ゴールドマン・サックスの新戦略はオンライン融資
2015/06/29, The New York Times
普通の市民への貸出
創業から146年。ゴールドマン・サックスは強力で特権的な銀行として、ウォール街をけん引してきた。
そのゴールドマンが新たな事業に乗り出そうとしている。個人のクレジットカード負債を一本化するローンや、台所の改装資金を融資するのだ。
これから具体的な計画を立案する段階だが、普通の市民に総額数千万ドル規模の貸し出しを行うことになる。ウォールストリートの投資銀行が、メインストリート(実体経済)の銀行や消費者金融会社と競合する。
新しい消費者ローン部門は、Webサイトやアプリを介して貸し付けを行う。ウォール街で最も古い投資銀行のひとつが「バーチャル銀行」になるのだ。支店や窓口担当者のコストがかからないため、より低い金利を提示しても利益を確保できるだろう。関係者によると、来年には貸し出し業務を始められるように準備を進めるという。
ゴールドマンの新しい戦略は、テクノロジーを使って従来の金融業を破壊しようとしているスタートアップと、同じ方向を目指すという意味でもある。金融業界はメディアや小売業と違って、「オフライン」を中心とするビジネスモデルからの脱却があまり進んでこなかった。
オンライン融資の功罪
ただし、かなり大きなリスクを伴う挑戦でもある。ゴールドマンは金融危機以降、住宅ローンの差し押さえで家を失う人々を尻目に利益を得ていると非難されてきた。消費者ローンで借り手を追い詰めれば──たとえば、困窮している家族を滞納で訴えたら──銀行は市民を犠牲にして利益をむさぼるというイメージが復活しかねない。
個人への貸し付けは、ゴールドマンにとってほとんど経験のない、比較的リスクの高いビジネスでもある。何しろ借り手は、いざというときの金銭的な蓄えが限られている。
「ゴールドマンがこの30~40年にやってきたビジネスはすべて、商業的な側面を重視しており、自分たちに近い世界ばかりだった」と、オッペンハイマーの銀行アナリスト、クリス・コトウスキは言う。「プログラマーを何人か雇って、オンラインで1万5000ドルを貸すことが、付加価値の高い金融戦略であるはずがない」
それでも、新しいローン事業は、ゴールドマンがアメリカのメインストリーム経済で存在感を高める戦略のひとつになるだろう。
8400億ドル規模の消費者金融市場は、レンディングクラブやプロスパーなどスタートアップの躍進で、大きな変化に直面している。さらに、決済サービス大手のペイパルも小口ローンの提供を始めている。
彼らのような新規参入組は、今のところ市場のごく一部にすぎない。それでも、事業コストが低いことを考えれば、支店や窓口担当者の莫大なコストという遺産を抱える旧来の銀行の事業を侵食することも可能だと、アナリストは指摘する。
サンドラー・オニール&パートナーズの銀行アナリスト、ジェフリー・ハートは、「オンラインで提供するローンは、信用供与のあり方に大きな混乱をもたらす可能性が高い」と指摘する。
ウォール街では、ゴールドマンは変わりつつある企業を見極めて機会を逃さない手腕で知られている。彼らが「リスクを適切に評価して、システムのアルゴリズムで価格を決めることができれば、低いコストで参入できるかもしれない」と、ハートは言う。
金融サービスの変革とともに
新しい部門を率いるのは、5月に入社したハリット・タルワー。元ディスカバー・フィナンシャル・サービシズのクレジットカード部門の責任者だ。ほかにも消費者金融業界のエグゼクティブ数人に打診していたことは、ゴールドマンが新事業をいかに重視しているかという証でもある。
複数の関係者によると、ゴールドマンで誰もが憧れる「パートナー」の肩書きを用意して口説いたという。年内には最大で100人体制になる見込みだ。
ゴールドマンはこの件で公式なコメントを出していないが、タルワーの入社を報告する文書で、ロイド・C・ブランクファインCEOとゲイリー・D・コーン社長兼COOは次のように語っている。「消費者や中小企業に金融サービスを提供する従来の方法」は、テクノロジーとデータ分析によって「根本から作り変えられている」。
ゴールドマンはすでに、預入資産が1億ドルを超える超富裕層の個人を顧客としている。新しいローン事業は、資産はそれより少ないが、信用度の高い個人が中心になる。住宅や自動車などの担保を必要としない無担保融資となり、より高い金利を設定できる。最終的に、銀行から融資を得るのに苦労する中小企業も顧客になるだろう。
「資産区分全体の中で、アメリカの無担保の消費者借り入れが最も有望だろう」と、バークレーとシティグループの銀行部門の元幹部ニック・クレメンツは言う。クレメンツが共同設立したサイト「マグニファイマネー」は、借り手がクレジットカード会社やローン会社の条件を比較できる。
新規貸付業務の当初の資金は、ゴールドマンが近年、順調に数字を伸ばしている譲渡性預金から調達する。事業が拡大すれば、ローンを証券化して保有分のリスクを減らすこともできるだろう。
個人ローンの落とし穴
ただし、消費者金融事業は、リスク管理に長ける企業にとっても、根本的にリスクが高い。多くの借り手にとって個人ローンは、家庭や会社のキャッシュフローの問題を切り抜ける最後の望みだ。
「個人ローン事業を急激に拡大しすぎると、喜べない驚きに直面することもある」と、コンサルタント会社アリックス・パートナーズの金融サービス・プラクティス部門のマネジングディレクター、ウィリアム・N・カレンダーは言う。
さらに、市場は既存のメインストリートの銀行を好むという傾向も乗り越えなければならない。ゴールドマンがより安い金利を提供できても、消費者は習慣から、従来のクレジットカード会社や個人ローンを選ぶかもしれない。
クレメンツが言うように、「銀行にとって最大の武器は、消費者の惰性」だ。(文中敬称略)
(執筆:MICHAEL CORKERY and NATHANIEL POPPER、写真:Sara Krulwich/The New York Times、翻訳:矢羽野薫)
© 2015 New York Times News Service
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注目のコメント
ゴールドマンのことを良く思わない輩たちが、金を返す気の無い連中が結託してこのサービスを使い、ゴールドマンを困らせるかも知れない。おごりがあると、落とし穴があるか知れない。リテールは機関投資家とは違う。本件の行方に注目したい。
GSがネットで個人に小口貸出して、ローン債権を大量に作り出し、これを証券化して、機関投資家に高い格付に見せかけて売り飛ばすところまでが一つのビジネスパッケージ。
つまり、サブプライムローン事業と同様に、新規オンライン融資業は仕入れであり、本当の顧客は機関投資家で、ゴールドマンの本業である。
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