米アップルは米国時間の20日、タブレット「iPad」の最上位機種である「iPad Pro」やデスクトップパソコン「iMac」の新モデルを発表した。どちらも、アップルが2020年11月に発売したノートパソコンなどに初めて採用した独自開発のCPU(中央演算処理装置)である「M1」を搭載。処理性能を大幅に高めた。

 「100万対1というコントラスト比を実現した」。アップルがオンライン発表会でこう誇ったのが、新型iPad Proのディスプレー性能だ。「ミニLED」と呼ばれるバックライトをアップルとして初めて採用した。

ミニLEDをバックライトに採用した12.9型のiPad Proのディスプレー(画像:アップルの発表会の動画をキャプチャーしたもの)
ミニLEDをバックライトに採用した12.9型のiPad Proのディスプレー(画像:アップルの発表会の動画をキャプチャーしたもの)

 ミニLEDは、液晶ディスプレーの背面全体に微小なLEDを格子状に並べて照らす方式。区切った細かい領域ごとに明るさを変えられるのが利点だ。ディスプレーの側面にLEDを並べて導光板を一律に光らせる方式に比べて、ディスプレー全体で見たときのコントラスト比を高めやすい利点がある。

 アップルは今回、前世代のiPad Proに利用していたLEDに比べて大きさが120分の1のものを採用。12.9型のディスプレーに1万個以上のLEDを敷き詰め、2596個もの領域に区切って明るさを制御するようにした。

ディスプレーを2596の領域に分けて領域ごとに明るさを調節する(画像:アップルの発表会の動画をキャプチャーしたもの)
ディスプレーを2596の領域に分けて領域ごとに明るさを調節する(画像:アップルの発表会の動画をキャプチャーしたもの)
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 100万対1というコントラスト比は、アップル製のプロ向け32型ディスプレーと同じだ。価格が4999ドル(国内価格は税込み58万2780円)の「Pro Display XDR」は、576個に分けた領域ごとにLEDを1個ずつ配置して明るさを調節していた。高額な専用ディスプレー以上にきめ細かく制御できるディスプレーを、1099ドル(国内価格は税込み12万9800円)という普及価格帯のモバイル機器に搭載したことにiPad Proのインパクトがある。

 これは、アップルにとっての「現実解」といえそうだ。アップルはスマートフォンの「iPhone」シリーズに6.1型などの有機ELディスプレーを採用しているが、タブレットには液晶ディスプレーを採用してきた。有機ELはスマホ向けの小型とテレビ向けの大型で量産効果による原価低減が進むものの、タブレットやノートパソコンに使う中型は価格が高い状況が続く。最上位機種のiPad Proであっても有機ELを使うのは得策でないとアップルは判断したようだ。

「マイクロLED」を本命視か

 次世代のディスプレーに向けた布石とみることもできる。アップルが以前から本命視しているとされるのが、ディスプレーの表面に敷き詰めた赤・緑・青(R・G・B)のLEDを直接光らせる「マイクロLED」方式のディスプレーだ。14年にはマイクロLEDディスプレーの技術を持つ米国のスタートアップ、ラックスビューテクノロジー(LuxVue Technology)を買収している。

 マイクロLEDは消費電力や輝度、コントラスト比、寿命などの性能で液晶や有機ELよりも優れるとされる「夢のディスプレー」だ。一方で、製造が難しく、コストが高いという課題があった。ただ、量産技術は徐々に向上しており、スマートグラスを手掛ける米ビュージックスは21年中にマイクロLEDを使う製品を発売すると表明している。

 1万個ものLEDを搭載したiPad ProのミニLEDディスプレー。マイクロLEDの実用化を目指すアップルにとって重要な一歩になりそうだ。

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