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失敗談から学ぶ、街をもっと好きになれる「徒歩15分圏内」の場づくり

失敗談から学ぶ、街をもっと好きになれる「徒歩15分圏内」の場づくり

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弦本 卓也
場所とコミュニティが描く未来弦本 卓也

あなたの街に「見た目は新しくてきれいなのに、人があまりおらず自分も訪れたことがない場所」はありませんか? もしかしたら、それはエリアマネジメントに原因があるのかもしれません。

エリアマネジメントの第一人者であるHITOTOWA INC. 代表取締役の荒昌史さんは、街の「居場所」づくりに長年取り組んできました。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。今回のインタビューでは、あえて失敗事例に焦点を当ててお話を伺います。魅力的な街づくりを成功させるために知っておくべきことは何か。荒さんのお話から、これからの街づくりのヒントを探ります。

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新しいことを始める際には何からはじめますか?「専門家100人に実際に話を聞く」。これは僕がこれまで何か新しいことを始めるときに実践してきたことです。このインタビュー企画では、「一人ひとりの可能性を活かす『場所づくり』『コミュニティづくり』」をテーマに、僕がこれまで出会って影響を受けてきた方々に改めてお話を伺っていきます!

▼弦本卓也(自己紹介記事はこちら!
「場所とコミュニティが描く未来」をテーマに本業や副業、ビルオーナーを経験し学んだ不動産×人事組織×新規事業の知見を中心に、人の可能性を活かす場所やコミュニティについて発信します。
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ー多くのエリアマネジメントを手掛けている荒さんに、今回はあえて失敗事例を中心に伺えればと思います。まずは荒さんがライフワークとしている「ネイバーフッドデザイン」について教えてください

荒さん:ネイバーフッドデザインとは、都市部や郊外における「徒歩15分圏内」の関係性をデザインすることです。ふらっと行ける距離、いざというときに助け合える距離に親しい人がいたり、居場所があったりすることが、人生の豊かさにつながります。ディベロッパーや行政から委託を受けて、まちに関わりながら地域の関係性をデザインし、コミュニティを活性化させるのが私の仕事です。

場所や空間の持つパワーは、素晴らしいと思っています。その場所にいるだけで、人々の考え方や行動、性格すらも変えることがあります。会議室だったら「きっちりしなきゃ」と背筋が伸びますし、青空の下だとのびのびした気分になりますよね。そのパワーをうまく活かせていないと、全然人が滞在しない、もったいない場所になってしまいます。場所の持つパワーをどう使い、管理するかが重要なのです。

立ち上げ初期の運営に関わったエリアマネジメント団体「まちにわひばりが丘」主催イベント「にわジャム」の様子

失敗事例①:目的が曖昧なままで場所だけをつくってしまう

ーエリアマネジメントに興味がある人も多いと思いますが、よくある失敗としてどのようなものがありますか?

荒さん:よくあるのが目的が曖昧なまま、先に場所だけをつくってしまう事例です。都市開発や公共施設の開発では、まだまだ先にコストだけを算出して企画してGOを出すことが多く見られます。その結果、見た目は良い感じの建物だけど、実は使われ方やターゲットが曖昧という場所が結構あるんですね。特にパブリックスペースやコモンスペースは、誰かが専有して使うものではないため曖昧になりがちです。やはり目的を考えてから場所をつくることが、とても重要だと考えています。

実際に「もう図面も決まっていて数カ月後にオープンするのだけど、使い方を考えてほしい」という依頼をしてくる事業者や行政はある程度います。でも本当は、きちんと目的を考えてからつくることがとても大事です。当たり前の話だと思う人もいるかもしれませんが、意外と後回しにしてしまいがちです。その結果、使われない場所がたくさんできてしまうのですね。

ー目的を最初にしっかり考えないと失敗するということですね

荒さん:そうですね。あとは自分の考えた手段から入ってしまうケースもあります。私はこの仕事をはじめたころ、提案型で物事を考えていました。「HITOTOWAオリジナルのもの」「HITOTOWAだからこそつくれるもの」を確立しようとしてしまっていました。

それ自体は、決して悪いことではありません。しかし、実際にその街に暮らしている人の気持ちを若干置き去りのまま、自分たちだけが「いいな」と思うものをつくろうとしてしまっていたのです。しかし、この方法ではうまくいきませんでした。たとえば、過去に自分が企画したイベントの参加者が0人だったことがあります。相手のことを考えていない企画だったからです。その後は、実際にその街に住んでいる人の気持ちになって考えることで、どんどん企画の精度が上がっていきました。

ー参加する側の気持ちになる必要があるということですね

荒さん:あとは他の街で流行ったものをそのまま持ってきてしまうケースもありますね。これも完全にNGというわけではありません。ただ、他の街で流行ったものが本当にその街でも流行るかというと、それはまた別の話です。

ディベロッパーも行政も、そして私たちも、当然良いものをつくりたいと考えています。しかし、その良いものが必ずしもその地域にとって良いものとは限りません。あくまで主体は使い手であるべきなのです。

解決策:場所単体ではなく、自然な形の連続性を意識する

ー目的を考えるにあたって、どのようなことに気をつければよいでしょうか?

荒さん:一つ目は、場所の使われ方だけを考えるのではなく、外部空間との連続性を意識することです。みんなが自然な形でその場所に入れるための動線づくりが、とても大事です。あえて隠れ家のようにする方法もありますが、少しでも違和感があると誰も入って来ません。

二つ目は、街をマクロな視点で見てみることです。そうすることで、場所の一つひとつに役割があることがわかります。それに気づかないまま、同じような役割の空間をつくっても意味がありません。もちろん、同じものが複数あった方がうれしい場合もあるでしょう。しかし、もう少し相互補完的な関係をもたせた空間の方が活用されやすくなりますし、選択肢が豊かになります。広い視点で考えることが大事なのです。

人気がある場所、人々が交流して楽しんでいる場所には必ず理由があります。HITOTOWAがエリアのプロジェクトマネジメントをさせていただく時は、その地域を丁寧にリサーチして、その街の特徴や暮らす人たちのライフスタイルをしっかり想像しながら取り組んでいます。

生活している人たちが求めているのは、ドラスティックな変化ではありません。もっとさりげない「こんな場所があったらいいよね」です。理想を押し付けるのではなく、本当に大切なものをゆっくり、じっくりと浸透させていくことが大事なのです。

運営協力をしている「まちのね浜甲子園」が運営するコミュニティスペースの前に自然と人が集まる様子

失敗事例②:善意のある市民に運営を押し付けてしまう

ー他にはどのような失敗事例がありますか?

荒さん:採算が合わないからといって、善意のある市民に運営を押し付けてしまうケースがあります。

コロナがあって移動ができなくなり、遠出する機会が減ったことで、逆に「うちの近所に、こんな良い場所があったのか」と新たな発見をした経験はありませんか?コロナ禍を経て、ますますネイバーフッドの価値が再認識されています。

ただ、場所づくりを採算を含めて成り立たせるのは本当に難しいことです。そこには何らかの工夫・イノベーション・投資・頑張りが必要になります。しかし住民が主役というのを「住民が運営する」に置き換えてしまっているケースがとても多いです。「みなさんが運営もしてくださいね」みたいに言われても、場所の運営っていきなりできるものではないですよね。「人がいればいいでしょ」だけでは場所づくりは成り立ちません。その人が去った途端に、その場所は運営できなくなってしまいます。

自助・互助・共助・公助という言葉もあります。しかし、採算が合わないからといって住民に任せるというのは、これらの概念とは異なるのです。

解決策:チームで運営し、地域の想いを引き出す場所をつくる

ーボランティアの善意に頼らない仕組みをつくるには、どうすればいいでしょうか?

荒さん:ネイバーフッドデザインは、地域の人間関係のデザインでもあります。どうしてもトラブルもありますし、合う・合わないもあります。「あの人さえいれば成り立つ」ではなく、チームとしてしっかり運営していくことが大事です。

その場所がさまざまな取り組みのハブになったり、情報の発信源や収集源となるよう、プロが介在してお金を稼ぐ仕組みをつくることです。「場所は用意しました。あとは住民のみなさんで頑張ってください」では、うまくいかないですね。

ーボランティア精神ではなく、自発的に「自分たちでやりたい」と思わせられるような設計が大切ということでしょうか

荒さん:そうですね。地域の人たちの潜在的な想いを引き出していくことがとても重要です。普段から明確に「これがほしい!」と考えながら暮らしている人は、あまりいないですからね。その舞台を整えてあげるのが本当のネイバーフッドデザインだと考えています。

拠点づくりだけがエリアマネジメントではない。地元の方と協力して運営したマルシェ「​​PICNIGOOD sokamatsubara(ピクニグッド ソウカマツバラ)」の様子

誰かの人生に立ち会い、つながりを紡ぐ仕事

ー荒さんがネイバーフッドデザインをしていて、良かったことやうれしかったことは何ですか?

荒さん:誰かの人生の変化に立ち会えることですね。私たちが運営しているスペースで赤ちゃんだった子が小学生になり、中学生になって地域の子どもの面倒を見てあげている姿を見ると、グッと来るものがあります。また、地域の人たちがその場所で井戸端会議をしたり、挨拶を交わしている姿を見ると「この場所がなければ、この会話は生まれなかったんだな」と感慨深いです。このようなさりげないコミュニケーションの積み重ねが、安心感につながり、居場所をつくっていくのだと考えています。いかにも「The・居場所」みたいなハコをつくるのもよいのですが、大切なのはその前に関係性を構築することなのです。

ーパッと燃え上がるよりも、その場所にいるとじんわりと暖まっていくというイメージでしょうか

荒さん:はい。そのような場所を紡ぐ仕事に出会えて、幸せですね。

ーネイバーフッドデザインに興味がある人は、どのようなことからはじめていけばよいでしょうか?

荒さん:日常を「当たり前」ではなく、人と人との関わりによって生まれるものだととらえることです。その街に息づくあらゆるものは、誰かによって守られ、運営されています。街で知っている人にすれ違ったら挨拶したり、行きつけの店のスタッフに「おいしいですね」と声を掛けたり、誰かに感謝したりすることが、ネイバーフッドデザインの小さな一歩なのです。

あとは、好きな場所をSNSで拡散したり口コミで誰かに伝えたりしてたくさん「好き」と伝えることや、好きな場所をたくさん「使う」ことも大事ですね。使うことが、その場所へのリスペクトや感謝につながります。

ー身近にあるところから街に溶け込んで、感じてみることからはじめてみるとよいのですね

荒さん:そうですね。HITOTOWAがプロデュースした場所には、時々自発的にゴミ拾いをしたり、草むしりをしたりしてくれる人たちがいます。きれいに保つことが、子どもたちが安心して訪れる場所につながります。そういったことに対して当たり前だと思うのではなく、感謝する気持ちが大切です。

ビジネスパーソンが街に出ることで地域の価値が高まる

ー荒さんの今後の構想を聞かせていただけますか?

荒さん:ネイバーフッドデザインにもつながる話なのですが、東京郊外をフィールドとして、緑豊かなお庭や緑地風景を感じられる住まいを残し、増やすような不動産業をやりたいと考えています。

日本では放っておいても木々や草が育ち、花を咲かせます。そして、やがて森になっていきます。それは日本には温暖な気候と豊かな風土があるからです。他の国では人工的に肥料を与えないと草も生えないような場所もあります。

一方で、日本の都市部では人口が減っていくにもかかわらず、家がどんどん狭く窮屈になっていく傾向があるのです。本来、豊かな環境にあるにもかかわらず、スプロール化(都心部から郊外へ無秩序、無計画に開発が拡散していくこと)が進んでいます。本当は、もっとよい地域の暮らし方・住まい方ができるはずなのです。

心意気としては、もう東京郊外を森に返すような、それくらいのことをやりたいですね。

ーとても素敵ですね。そのような自然と共存する住まいづくりで、人と人との関わり方もどう変わっていくのか、興味深いです

荒さん:ネイバーフッドの人間関係は、煩わしいこともありますし、合う・合わないもあります。正直に言って面倒くさいことも多いですよね。しかし、ネイバーフッドそのものがなくなることはおそらくありません。だからこそ、デザインが必要なのです。

もちろん、理想なのは隣近所の人たちと仲が良いことです。しかし「必ず仲良くしなければならない」と思うのは大変です。私は、もう少し緩やかに広いエリアで捉えた方が幸せを感じられる機会が増えます。ですから「徒歩15分」なのです。

この記事を読んでくださっている方はビジネスパーソンが多いと思いますが、私は忙しいビジネスパーソンが街に出ることが大事だと考えています。ビジネスパーソンが街で活躍することで、その街の価値は高まります。ぜひネイバーフッドに興味を持っていただけるとうれしいです。

「ネイバーフッドデザイン×不動産ビジネス」の相乗効果で持続可能なまちと暮らしをつくることを目指す取り組みも

インタビューを終えて

今回、荒さんからお話を伺って、両隣に限らない、徒歩15圏内のネイバーフッドの関係性をつくっていくことの大切さをあらためて再認識しました。川路さんの話でも、都市部において希薄になりがちな人々のつながりを「ちょうどいい距離感」と表現していましたが、共通しているなと感じました。

僕もビルを購入しコミュニティを運営する経験をする中で、事業者が奇をてらおうとすること、行政が流行の事例を取り入れたがるという場面をたくさん目にしてきました。主体となるのは、あくまでも住民の方々です。住民の声を聞き、地域の文脈を活かすことが大事なのだということがよくわかりました。

ビジネスパーソンは、街にとって貴重な人材です。みなさんも、ぜひ自宅の近くや働く街の特徴や、良いところに目を向けてみるのはいかがでしょうか。

荒 昌史さん

荒 昌史/HITOTOWA INC. 代表取締役
大学卒業後、住宅ディベロッパーに入社し、環境共生住宅やマンションコミュニティの企画に携わる。2010年にHITOTOWA INC.を創業し、ネイバーフッドデザイン事業を通じて、都市の社会環境問題の解決に挑む。エリアマネジメント「まちにわ ひばりが丘」などのプロジェクトを手掛け、まちづくりとコミュニティ形成に貢献。著書に『ネイバーフッドデザイン』があり、近年では、緑豊かな宅地風景を継承するための「ひととわ不動産」を創業。趣味は愛猫との昼寝と埼玉西武ライオンズの応援。

トピックスオーナー:弦本卓也(自己紹介記事はこちら!) 
「場所とコミュニティが描く未来」をテーマに本業や副業、ビルオーナーを経験し学んだ不動産×人事組織×新規事業の知見を中心に、人の可能性を活かす場所やコミュニティについて発信します。


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コメント


注目のコメント

  • 弦本 卓也
    弦本ビル株式会社 代表取締役

    今回は、まちづくりやエリアマネジメントの"よくある失敗例"をHITOTOWAの荒昌史さんにお話しいただきました!

    まちづくりは行政や事業者が予算をとってから主導することが多いからなのか、そこに生活する人を見ずに進めてしまうケースがあるんだろうなと感じました。

    ・目的が曖昧になってしまう
    ・他事例や手段から入ってしまう

    また、期間限定で完成後は運営から離れてしまうケースが多く、"作って終わり"になってしまい、その結果

    ・善意のある市民に運営を押し付けてしまう

    ことで上手くいかない場合があるというのも納得です。

    「徒歩15分圏内」のネイバーフッドとの関係性をデザインすること、そして生活している人が求めているのは意外とドラスティックな変化ではないというのも非常に興味深かったです!


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