2024/9/6

異色の急成長企業。「着るだけで整う」ベンチャーの正体

NewsPicks Brand Design Editor
 働き方改革やコロナ禍を通じて、健康であり続けることの価値が見つめ直され始めた現代。
 しかし、日本人の睡眠時間の短さは、OECD加盟国の中でワーストを記録。超高齢化社会を迎える2025年問題、医療費や介護費の増大、人生100年時代と日本は健康問題が山積みだ。
 TENTIALはそんな課題に立ち向かうべく、アスリートが競技パフォーマンスを最大化させるために日々実践するセルフケア「コンディショニング」を軸に据えたツールを開発。
 コンディショニングとは、ライフパフォーマンス向上のために、体調に関わるすべての要因を良い状態に整えること。この未病予防にもつながるアプローチを誰もが簡単に日常へ取り入れられるよう、一般医療機器の服や機能性インソールなどを展開している。
 同社が手がけるリカバリーウェア「BAKUNE」は、発売から3年で70万枚を販売。店舗数の増加も止まらず、9つの直営店のほかに、ショップインショップは80店舗を突破した。
 SaaS企業ではないものの、売上の推移がT2D3の成長曲線に近いグラフを描き、飛躍を遂げている。
 ここまで読んで、TENTIALをアパレルメーカーだと思う人がいるかもしれない。
 しかし、同社が掲げる使命は、健康に前向きな社会を創ること。健康づくりの基盤を整備する会社を目指しているのだ。
 この巨大なイシューに切り込むために、どのような戦略を企てているのか。創業者でCEOの中西裕太郎氏に聞いた。

単なるアパレル企業ではない

──TENTIALはウェアやサンダルなどを展開していますが、数多あるアパレル企業やスポーツブランドと、なにが異なるのでしょうか?
中西 一言で表すと、“コンディショニングカンパニーであること”でしょうか。
埼玉県出身。プロサッカー選手を目指した高校時代に病気で夢を絶たれた原体験を持ち、起業に関心を持つ。株式会社インフラトップ(現・DMM Group)の創業メンバー・事業責任者を務めた後、株式会社リクルートキャリア(現・リクルート)で新規サービスの商品企画・事業開発と経験を積み、2018年にウェルネス関連事業の株式会社TENTIALを創業。翌年に、ウェルネスブランド「TENTIAL」を立ち上げた。人がポテンシャルを発揮するためには健康で前向きな生活が重要と考え、スポーツコンディショニングを社会に還元できる仕組みづくりを目指している。
 2030年にヘルスケア市場は国内は37兆円、世界は525兆円へと、驚異的なスピードで成長する予測が出ています。
 私たちは単なるアパレルメーカーではなく、この大規模なマーケットに挑んでいる企業だと自負しているんです。
 その志のもと、コンディショニングサービスを主軸として、健康の土台を築くことを経営の根幹にしています。
 コンディショニングとは、アスリートなら誰もがやっている自己管理のひとつ。競技や試合などで最高のパフォーマンスができるよう、日頃から心身を良い状態に整えておくアクションです。
 このコンディショニング、最大の特長は健康を日常的に維持できること。
「なんだか体調が優れない」「症状のせいで集中できない」といった状態で働くビジネスパーソンは多い。
 事実、肩凝りや腰痛、睡眠不足などのプレゼンティーイズムによる労働損失は、19.2兆円(出典:Medicom)にもなるという試算も出ています。
 しかし、コンディショニングを習慣化すれば、特別な一次予防をせずとも、自分の体調を良好に保ちやすくなる。その結果、仕事のパフォーマンスを高めることができ、労働生産性も向上する。
 この可視化されにくい健康課題を解決するために、「TENTIAL」というブランド事業で、生活の中にコンディショニングを組み込める製品開発をしています。
 主力はリカバリーウェアの「BAKUNE」。一般医療機器のパジャマで、着て寝るだけで疲労回復や肩凝り、腰痛の緩和が期待できます。
──パジャマなのに一般医療機器なんですか?
 ええ、BAKUNEは一般医療機器の届出を完了しています。
 では、なぜ着用するだけで疲労や凝りなどの緩和が期待されるのか。理由は、極小のセラミックス粉末を独自配合した特殊機能繊維「SELFLAME®︎」を使っているからです。
 着用者の体温(遠赤外線)が生地と肌の間で輻射することで、血行が促進される仕組みになっています。
 また、人は一晩で数回〜数十回寝返りを打つと言われていますが、睡眠の質を高めたり、血流を促したりする効果があるんです。そのため、体をスムーズに動かせる服の構造を研究し、パターン(型)に落とし込みました。
 社内には大学や製薬会社の研究所出身者もいて、彼らが主体となって実証実験に取り組んでいます。それにより、ヘルスケア系のメーカーなどと開発プロセスはかなり近い気もしています。
──例えば、どのような実証実験をしていますか?
 最近ですと、NTT東日本グループやパラマウントベッドと共同で行いました。
 NTT東日本グループと実施したのは、同社の従業員の睡眠課題について、TENTIAL製品を用いて解決するといった検証実験です。睡眠起因の年間経済損失額が、一人あたり20万円以上削減できたという調査結果が出ました。
 ほかにも、物流の2024年問題に向けて、大橋運輸と睡眠専門医の白濱龍太郎医師と一緒に、ドライバーの睡眠課題解決のための実証実験も行いました。
 どちらも、従業員の睡眠の質が改善し、労働生産性の向上にも繋がる可能性が示されました。このような健康経営への貢献を見出せたことは、大きな成果だったと実感しています。

アスリートの“当たり前”をビジネスパーソンはできていない

──そもそも、なぜ中西さんはコンディショニングに目を向けて起業したのでしょうか?
 私が元々アスリート側だったからですね。ずっとサッカー少年だったんです。
 地元の強豪校に進学し、インターハイに出場。夢だったプロへの希望が見え始め、目指そうと思ったタイミングで狭心症と診断されました。その後、入院や検査をしたり、カテーテル手術をしたりで、もうサッカーをすることはできないと悟りました。
 当時、自由に走り回れない、ベッドから出られない、学校にも行けないという衝撃がすごくて。
 また、同じ病室に生活習慣病の方がいて、カーテン越しに先生と患者、家族の会話が聞こえた際、「健康って当たり前じゃないんだ」「健康は自分だけのものではないんだ」と痛感しました。
 そこから、スポーツ以外で自分ができることを模索し始めました。ただ、社会経験を積む中で、みんな意外と健康に気を使っていないと思う体験が度々あったんです。
 私はスポーツをしていたので、日頃からコンディショニングを無意識に行ってましたが、他の人にとっては普通ではないんだと知って。
 このスポーツの知見や経験を応用することによって、なにかできるのでは?そう考えて23歳の時に会社を起こしました。
 なので、創業時から大切にしてきた「コンディショニングを一般化する」という根っこの思いは現在も変わっていませんし、これから先も変わることはありません。
──ビジネスとしては、どのような展開を狙っていますか?
 私たちが現在展開するリカバリーウェア、インソール、サンダルなど、製品ごとの競合はいます。
 ですが、“24時間365日コンディショニングでサポートする会社”といったトータルでの意味合いでは、同じような企業はまだ存在していないんです。
 今は生涯を通じて挑戦する人を支え続けるために、コンディショニングを実装できるようなモノに特化して製品開発をしています。
 パジャマやインナーを変えるだけ、愛用している靴にインソールを入れるだけなど、身近で簡単なひと工夫でできるコンディショニングの提案です。
 将来的にはコンディショニングという視座のもと、モノ以外の事業領域へと広げたいと考えています。
 心身の状態を整えるセルフアクションは、ひとつの動作で完結するものではありません。食事や運動、休養、睡眠など範囲は多岐にわたっています。
 今後、食事やウェアラブルデバイスといった領域や、法人に向けた健康経営の提案は、間違いなく可能性があると考えています。
 ただ、そこへ思いっきり踏み込んでいくには、既存のアプローチをしっかりとグロースさせなければならない。
 世界展開を含めて、今の事業をコントロールできたら、次のフェーズへと進みたいと構想しています。

目指すはグローバルで1兆円規模

──コンディショニングという大きな市場の中で、TENTIALは今後どのような成長を描いていますか?
 売上がすべてではありませんが、私は1兆円規模を目指したいと思っています。健康市場におけるコンディショニングを軸とした領域で、その売上を記録した会社はまだありません。
 実現する手法はすでに描けているんです。やはり、“本質的に良い物を作って届ける”というシンプルなビジネスモデルを大切にすることだと考えています。
 BtoCだけで例えれば、仮に単価が2万円だとすると、5,000万人の手元に商品が渡れば目標達成です。意外と実現可能に思えてきませんか?
 また、コンディショニング×アパレルの分野で考えると、ベンチマークとなる会社はいくつもあります。例えば、高機能なヨガウェアなどを販売するグローバル企業のルルレモン・アスレティカ。2024年1月期の通期業績の売上高は、約1.4兆円(円換算)です。
 こういう企業がグローバルにあることを鑑みると、アパレル事業だけでも期待値の高さがうかがえると思います。
──そんなコンディショニング×アパレル領域の中での、TENTIAL独自の強みを教えてください。
 一番は、データドリブンかつ内製主義でものづくりをしていることでしょうか。
 外注委託は製造と物流のみ。企画、開発、マーケティング、小売、カスタマーサポート、ECサイト制作などは、すべて自社内で完結しています。
 その内製化で得た情報を使って、AI活用やデータ基盤の制作をし、回転を速めることに成功しました。
 正直、日本のアパレル系の会社でここまでやっている、そしてできているのは、TENTIALだけではないかと感じています。
 さまざまな分野の優秀なプロフェッショナルが集まって働いていますが、エンジニアやIT企業出身のメンバーが多いことも、デジタル中心のものづくりが叶った要であると思います。
勤務体制はフルリモート。出社したい派の人に向けて、カフェ、フリーアドレス、仮眠室などオフィス環境も十分に整備している。社員のコンディショニングをサポートする取り組みも欠かさない。
──社員数も3年前の15名から、現在では100名を超えるまでに急拡大しています。TENTIALのこれからの勝ち筋とは?
 まずは市場規模。「健康」は日本だけでなく世界共通のテーマです。
 そして、世界で活躍している日本発のものづくり企業はとても多い。トヨタ、ユニクロ、アシックスなど、あげたらキリがありません。
 そう、昔から日本は製造業で世界に勝てるポテンシャルを持っているんです。まずは国内でシェアを伸ばしてから、次にグローバルに挑んだ再現性を示した先人たちがいる。これは大変心強いことです。
 また、必ず成長するであろう巨大なマーケットに属し、全人類が必要とする事業に寄与できるという掛け算を持つスタートアップは、そう多くないのではと考えています。
 その高い目標を叶えるために現在、仲間を増やしています。
 ポテンシャルを秘めた原石、そしてコンディショニング産業を切り開くパイオニアになりたい方に、ぜひ仲間になってもらいたいですね。