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W杯2次予選初戦 日本 0-0 シンガポール

サーカス的ドローでわかった日本代表に足りない「何か」

2015/6/17

足りない。何かが足りない。

日本サッカーには勝つための「何か」が欠けていると思わざるを得ない、痛恨のスコアレスドローになってしまった。

2018年ロシアW杯に向けて始まったアジア地区予選のシンガポール戦で、いつも通り日本はチャンスメイクの才能を存分に発揮した。

キックオフ直後には右サイドへ走った本田圭佑にロングボールを入れる奇襲が成功しかけ、前半4分には長谷部誠の縦パスを本田がピタリと止めて、ドリブルで切れ込んでシュートを打った。その後もオフサイドになった本田の裏への飛び出し、香川のボックス内からの鋭いシュートなど、立ち上がりからビッグチャンスの連続だった。

シュート数は23本対3本で、支配率は65.7%対34.3%。日本が圧倒的に攻めていたのは数字からも明らかである。

20150616vsシンガポール

ドイツで揶揄される「サーカス」

だが、いくら日本人が「内容」「過程」「スタイル」を重んじる国民だとしても、ここまで公式戦で「結果」が伴わないと我慢の限界である。

昨年のブラジルW杯では1勝もできず、特に第2戦のギリシャ戦では10人になった相手を仕留めることができなかった。今年1月のアジアカップ準々決勝ではUAE相手に1点しか奪えず、PK戦の末にベスト8で敗れた。そして今回のシンガポール戦のドロー……。

ドイツでは、結果につながらない派手なプレーは「サーカス」と揶揄される。ここ最近の日本は本番で通用せず、まさに曲芸的だ。

いったい日本サッカーには何が足りないのか。

局地戦で完全に負けていた

シンガポール戦においてスコアと同じくらいショックだったのが、「ボールを奪えなかったこと」だ。

今、ハリルホジッチ監督は「縦に速く攻めるサッカー」を、選手たちに植え付けようとしている。ボールを失ったときにすぐに奪い返すことができれば、互いの陣形が崩れているため、そこから縦に速く攻めるとビッグチャンスになる。

選手には狭いエリアで何度も方向転換をする高度なスプリント力が求められるが、もし実現できれば、たとえ相手が自陣に引きこもろうとも組織を破壊できる。モダンフットボールのトレンドのひとつだ。

当然、日本の選手たちはシンガポール戦でそれにトライしていた。ボールを失った瞬間、近くにいる選手が相手を取り囲んだ。

だが、そのプレスがほとんどハマらなかった。

シンガポールの選手は意外に足下の技術があり、柴崎岳や宇佐美貴史が近づいてもボールを動かしてドリブルでかわしていた。特にキャプテンマークを巻いた14番のハリッス・ハルンは体も強く、柴崎の寄せを何度も弾き返した。これではハリルホジッチ監督の「縦に速い」狙いを出しようがない。

3人で囲んでもボールを奪えない

はっきり言って、この日の日本は「局地戦」で完全に負けていた。中盤における個人の球際の強さは明らかに相手のほうが上だった。

試合を見ていて、ふと思った。日本は「組織」ではアジア一だが、「個人」としては平均レベルにまで落ちているのではないか──と。

もちろん柴崎のパスセンスや、宇佐美のドリブルは、世界のどこに出しても誇れるレベルだ。だが、サッカーにおける「個」の力とは、「自分でボールを扱う」技術と「相手からボールを奪う」技術が対になったものだ。どちらかだけでは、局地戦で劣勢を強いられる。

象徴的だったのは、後半8分の場面だ。

日本のクリアが宙に上がり、まず柴崎が相手と競り合うも頭に触れない。すぐに柴崎はこぼれ球をキャプテンのハルンと争ったが、先に取られてしまった。本田がすかさず体をねじ込んでボールをつっついたが、こぼれ球を拾った長谷部がハルンに体を寄せられて、奪われてしまう。つまり3人で1人に負けたのだ。

そこから大きくサイドに展開され、11本もパスをつながれてしまった。どちらが格上かわからないシーンだった。

本田圭佑のFKは惜しくもバーを直撃。チーム最多の計7本のシュートを放ったがゴールにはつながらなかった。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

本田圭佑のFKは惜しくもバーを直撃。チーム最多の計7本のシュートを放ったがゴールにはつながらなかった(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

個人の戦闘力がない

もはやこれは日本サッカーの育成の問題と関係しているように思う。

育成段階でチームとしての「組織戦術」に重きを置く一方で、「ボールを奪う」「ボールを奪われない」という「個人戦術」がおろそかになっているのではないだろうか。

これは個人の「戦闘力」という言葉に置き換えてもいい。

もし個々の「戦闘力」が欠けているのであれば、どんな名将が来ても限界がある。アジアのレベルが上がっており、「組織戦術」だけではごまかせない時代が訪れようとしている。

ここまで局地戦で弱かったら、もはや監督の責任ではない。選手個人の問題だ。

アジアカップとシンガポール戦を経た今だからこそはっきりとわかるが、本田が2014年W杯に向けて必死に発信していた「個」というスローガンは、本質をついていたのだ。

個人の戦闘力を上げられなければ、日本はアジアの盟主から転落する。