[東京 8日 ロイター] - 政府部内ではギリシャ情勢と中国景気悪化をきっかけにした日本株の大幅下落に対し、「想定外の逆風」との声が出ている。外部環境変調の長期化に対する懸念も浮上、アベノミクスの先行きは濃霧に包まれつつある。

株価の大幅下落が止まらず、企業や家計の心理が落ち込めば、補正予算の議論も浮上しかねない情勢となりそうだ。

「ここまでの情勢悪化は想定外だ」──。日経平均<.N225>が600円を超える下落となった8日、政府内ではギリシャや中国情勢の影響を懸念する声が浮上した。

というのも、ギリシャ問題がこじれ、回復途上の欧州景気を冷やしかねないことに加え、中国経済の調整も長期化が予想され、一時的な外部環境悪化と言えなくなってきたからだ。  

こうした中で政府部内では、外的なショックが今後、表面化してきた場合、それに耐えられるほどの「腰の強さ」はまだ、備えていないというのが、政府の本音だ。

ようやく消費税の影響が消えて回復基調に入ったと思われた家計も、8日発表の景気ウォッチャー調査は2カ月連続の悪化となった。食品値上げが直撃したとみられている。

株高資産効果やインバウンド需要、春闘賃上げといった好材料はそれなりにあるものの、ちょうどこのタイミングで様々な日用品が値上げされた心理的影響が現れた形だ。

根っことなる日本人の消費の足腰が強くなく、海外需要も米国だけで世界経済を支えられる時代は終わっているため、国内生産が盛り上がらない、との見方を政府は固めつつある。

政府関係者の中からは「景気が緩やかに回復しているとの政府判断は、いわば気合に過ぎない」との声も漏れる。

とはいえ、安倍晋三政権には来年の参院選や再来年の消費税引き上げというスケジュールを控えて、景気回復とデフレ脱却を目指さなければならない事情がある。

今年4─6月期は、これまでの経済指標からみて、マイナス成長転落の可能性がささやかれている。先々のスケジュールを考えれば、7─9月期に消費中心の景気回復が実現するかどうか、その点がカギになるとの見方が政府部内にはある。

さらに来年の景気を見据えれば「2014年度税収上振れ分で補正予算を編成するべきとの話が、出ることは間違いない。国土強靭化などやることはいくらもある」(政府関係者)という声も出ている。

今後の外部環境をみるうえで、ギリシャ、中国にとどまらず、米国の利上げも大きなポイントになる。8日の東京市場では、日本株の下落が目立ったが、今後は為替への影響も見逃せない。

8日の市場では、リスクオフに傾き、円高方向に振れたものの、米利上げの動き次第では大幅な円安に振れる可能性も否定できないと、政府内では市場変動の振幅の大きさを懸念の声もある。

1ドル125円まで円安が進行した際には、さすがに「行き過ぎ」と話す政府関係者もいた。関係者の一部が円安を懸念する背景には、円安による一段の物価高が家計をこれ以上直撃することは避けたいという思惑もあるという。「アベノミクスは物価高が目的ではない。単にコストを上げただけになって、そもそも景気がよくならないとだめだ」という政府サイドのスタンスは、今年に入り変わっていない。

アベノミクスが念願のデフレ脱却を視野に入れるには、世界経済の嵐が来ても長期にわたるデフレに戻らない強靭さを備える必要がある。

そこまでの距離はまだ遠いと見方が、政府部内では多かった。そこに早くも想定外の嵐が吹き荒れてしまった。

政府の景気判断も「今月は、少なくとも上方修正という選択はなくなった」(政府高官)ことは確かなようだ。

(中川泉 編集:田巻一彦)