連携してインフラを守るという姿が望ましい。

そうした例として、東日本高速道路(NEXCO東日本)の「スマートメンテナンスハイウェイ(SMH)」構想がある。これは、高速道路の維持管理にICT(情報通信技術)を活用するというコンセプトで、2020年の実現を目指して対応が進められている。

SMH構想の中心となるのが、「インフラ管理センター(仮称)」だ。NEXCO東日本が管理するすべてのインフラに関する情報が統合される拠点で、道路交通管制センターとも連動する予定となっている。

インフラ管理センターに集約されるのは、計測車両を通じて集められる路面の舗装状況や、人間の作業員が持つ現地状況報告支援システムに入力されるデータ、有人ヘリコプターによる早期警戒情報、橋梁などに設置された固定型センサーから送られてくる情報など多岐にわたる。

これらをまとめた大量データを分析することで、インフラの劣化予測分析や、維持更新計画の策定、維持更新費用の予測などを行うことを目指している。

この構想におけるドローンの役割は、上空から橋梁や道路を広範囲に及んで監視するということと、橋梁に近づいて表面の様子を観察することの2種類である。

5月に開催された国際ドローン展で、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋が展示した「診るこぷたー」

5月に開催された国際ドローン展で、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋が展示した「診るコプター」

広範囲の監視については、カナダのエリヨン・ラボが開発した高性能ドローン「スカウト」を使用。あらかじめ設定した飛行ルートを自律飛行させ、上空から写真を撮影し、得られたデータに基づいて人間の作業員が検査に向かう現場を絞り込むという運用が想定されている。また同じルートを定期的に飛ばせば、定点観測したのと同じデータを蓄積することもできる。

一方で橋梁に近づいて点検するドローンとして、スイス連邦工科大学ローザンヌ校発のベンチャー企業であるフライアビリティと共同開発した、球体型のドローンを使用することが検討されている。これは小型のドローンの周りに、衝突防止用の球形のガードをつけたもので、直径は40センチメートルほど。

ガードがあることで、誤って橋梁の下面や側面にぶつかっても、双方へのダメージを最小限に抑えることができる。また、搭載されるカメラは0.1~0.2ミリメートルという小さなひび割れも確認することができ、これは人間が近づいて目で見て確認した場合と同程度の精度となる。

SMH構想では、技術的な仕組みづくりに加えて、安全対策や人材育成、マニュアル整備といった運用面での仕組みづくりも進められている。人と機械が作業を分担し、ひとつのゴールに向かって進むという観点からも、これからの社会システムの在り方を占うモデルケースとなっていくだろう。

(取材・文:小林啓倫、撮影:福田俊介)

<著者プロフィール>
小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から現職。著者に『災害とソーシャルメディア』(マイナビ)、訳書に『ウェブはグループで進化する』(日経BP)など。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。